215.中庭で、ティータイム。

 今度こそ終わりかと思ったら、最後にアンナ辺境伯から話があった。


 以前俺に貴族としての屋敷を提供してくれるという話があったが、その追加のようだ。


 この領都は、円形の外壁に囲まれた巨大な円形の都市だ。

 面積としては、『マグネの街』の二十倍以上おそらく二十五倍程度はあるようだ。


 円形の中心部分に、城壁に守られた領城がある。


 そこから同心円状にエリアが分かれていて、領城に一番近い円形のエリアが貴族たちの屋敷があったエリアだそうだ。『貴族エリア』と呼ばれているらしい。


 次に同心円状に広がっているエリアが、『高級エリア』といわれている高級住宅街のようだ。


 その次の同心円状のエリアが『中級エリア』で、住宅や店舗など雑多な……ある意味一番賑わう場所らしい。


 最後の同心円状のエリアが『下級エリア』となっていて、下町的な場所になっており、工場や住宅、一部農地もあるようだ。


 俺にはまず『貴族エリア』の北東のブロックを丸ごと与えられるらしい。約三十万平方メートル(30ヘクタール)もあるとのことだ。

 一般的なドーム球場の約六個分の面積になる。


『貴族エリア』には、この区間ブロックが全部で八ブロックあるようだが、そのうちの一ブロックを全て提供されるらしい。

 アンナ辺境伯が大きな屋敷と庭園を建ててくれるとのことだが、それでも使い切れないので、それ以外のスペースは自由に使うようにとのことだった。


 そしてこれとは別に、俺の事業用の土地として、北東の『中級エリア』の一ブロックを丸ごと与えるとのことだった。

 この『中級エリア』の一ブロックは、なんと百万平方メートル(100ヘクタール)もの面積があるそうだ。


 俺にそんなに提供していいのかと思って尋ねると……


 元々領内の貴族が持っていた土地などは、死亡したために領の帰属になったらしい。


 その土地を唯一の貴族である俺に与えることは、一種の俸禄ともいえるし問題ないそうだ。

 また、この領を救った報奨として考えれば、もっと提供してもいいくらいなので、遠慮せずに受け取ってくれと言われた。

 そして早く事業を起こして、復興の牽引力になってほしいとのことだ。


 まぁアンナ辺境伯なりの謝礼と支援なのだろう。

 俺としても、まとまって土地があるというのは、効率が良くなるからありがたいけどね。


 その話の流れの中で、領都の土地の再開発いわゆる都市計画のようなものについても、意見を求められた。


 基本的に、エリア分けは今までのものをそのまま使うようだ。


 俺が大量に設置した仮設住宅は、一番外周の『下級エリア』いわゆる下町エリアに設置してあるので、そこの再開発が一番最後になり、『中級エリア』や『上級エリア』の開発が先のようだ。


 ただ各エリア、全てが破壊されているわけではないので、一新することは意外と難しいようだ。

 残っている建物は有効に使った方がいいし、何よりも住んでいる人や所有者がいるから破壊するわけにはいかないのだ。

 ほとんどが破壊され、ほんの一部だけ残っているようなブロックは、代替えの土地や建物を与えて移転を進めることもあるようだが。


 俺に与えられたブロックは、更地に近いくらい破壊された場所の一つだったようだ。


 意見を求められたが、中々いいアイデアが出ない。

 全てが破壊され、全くの更地なら自由に構想することもできるのだが……。


 この制約の中で、できることを提案してみた。


 円形になっている領都を、現状の上級や下級といった分け方とは別の切り口で、四分の一ずつ四つのエリアに分ける。

 ピザやバームクーヘンのような分け方だ。

『北東エリア』『南東エリア』『南西エリア』『北西エリア』と四つのエリアに分けて、各エリアに大きな広場を作る提案をした。


 普段は屋台を出したり、人が賑わう場所にする。

 何かあったときは、集合場所や避難場所にする。

 できれば地下シェルターのようなものを作れるのが一番良いが、すぐにできなかったとしても広場として確保しておけば、後でいくらでも作ることができる。


 現時点ではこの程度しか思い浮かばなかったのだが、なぜか即決で採用された。



 そんなこんなで、やっと会議も終わり、みんなで中庭でお茶をすることになった。


 中庭に移ると、リリイとチャッピーがソフィアちゃん、タリアちゃんと楽しそうに駆け回って遊んでいた。『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラと『スピリット・タートル』のタトルも一緒だ。


