180.川遊びと、おにぎり。
その後俺達は、南門を出てすぐの『フェアリー農場』を訪れた。
新しく作った水田を見せる為だ。
なんとお米は、セイバーン公爵領でも作っているとの事だ。
ただ公爵家の食事には、お米が出る事はほとんど無いらしい。
そんな事もあり、俺の米に対するテンションはあまり理解してもらえなかった感じだ。
まぁそれはともかく、折角来たので昨日好評だった小エビの補充を兼ねた川遊びをする事にした。
リリイとチャッピーは下着だけになって、豪快に川の中に飛び込んでいる。
それはいいけど……リリイ達……泳げるのかなあ……
川岸はともかく真ん中に行くと、結構深いと思うんだけど……
「リリイ、チャッピー、泳げるの? 」
俺は不安になって確認した。
「泳ぐって何なのだ? 」
「チャッピー泳げるなの〜 。湖で泳いでたの〜」
おお、チャッピーは泳げるようだ。
そしてリリイは泳ぐという事を知らないようだ……
……危なすぎるじゃないか!
俺は慌てて服のまま飛び込んで、二人のところに向かった。
そしてリリイに泳ぎ方を教えた。
といっても顔出し平泳ぎだ。
俺は顔出し平泳ぎしか出来ないのだ。
クロールとか出来ないんだよね。
やってみても、ほとんど進まないし……。
海とかで遊ぶ時には顔出し平泳ぎが楽だから、もうそれしか出来なくなってしまったのだ。
チャッピーはどうやら自己流の泳ぎ方のようで、なんとなく犬かきっぽい。
そしてやはりチャッピーも顔出し状態で泳いでいる。
やっぱり遊ぶ時は、顔出し泳ぎが基本だよね……。
シャリアさんとユリアさんとクレアさんは、小エビ獲りにハマったらしい。
キャッキャ言いながらやっている。
クレアさんは最初は「護衛ですから」と遠慮していたが、二人に促され一緒にやりだしていた。
三人は最初は川岸から網で獲っていたのだが、途中から川に入り込んで半円形の大きな網をごそごそと川岸に当て付ける方法で大量ゲットしていた。
俺達が遊んでる間にサーヤとミルキーが、川岸近くでご飯を炊いてくれている。
遊びに夢中で忘れていたが、もうとっくにお昼は過ぎていた。
今日のお昼は、『おにぎり』にしようと思っている。
前回『フェアリー農場』で『おにぎり』を作った時には、孤児院の騒動で途中で抜けてしまったからね。
そして今日は、『塩むすび』ではない。
『おにぎり』界のエース、『鮭おにぎり』を作るつもりだ!
この前ゲットして塩漬けしおいた『紅マス』を鮭として具に使う。
鱒は元々鮭の仲間だ。
というより、昔は鮭の事も鱒と呼んでいたと何かの本で読んだ事がある。
この世界の『紅マス』が俺の元いた世界の鱒と同じかわからないが、見た感じ同様に使えると思う。
だからあえて『鮭おにぎり』と呼ぶ事にする。
そしてこの前採取した川海苔も乾燥して出来上がっているので、海苔を巻いたオーソドックスな『鮭おにぎり』を作ろうと思う。
俺はリリイ、チャッピー、アッキー、ユッキー、ワッキーに泳ぎを教えているので料理ができないが、事前にサーヤとミルキーに教えてあるので、二人が作ってくれる事だろう。
ちなみに俺達の中で一番泳ぎが上手なのは『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラかもしれない。華麗な“猫かき”で優雅に泳いでいる。
見た目がリクガメの『スピリット・タートル』のタトルは、水には入らないで川辺を散歩している。
『
『ロイヤルスライム』のリンはビーチボール状態で俺達と一緒に遊んでいるし、ニアも空中から川にダイブしてびしょ濡れになって遊んでいる。
残念ながら『トレント』の存在をまだ解禁していないので、レントンは『家馬車』の中で盆栽状態だし、同じく『ミミック』も街中で人助けをした事はあるが、正式には解禁していないのでシチミはカバン状態だ。
でも二人は、家精霊のナーナと楽しく話をしているようだ。
俺達はもうかなり特異な存在として認識されてしまったので、『トレント』や『ミミック』も解禁してもいいような気もするが……。
もう少しだけ様子を見ようと思う。
『スピリット・オウル』のフウは、空中から水面に突っ込んでは巨大な魚をゲットしている。
まさにハンターだ。
フウが獲ってくれる大量の魚と、シャリアさん達が夢中で獲っている大量の小エビで相当持ちそうだ。
リリイは飲み込みが早くて、もう顔出し平泳ぎが出来ている。
水に対する恐怖感が無いようだ。
というか、恐怖感を感じる前に教える事が出来たのが、良かったのかもしれない。
今は楽しそうにチャッピーとトーラと一緒に、回るように泳いでいる。
シャリアさんとユリアさんとクレアさんは途中で何か吹っ切れたのか、完全にびしょ濡れになりながら小エビを獲っている。
「小エビを獲るのがこんなに面白いなんて、なんで今までやらなかったのかしら」
「全くですわね。川遊びがこんなに楽しいなんて……小魚もいっぱい採れました」
「私も川遊びは久しぶりで楽しいです」
しばらくして、 三人は小エビ漁に満足したようで、今度は泳ぎだした。
三人とも泳げるようだ。
綺麗な顔出しクロールで俺達の方に向かって来る。
ほぼ肌着でびしょ濡れ状態なので、俺は目のやり場に困ってしまい、三人にリリイとチャッピーの面倒を頼んで川から上がった。
何かぶつぶつ言っていたが、昼食作りを手伝うからといって誤魔化した。
それにしても公爵令嬢として、あんな姿をさらして大丈夫なんだろうか……。
そして川から上がった俺に、なぜかニアが頭をポカポカ叩きながら「なにニヤけてんのよ! 」と捨て台詞を吐いて、またどっかに行ってしまった……解せぬ……。
「旦那様、ずいぶん楽しそうでしたね」
「グリムさん、シャリア様達ともっと遊んでいても良かったんですよ。ここは私とサーヤで十分ですから」
あれ……サーヤとミルキーの当たりが強い……解せぬ……。
顔……ニヤけてないよね……?
