213.決意の、復興式典。

 救出作戦を終えた俺たちは、領都近くの転移用ログハウスに転移した。


 応援に来てくれた『マグネの街』居残り組は、サーヤとともに戻ってもらった。


 戻る前に少しだけ報告を聞いたが、マグネの街の『フェアリー商会』各部門は、順調に運営できているようだ。


 特に『フェアリーパン』が繁盛しだしているらしい。

 俺が『マグネの街』を出発した後に、ホットドック用の柔らかめのフランスパンを『やわらかパン』という名称で売り出したところ、数日のうちに評判になったようだ。


『フェアリー商会』本部屋敷正門に作った受付棟のパン直売コーナーで販売しているのだが、昨日あたりから行列ができているらしい。


 俺的にはそれほど柔らかくないのだが、『やわらかパン』は柔らかくて美味しいと評判のようだ。


 これに気を良くした調理スタッフたちが、新製品を試作中らしい。


 俺が前に商品開発の例として挙げた『レーズンパン』を試作しているようだ。


 干しぶどうは『フェアリー商店』で取り扱っているので、すぐにやろうということになったらしい。

 パン生地自体も甘くして、甘いお菓子のようなパンを目指して試行錯誤中とのことだ。


 屋台販売のホットドックも大ヒットしているので、パンの製造が追いつかなくなってきてスタッフも追加雇用するそうだ。


 他にも、おっさんだけのむさ苦しい『家具工房』と『鍛治工房』にも、『ぽかぽか養護院』の子供たちや避難民の子供たちなどを中心に数人の見習いが入り、職人たちが猛烈なやる気を出して若手の育成を始めたらしい。


 やはり自分の技術を受け継いでもらえるというのは、励みになるよね。


 俺が『マグネの街』を立ってから六日しか経っていないのに、いろんなことが進んでいる。

 サーヤを中心に、みんな本当に良くやってくれているようだ。


 そんな嬉しい報告を聞けて、俺の心は少しほっこりしていた。


『薬の博士』は取り逃したが、女性たちは助けることができた。


 プラスの面に焦点を当てて、前を向こうと思う。



 実は、もうすぐ式典が始まるというギリギリの時間なのだ。


 本当はもう少し早く帰って来れたのだが、急遽追加で二箇所のアジトを回って救出することになったので、式典に間に合うギリギリの時間に帰ることにしたのだ。


 いくら飛竜を全力で飛ばしたとはいえ、三箇所を回るのは時間を要するので、時間の辻褄を合わせるためにギリギリの時間に戻ることにしたのだ。


 移動距離を考えると、これでもかなり疑わしいのだが……まぁしょうがないだろう。


 飛竜に乗っているのは、俺とリリイとチャッピーだ。俺に同乗するかたちでニアもいる。


 リンたち人型でないメンバーは、領城で留守番していることになっているので、先にサーヤの転移で『家馬車』のところに戻ってもらっている。


 俺たちは、三体の飛竜に騎乗し領城を目指す。



 本当に式典が始まる直前で、領城の正門前にかなりの人が集まっている。

 悪魔による襲撃事件で領城周辺は破壊され更地になっているので、人が集まるスペースは十分にあるのだ。

 領城の正門の上には、大きな広いステージが作ってあって、領民に向けて話をしたりできるようになっている。


 俺たちが飛竜で近づくと、集まった領民たちから歓声が湧き上がる。


 どうもイベント的な演出と思われたようだ。


 厩舎に降り立つと、シャリアさんが待ち構えていた。


「もう遅すぎますわ! 式典が始まってしまいます! 心配したんですのよ。だから私も行くと言ったのです! 」


 怜悧な美人のシャリアさんが、腕組みしながらほっぺを膨らませている。

 ちょっと可愛いかも……。


「すみません。『薬の博士』はいなかったのですが、やはり女性たちが囚われていたものですから。しかも他にもアジトがあって、女性たちを助けに行っていたのです」


 俺がそう言うと……シャリアさんは驚き、真顔に戻った。


「わかりました。それでは仕方ありませんわね。救出ありがとうございます。今は時間がありません、まずは城内にお願いします」


 そう言ってシャリアさんは、俺たちを城内に促した。



 城内の広間に着くと……アンナ辺境伯と娘の二姉妹、ユーフェミア公爵とユリアさん、ミリアさん、審問官で第一王女のクリスティアさん、この領の文官たち、護衛兵たちが待っていた。


 俺は、アンナ辺境伯の前に歩み出て跪く。


「グリム=シンオベロン、あなたに名誉騎士爵の爵位を与えます。この領のために力を尽くしてください」


 アンナ辺境伯はそう言いながら、ピグシード家の紋章の入った短剣を俺に差し出した。


「謹んでお受けいたします。ピグシード辺境伯領のために微力を尽くします」


 俺はそう言いながら、両手を差し出し短剣を受け取った。


 これで授爵は終了した。


 よくわからないが、俺のために簡潔にしてくれたようだ。


 他に貴族の身分を示す『貴族証』というのをもらった。


 そして俺たちは正門上の広場に移動した。



 俺たちが姿を現すと、民衆から大きな歓声が上がった。


「私はアンナ=ピグシード、これから女辺境伯としてこの領を必ずや復興させます!」


 アンナ辺境伯がそう宣言すると、更に大きな歓声が沸き上がった。


 どうも魔法道具を使って、辺境伯の声を広範囲に届くように拡張しているらしい。


「多くの領民を救った英雄グリム=シンオベロンに騎士爵の爵位を与え、貴族といたします!」


 続けて辺境伯がそう宣言すると、更に歓声が湧いた。


 俺は一歩前に進み出て、手を振る。


 何か……俺の一言を求めるような無言の圧にさらされて……


「皆さん! 一緒にこの領を復興させましょう!」


 一言だけ挨拶したのだが、更に凄い歓声が上がってしまった。


「「「シンオベロン! シンオベロン! シンオベロン!」」」


 そして壮大な「シンオベロン」コールが巻き起こってしまった。


 もう頭が真っ白になったので、すぐに一歩後ろに下がった。


「そしてこの領を救ってくださった“妖精女神”様こと、ニア様からお言葉をいただきます!」


 続けてアンナ辺境伯は、ニアによる宣言を促した。


 ニアは、ノリノリで飛び出た!


「私ニアが宣言するわ! このピグシード辺境伯領は必ず復興を遂げる!そしてこの私が全力で守護することを宣言するわ! さぁみんな気合入れて行くわよ!」


 そう言うとニアは……ピグシード家の紋章となっている指鉄砲のポーズをとった。


 おそらく、ニアなりの演出なのだろう。


 俺的には結構残念感が漂っているが……民衆にとってはそんなことはないようだ。


 大歓声が巻き起こった。


 そして『妖精女神』コールと『ニア』コールが交互に起こった。


 俺たちはしばらく手を振っていたが、いつまでたっても歓声とコールが鳴り止まないのでアンナ辺境伯が歓声を一旦制して、閉会の宣言をした。


「これにて式典を終わります。これより祝いの品として皆さん全員に食事と飲み物を配布します。十分な量がありますから、慌てずゆっくり受け取って下さい!」


 そう言うと、また大歓声が巻き起こった。


 こうして、式典は無事終了した。


 ちなみに食料の提供は俺も協力した。

 魔物の肉が大量にあるからね。


 炊き出しのときと同じように、焼き場も何カ所か作ってその場で肉が焼けるようにした。


 飲み物として酒類も全て無料で提供され、城の備蓄もほとんど放出したようだ。


 傷ついた領都だが、今日は明るく賑やかな波動が渦巻いていた。





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