 トーラは、最近いつもチャッピーと一緒にいる。

 タトルも、最近はリリイと一緒にいることが多い。

 チャッピーはトーラに騎乗し、リリイはタトルの甲羅の上に直立で騎乗し、競争していたりする。

 タトルは亀なのに意外とスピードがあって、トーラとチャッピーのコンビと互角に戦っていたりするのだ。


 今はソフィアちゃんがタトルに乗って、タリアちゃんがトーラに乗って楽しそうにしている。


 俺たちが会議している間は、リリイとチャッピーはいつもソフィアちゃんとタリアちゃんと一緒にいる。

 勉強も一緒に参加させてもらっているらしい。


 そして訓練も一緒にしているようだ。


 今回ユーフェミア公爵に同行しているセイバーン公爵軍の近衛隊長に、剣の手ほどきを受けているのだ。


 近衛隊長は三十代後半の、男臭い感じのイケメンマッチョだ。

 名前をゴルディオンさんという。

 セイバーン公爵軍の兵士は皆そうだが、威張ったところがなくて気さくないい人だ。

 何よりも子供が大好きなようで、リリイたちの前に出るとまだ三十代だというのに好々爺のような感じになってしまう。


 剣の訓練は、ソフィアちゃんとタリアちゃんも積極的に取り組んでいるようだ。


 そしてなぜかレントンは、休憩時間などにはユーフェミア公爵の膝の上にいる。

 なんとなく公爵に拉致された人形状態みたいになっているが……まぁレントンも楽しそうだからいいけど……。


 『竜馬』のオリョウと『スピリット・オウル』のフウは、厩舎のところで飛龍たちと楽しそうに話をしていることが多い。

 フウは飛べるので、自由にいろんなところに出かけたりもしているようだ。

 『ロイヤルスライム』のリンもオリョウたちと一緒にいることが多いようだが、フウと同じように自由に外出もしているようだ。

 『家精霊』のナーナは『家馬車』の方に出現しているときは、オリョウたちと楽しそうに話をしている。ただ、大体は『マグネの街』の家の方に出現して、サーヤの仕事を手伝っているようだ。

 『ミミック』のシチミは、カバン状態で俺と一緒にいることが多い。


 お茶が運ばれてきたので、みんなでガーデンチェアに腰掛けて香り高い紅茶を楽しんだ。



「渡そうと思って忘れてましたが、訓練のときなどにこれを着てください。できれば普段から着てもらうと何かあったときに安心です」


 俺はそう言いながら、魔法カバンから取り出した『インナー装備』をソフィアちゃんとタリアちゃんに渡した。


「リリイとお揃いなのだ! 」

「チャッピーともお揃いなの! 」


 リリイとチャッピーが嬉しそうに自分の服をめくって『インナー装備』を見せる。


 『マグネ一式標準装備』に組み込まれているインナーの子供サイズのものを渡したのだ。

 タリアちゃんのはリリイたちと同じサイズで良かったが、ソフィアちゃんには大きめのものを作った。


 そして公爵や辺境伯やシャリアさんたち三姉妹にも渡した。


 朝からの尋問を終えて、丁度やってきたクリスティアさんにも渡すことにした。


「まぁ、私にまでいただけるのかしら。軽くて薄いけど頑丈そうな装備ですわね。ありがたく頂戴いたしますわ」


 クリスティアさんはそう言って、喜んで受け取ってくれた。


 そして『インナー装備』を、側で控えていた護衛の女性騎士に渡した。


「エマ、どう思う? 」


 そう訊かれた女性騎士は、受け取った『インナー装備』に向けて正拳を三回繰り出した!


