177.はじめての、武具作り。

 俺は今、守護の屋敷の迎賓館にいる。


『フェアリー亭』で食事をした後、シャリアさんとユリアさんを迎賓館に案内したのだ。

 事前に衛兵長が代官さんに手配をしてくれていたので、宿泊の準備は出来ていた。


 ユリアさんを追いかけてきた護衛の別働隊も街に到着したので、屋敷の庭園でバーベキューをしてもらった。


 そして俺達も、ここに泊まる事になってしまったのだ。


 俺は一人、寝付けないでいた。

 中庭に出て、星空を見上げている。


 今日も何とか死者を出さずに済んだが……危なかった。


 衛兵長がもう少しで、命を落とすところだった。

 その事を思い出したら、色々な考えが頭を巡って眠れなくなってしまったのだ。


 ニアも言っていたが、もう少し装備を充実させるべきだと思う……。


 ただ街の予算的なものもあって、すぐには改善出来ないだろう。

 俺が守護になったとしても、そこに予算を割けるかわからないし……。


 そこで俺は、衛兵隊の装備一式を自分で作れないか考えてしまったのだ。


 ナーナから『波動複写』でコピーした『武器作成』スキルは、ポイントを使ってスキルレベル10にしてある。

 いろんな武器が作れると思う。

 想像すると、なんとなく作り方が思い浮かぶのだ。


 この『武器作成』で防具まで作れるかわからないが、なんとなく作れそうな気がする。


 防具も作ろうと思ってイメージすると、作り方がなんとなく思い浮かぶんだよね。

 スキルレベルが10だからかもしれないが、防具も多分作れるだろう。


 売ってる物を購入すれば良いとも思ったのだが……。

 五十人分、今後の募集を考えると百人分ぐらい欲しいので、それだけの大量調達は時間がかかるし、かなり難しいと思う。


 やろうと思えば俺の『波動複写』でいくらでもコピー出来るのだが、他の人が作った物、しかも商品になっている物をコピーして大量に人に配るというのは、俺の自主規制に引っかかる。


 そこで自分で作ろうと思ったのだ。

 自分で製作した物ならば、コピーして人に配っても問題ないと思う。


 頑張って一セット分の装備を作れば、後は百人分コピーすればいいので、超らくちんで大量生産出来る。

 大量の魔力を消費するだろうが、俺の限界を突破した膨大な魔力と並外れた自然回復力で何とかなるだろう。

 それでもダメなら、『魔力回復薬』を飲めばいいだけの事なのだ。



 俺は魔物の素材から作ろうと思っている。


 サーヤの話では、人族の軍は魔物素材の武器や防具をあまり好まないらしい。


 冒険者は問題なく使うようだが、貴族や軍は豪奢な洗練された武具を好むようだ。


 ただそんな事を言ってる状況ではないと思うし、生存率が高くなるなら皆使ってくれるのではないだろうか。


 そして魔物素材で作った武具なら、大量に提供してもそれほど恐縮されないような気もしている。

 市販品の高価な物を大量に提供したら凄く恐縮されそうだが、魔物素材の武具なら受け取りやすいのではないだろうか。


 まぁ俺が百セットも作ったっていうのは、大分常識外の行動になってしまうので、ニアの知り合いの妖精族の職人に依頼してあった事にしようと思っている。


 俺はこっそり屋敷を抜け出し、サーヤの家まで走った。


 人型以外の仲間達がここで休んでいたが、俺が来たのでみんな起きてしまった。

 起こして申し訳なかったのだが、これからやる事を説明して、気にせずに休んで欲しいと言った。

 だがみんな俺が来たのが嬉しいのか、起きているようだ。

 ごめんね、みんな。


 そして俺は、この家と一体化して休んでいた家精霊のナーナを呼び出した。


 元々『武器作成』スキルを持っていたのはナーナなので、相談に乗ってもらいながら作り込んでいこうと思っている。


 まず最初に、鎧の内側に肌着的に着込む内鎧的なインナー、チェインメイルのような物を作りたいと思っている。

 次に外側の鎧、衛兵隊が使いやすいように皮の軽鎧にしようと思っている。

 そして武器は剣と槍、弓がをあればいいだろう。

 後は防御用の盾を、何種類か考えてみようと思う。


 魔物素材は色々あるので、出来るだけ軽くて強度のある物を選ぼうと思っている。

 ナーナの知識で助けてもらうつもりだ。





 ◇





 やりだしたら楽しくなって、気がつくと日が昇りかけていた。


 ナーナと相談しながら素材に使う魔物のパーツを考え、植物素材の加工はレントンにお願いした。

 ちなみに魔物素材の切断加工は、切れ味抜群の『魔剣 ネイリング』が大活躍してくれた。


 まず鎧の内側に着るインナー装備———これはバッファロー魔物の角を薄くスライスしたプレートをいくつも作り、それを『ワイルドくず』という植物の強力な蔓で固定してベストのような形状にした。