俺は苦笑いしながら、『かき揚げ』作りの準備を始めた。
おかずは、『かき揚げ』でいいだろう。
それから『おにぎり』と言えば……やっぱり漬物が欲しいよね。
俺は『波動収納』に入れてあるカブを取り出した。
カブは葉の部分も漬物になるので、カブ本体と合わせて二種類の漬物が楽しめるのだ。
漬物といっても、塩もみするだけの浅漬けだが充分美味しく出来るだろう。
ご飯の準備が出来たので、みんなに声をかけて川から上がってもらった。
シャリアさんとユリアさんは、さすが公爵令嬢だけあってそれぞれ魔法のカバンを持っているようだ。
クレアさんは着替えを持っていないので、シャリアさんの服を借りるようだ。
なんかすごく恐縮しているけど。
そして普通に着替え出してるけど……
ちょっと! ここで着替えちゃダメでしょう!
サーヤに頼んで、二台の馬車の間で着替えるように伝えてもらった。
みんな準備が出来たので、食べよう!
「「「いただきます」」」
俺達がみんな両手を合わせて「いただきます」と言うのを聞いて、シャリアさん達も一緒にやってくれている。
毎回の事なので、シャリアさんもユリアさんも慣れたようだ。
あまり一緒に食事をする機会がないクレアさんは、慣れていなかったが。
「まぁ、美味しい! お米をこんなに美味しい食べ物にするなんて、あなたほんとに何者ですの? 」
「お姉様、私これ好き! 何個でも食べれそうですわ! やっぱりセイバーン家の料理人になった方がいいんじゃないかしら」
二人とも喜んでくれているのだが、シャリアさんは俺を問い詰めるような感じだし、ユリアさんはなぜか女公爵と同じように料理人に勧誘している。
「ちょっと! そんな事無理に決まってるでしょ! 」
ニアがまた抗議してくれた。
「ニア様。冗談ですわ。お母様の時と一緒です。ほんとに料理人にしようなんて、思っていませんわ」
「まったくもう! 親子揃って何なのよ! 」
「ニア、そんな事より食べなくていいの? 」
俺がそう言うと、ニアはハッとした顔をして、一直線に『鮭おにぎり』にダイブした。
またもや顔中米粒だらけにしている。
まぁニアの場合、一個の米粒が超でかい感じになってるけどね。
「ああ……こんな美味しい食べ物があるなんて……何か……食べると力が湧いてくる気がします」
「お海苔さんがパリパリで美味しいのだ! おにぎりさんの中に凄いのが入っているのだ! 」
「凄い凄いなの! 中のお魚も凄いなの! チャッピー毎日食べたいなの〜」
クレアさんとリリイとチャッピーがそんな事を言いながら、凄い勢いで食べている。
てか………リリイ、チャッピー、両手に一個づつ持って食べるのはやめてほしい……
本当はお行儀が悪いと注意すべきところなんだろうけど……
かわいいから……いいか……
てか、やっぱダメか……。
「旦那様、やっぱり具があった方が私は好きです」
「うん、この海苔がたまんない。何個でも食べれそう!」
「これほんとに凄い! おかずが中に入ってるなんて、頭良すぎる! 」
「全く同意! これは普及すべき食べ物!」
「うまい、うまい、うばびーー」
サーヤ、ミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキーも感動してくれたようだ。
ワッキーまた泣いてるし。
ニアさんは、もちろん今日も叫んでいた。
そして大きな皿の上に三角の『鮭おにぎり』を四方向に立てて、おにぎりの家みたいなのを作っている。
その真ん中に入り、四方向の『おにぎり』を順番にかじっている。
意味不明なんですけど……なぜにそんな食べ方なの……?
四つ確保したかったって事かな……そんなに欲張らなくても……。
やっぱり具のある『おにぎり』はいいよね。
『塩むすび』も、もちろんいいんだけど。
米を普及させる為に街の人達に無料で配るのは、簡単な『塩むすび』がいいと思っていたけど、この具の入った『おにぎり』の方がよりインパクトがあるかもね。
フウのお陰で『紅マス』がいっぱい獲れたし、定番の『鮭おにぎり』にするか!
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