 ————パンッ、パンッ、パンッ


「かなり優れたものと思います。これほどの薄さと軽さで、強度は十分ですね」


 エマと呼ばれた女性騎士はそう言って、『インナー装備』をクリスティアさんに戻した。


 昨夜はクリスティアさんだけ先行して飛竜で来たので、エマさんは馬を飛ばして後から到着したようだ。


 クリスティアさんは、改めてエマさんを紹介してくれた。


 エマさんは、黒と紫の中間のような珍しい髪色をしている。

 肩のあたりにかかるセミロングだ。

 年齢は、クリスティアさんの一つ下の二十二歳とのことだ。

 王国の近衛騎士団で『第三位』の格付けを持っているらしい。

 近衛騎士団の中で三番目に強いということのようだ。

 実力主義のようで、「女性でも年齢が若くても近衛騎士団では上位にいける」と自分のことのようにクリスティアさんが胸を張っていた。


 どうもクリスティアさんとエマさんは、ただの主従関係では無く友人のような親しい関係のようだ。


 ユーフェミア公爵の話では、セイバーン公爵軍の近衛隊のゴルディオン隊長と同等かそれ以上の実力があるとのことだ。


 凄い実力のようだ。

 もっとも第一王女の護衛だから、そのぐらいの実力があって当然といえば当然だが。



「この前も見たけど、やっぱり軽くていいね。これなら普通の服の下にも着れそうだから、アンナたちもいつも身に付けときな。何かあったときのために」


 ユーフェミア公爵がそう言って、改めて評価してくれた。


「そうですわね。そうさせていただきます。グリムさんありがとう」


 アンナ辺境伯がそう言って、笑顔を向けてくれた。


 俺はエマさんにも、予備の『インナー装備』をプレゼントした。


 リリイとチャッピーは、クリスティアさんとエマさんに初めて会うので、少しもじもじしている。

 挨拶のタイミングを逃してしまったようだ。


 俺はクリスティアさんとエマさんに改めて仲間たちを紹介した。


「エマ、このちびっ子たちはね、下手したらあんたより強いかもしれないよ。あたしやシャリアよりも強いくらいなんだから」


 ユーフェミア公爵が自分の子供の自慢をするかのように、リリイとチャッピーを前に出して鼻息を荒くした。


 エマさんは冗談だと思ったのかニヤりと笑っていたが、公爵の瞳の真剣さに気づき表情を変えた。


「この子たちがそれ程強いのですか? 興味深いです。是非一度お手合わせを」


 エマさんは、そう言ってリリイとチャッピーに大仰に礼をとった。


「リリイは強いのだ! お姉ちゃんにも負けないのだ! 」

「チャッピーも強いなの! 一緒に訓練したいなの〜」


 二人がそう言って目を輝かせた。



 リリイとチャッピー対エマさんの二対一の打ち合いの訓練が始まった。


 やはりエマさんは相当の腕前のようだ。

 リリイとチャッピーを相手に、互角に戦っている。

 一対一なら、エマさんの勝利は間違いないだろう。


 もっともリリイとチャッピーは魔物を相手にした倒してしまう戦いは得意だが、対人戦は経験も少なくあまり慣れてないから本来の強さは発揮されてないけどね。


 二人とエマさんの訓練という名の勝負が続いた。

 なにか三人とも楽しそうだ。


 そして周りの俺たちは、なぜかその様子を肴に紅茶を楽しんでいる。


 途中から我慢できなくなったシャリアさんと、近衛隊長のゴルディオンさんが一緒に稽古に参加し、最後にはユーフェミア公爵まで入っての大訓練大会になっていた……。


 なんでこうなった……?







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