216.組織の、活動目的。

 俺達は中庭でのティータイムを終えて、再び会議室に戻ってきた。


 厚化粧の女の二度目の尋問を終えたクリスティアさんから報告を受けるためだ。


 クリスティアさんによれば、『正義の爪痕』の活動目的は大きく二つあるとのことだ。


 一つは、『現体制の破壊及び既得権益を持つ王族貴族の抹殺』


 今の世の中を歪めているのは王族や貴族で、その悪に対して正義を成すと謳っているらしい。


 『一人の力は小さくても、自分を犠牲にしてでも正義の爪痕を残す』それが行動原理となっているとのことだ。

 追い詰められたときには、自分の命を捨てて少しでも正義の爪痕を残すという刷り込みがされているようだ。

 それが自爆テロもいとわない彼らの基本思想であることが判明したのだ。


 そしてもう一つの目的は『古の魔法機械文明を復活させ、より良い生活を人々にもたらす』ということらしい。


 この二つの目的により、現状に不満のある人々を取り込み、破壊活動を正当化させているようだ。


 すべての問題や不満を現体制、そしてその象徴である王族や貴族のせいにして悪意の種を植え付ける。

 そして、正義の名の下に破壊活動をさせる。

 その後に新しく魔法機械文明を起こし、幸福な世の中を作る。

 みんなが幸せに暮らせる世界……そんな甘い夢を見させるのがやり口のようだ。


  二つの目的は、一見すると正しいようにも見えるからタチが悪い。

 やっていることは、無関係な人を巻き込んだ無差別殺人と、罪もない人を拐って道具のように扱う非道な行為なのに……。

 なぜ構成員達がその行いに疑問を持たないのか……不思議でならない。


 もしかしたら……最初に甘い言葉で引き込んで、なんらかの手段で洗脳状態に置いているのかもしれない。

 本当に世の中を良くしようと思っているなら、あんな非道な行いは耐えられないと思うんだよね。



 他にも組織の情報で判明したことがあったようだ。


 四博士のうち『薬の博士』『武器の博士』『道具の博士』と呼ばれる三人は、有名らしいが最後の一人は情報がでない謎の存在のようで、通称『謎の博士』と呼ばれているらしい。


 『道具の博士』と呼ばれる者が、蛇型の魔物をある程度の範囲で操れる道具を開発したと噂されていたと厚化粧の女が証言したようだ。

 ただ詳しいことは知らず、そんな道具があると聞いたことがあるという程度のようだ。


 どうも魔物の襲撃に蛇魔物が絡んでいるのは、この道具が影響してるのかもしれない。


 そしてあの白衣の男と悪魔の襲撃の際にも、蛇魔物が他の魔物を追い立てるように各市町に攻め入ったことを考えれば、白衣の男と『正義の爪痕』は何らかの繋がりがあると考えた方がいいかもしれない。


 ただ両者の動きを見る限りにおいては、それほど強い繋がりがあるとは思えない。

 ほとんど連動してないからね。


 それに蛇魔物を操ったのは、悪魔由来の別の力かもしれないしね。

『支配の首輪』を使っていたくらいだから、その系統のアイテムを使った可能性もあるし……。


 もう一つの可能性は、白衣の男はこの領の領主や貴族を憎んでいたから、貴族を抹殺するという点において『正義の爪痕』と目的が一致し、限定的な協力関係にあり道具の提供を受けた可能性も考えられる。


 まぁいずれにしろ現時点では想像の域を出ないから、これ以上は考えても無駄だね。



 それから……どうも組織には四博士以外にも幹部がいるらしい。

 具体的な名前はわからないし、トップが誰なのかも厚化粧の女は知らないようだ。


 活動拠点についても、有効な情報は持っていなかったらしい。

 セイバーン公爵領にいたときに使っていたアジトの情報は聞き出せたようだが、既に廃棄されているのであまり意味は無いようだ。


 かなり情報統制が取れた組織のようで、自分が関係する情報以外はそもそも知らされないらしい。

 誰も全容を知ることがないように、統制されているようだ。


 やはり侮れない組織だ。

 おそらく相当な幹部を捕まえない限りは、組織の全容を明らかに出来ないのではないだろうか。



 以上が新たに判明したことで、これ以上の情報は出てこないだろうとのことだ。


 俺が潰した三つのアジトから捕縛した構成員が連行されてきても、厚化粧の女以上の情報が得られる可能性は低いだろう。



 この件は直ちに王都にも報告され、各領に『正義の爪痕』への警戒と討伐の命が出されるだろうとのことだ。



 俺は、魔法機械文明について興味があったので訊いてみた。


 俺がダンジョンマスターをしている『テスター迷宮』を作ったのも『マシマグナ第四帝国』という魔法機械文明の国だったはずだ。


「魔法機械文明と言えるほどの大きなものは……近い年代でいえば、約三千年前に滅亡した『マシマグナ第四帝国』だろう……」


 ユーフェミア公爵が顎に手を当てて、記憶を辿るように教えてくれた。

 要約すると……


『マシマグナ帝国』といわれた超巨大文明が存在し、約一万五千年前に滅亡している。

 一万年近く続いた超文明だが、現存する遺跡や遺物はほとんど無いといわれている。


 その三千年後に『マシマグナ第二帝国』という新たな魔法機械文明が現れた。

 失われた『マシマグナ帝国』の再興を目指して、それを成し遂げたといわれている。

 ただこの帝国も千年ほどで滅亡した。


 その更に三千年後に、今度は『マシマグナ第三帝国』を標榜する勢力が国を起こし、魔法機械文明を築き上げたが、これも千年ほどで滅亡した。


 そして更に三千年後に『マシマグナ第四帝国』を名乗る国が出現し、同じく千年ほどで滅亡した。


 最初の『マシマグナ帝国』は別にしても、その後の模造品みたいな帝国は三千年周期で出現しては千年で滅亡というのを繰り返している。

『呪いの千年』とか『千年の壁』とかいわれているらしい。

 本家の『マシマグナ帝国』の呪いという者もいるとのことだ。


 そして公爵は最後に個人的な見解を述べた。


「『マシマグナ第四帝国』が滅んでから約三千年経つから、“第五帝国”が興きても不思議ではない。三千年周期の何かの力が働いているのかもしれない。

 まぁ馬鹿げた話だが、『正義の爪痕』はもしかしたら第五帝国を作ろうと思っているのかもしれないね。

 もしかしたら四博士という奴らは、なにかしら過去の帝国の技術を手に入れて、それを基に発明してるのかもしれない。あの連射の出来る吹き矢なんて魔法機械文明っぽいからね」


 公爵はそう苦々しげに言うと、紅茶を口に運んだ。


 公爵の話では、過去の文明の遺跡は最近ではほとんど発見されないが、まだ未発見の遺跡が残っている可能性もあり、そこで何かしらの技術や資料を手に入れている可能性はあるとのことだ。


 もしかしたら『テスター迷宮』のように、他にも『マシマグナ第四帝国』の迷宮や遺跡が残っていて、『正義の爪痕』がそれを見つけ、その技術を使ったり再現しようとしているのかもしれない……。


『テスター迷宮』は現在再起動中で、『迷宮管理システム』のダリーに連絡をとることができないから確認しようがないが……。





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