 ちなみに『ワイルド葛』は、細い蔓だが強度があり様々な工芸品にも使われているものだ。

 希少な植物というわけでは無いが、軽くて頑丈なので採用した。

 これなら私服で活動する時でも、インナーとして着る事が出来るだろう。


 次に革鎧は、象魔物の皮と蛇魔物の皮を組み合わせて作った。

 伸縮性をあまり必要としない場所は防御力の高い象魔物の皮で作り、関節近くなど伸縮性が必要な部分は蛇魔物の皮を使った。

 この革鎧はボディーパーツ、腰パーツ、腕パーツ、足パーツに分かれている。


 頭部保護用のヘルムは、象牙をくりぬいて作った。


 そして剣は蛇魔物を大牙を使い、さやは『ワイルド葛』で作った型の両側に蛇魔物の皮を貼り付けて作成した。

 つかつばに当たる部分は象魔物の骨を加工して作った。

 持ち手のところは、滑り止めで蛇魔物の皮を貼り付けた。


 槍の穂先は猪魔物の牙で作った 。

 柄の部分は剣同様、象魔物の骨を加工し、蛇魔物の皮を貼り付けた。


 剣も槍も両手で持つタイプなので、衛兵隊では基本的に盾は使わないようだが、リリイ達が持っているような丸盾を作ってみた。これなら邪魔にならないだろう。


 あと防御陣を作る時等の為に、四角い大盾もいくつか作った。


 丸盾も大盾も、象牙に象魔物の皮と蛇魔物の皮を二重に貼り付けた。

 かなりの強度が出ていると思う。


 弓矢は作るのが色々と面倒だったので、今回は見送った。

 前守護のハイド男爵から没収した『クロスボウ』が『波動収納』にたくさんあるので、そこから提供する事にした。


 俺達が使う分は既に仲間達に渡してあるし、いくつか残しておけば十分だ。


 そして完成した武具に色を付ける事にした。

 ナーナの指摘で、装飾性を良くする為だ。


 確かに魔物素材の武具は、そのままだと少し野暮ったい。


 全体を白く塗り、所々に赤でワンポイントや縁取りを入れた。

 派手すぎないように白を基調としつつ、ピグシード辺境伯の基調色だという赤をあしらったのだ。


 これで完成したので、『波動複写』でコピーして提供予定分のセット数を作った。

 かなりの魔力を消費したが、やり切ってしまいたかったので頑張ったのだ。


 インナーと皮鎧とヘルムと丸盾のセットが百人分、剣を五十人分、槍を五十人分、大盾を三十人分、クロスボウを三十人分提供しようと思っている。


 もちろん各武具は、俺の記念すべき第一号作品として保存する。

 いつものように、各四セットは『波動収納』にしまってある。


 そして折角なので、仲間達の分も作っておいた。

 もちろん子供達の分は、サイズを変更して新たに作った。


 インナーベストは、薄く軽く仕上げてあるので、服の下にも着込める。

 それでいてかなりの防御力なので、我ながら優れた逸品と思っている。

 商品化して、広く売り出してもいいかもしれない。

『フェアリー商会』の従業員や、孤児院の子供達などには無償で配ろうかとも考えている。



  ちなみにナーナによれば、魔物素材の武具の良いところは、魔力が通しやすく、使い込むほどに武器の性能が向上する性質がある事だそうだ。


 使い込むほどに、成長する武器という事だろうか。

 ただ性能向上には、使う人の力量や魔力操作の素質などが関係してくるようだ。


 俺としては、道具を大事に使えば使うほど、能力が向上するのは凄く良い事だと思う。

 道具に愛情を持つっていうのは、日本人の俺にとってはとても大事な考え方なのだ。


 高校時代にテニスの練習をしている時に、上手くいかずイライラして大事なラケットに八つ当たりして、思いっきり叩きつけてしまった事がある。

 大事なラケットを失う事になったのだが、あの時の愚かな行為は、俺にとって忘れられない戒めとなった。

 それ以来俺は、道具を大事にするように心がけている。


 プロのアスリートでも、道具を大事にしている人が多いし、そういう人ほど成功しているような気がする。


 だから衛兵隊のみんなにも、武具を大事に使ってもらいたいと思っている。

 武具の特徴を説明する時に、押し売りにならない程度に少しだけそんな話もしてみようと思っている。




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