161.お店の皆さん、こんにちは。

 俺とサーヤは屋敷を後にし、家具調度品販売店に足を運んだ。


 やはり店構えが大きい。


 トルコーネさんの『フェアリー亭』よりも、大きいかもしれない。


 一階は大型家具、二階は調度品つまりお洒落な装飾品が展示してある。


 小さな木工品や壺、花瓶等も置いてある。


 二階の事務所スペースに入ると、男性四人が出迎えてくれた。


 この人達がここの店員のようだ。


  カグンという名の四十代の小太りの男性が、店長として取り仕切っているようだ。

 その下に三十代の男性三人がついている。

 グウチ、チョウ、ドヒンと自己紹介してくれた。


 俺は皆に挨拶をし、ゆっくり商品を見せてもらうことにした。


 もちろん現在営業はしてないのだが、中にはかなりの在庫があった。

 これだけで相当な金額になると思う。


 見た感じ不良在庫というわけでもなさそうだし、時勢が落ち着けば確実に売れるのではないだろうか。


 テーブル、椅子、タンスなど多様なデザインで、高級感を感じさせる物が多い。


 客層はおそらく富裕層なのだろう。


 二階の調度品も一部安価な物もあるが、高級感を感じさせる物が多く、やはり富裕層を対象とした品揃えのようだ。



 俺が再雇用する旨告げると、四人ともほっとしたのか少し脱力した後、満面の笑みになった。

 四人とも奥さんとお子さんがいるようなので、職を失う心配がなくなり安心したのだろう。



 次に隣接するの食品販売店に足を運んだ。


 食品販売店はちょうど角地に位置していて、横道を入ると建物の後に馬車を止めるスペースがあった。

 大量買付けにも対応出来るようになっているようだ。


 並びの家具調度品販売店の後のスペースにも、同様に馬車のスペースが作ってあった。


 二店とも建物以外の部分も含めた敷地全体の広さも、トルコーネさんの『フェアリー亭』より広い感じだ。


 中に入ると一階には様々な食品が置いてある。


 小麦等の穀類や、各種の野菜、オリーブオイル、お酒も販売していたようだ。


 この店はかなりいいね。


 というかもっと早く、普通に買い物に来れば良かった。

 かなり品揃えが良い。


 この街の管轄下の各村から仕入れられる物は、一通り入れているのだろう。

 他の場所からも、かなり仕入れている感じだ。


 二階には商品を置いていないようで、事務所と個別商談用の個室が三つあるとの事だ。


 全部で十部屋あるので、空き部屋もあるようだ。

 一部の商品の在庫も、二階の空き部屋にストックしているらしい。



 ショクニールと名乗った五十代の男性が店長さんのようだ。

 話によると買い付けも含めて統括している支配人のような立場らしい。


 もう一人クヒメンという名の三十代の男性店員がいる。

 こちらは爽やかイケメンだ。


 雑用をしているという女性の店員もいる。

 ヒンナという名前で二十歳の愛嬌のある元気な子だ。


 お店はこの三人で回していたようだ。


 家具調度品販売店と違い来店客数が多いので、慢性的な人手不足だったらしい。

 確かに三人では人手が足りないよね……。


 そして買い付けを担当している男性従業員が三人いる。


 普段は買い付けに出て不在の事が多いようだが、今は休業状態なので集まっている。


 もっとも最近は、従業員が辞めて人手不足なので、買い付けを減らしお店の運営を手伝う事も多かったようだ。


 シイレード、カイツゲル、オロシンという名の彼らは、四十前後で皆精悍な顔付きだ。


 百戦錬磨の営業マンという雰囲気の人達だ。

 やり手な雰囲気がバシバシ伝わってくる。


 仕入れ担当はかなり交渉が必要になるので、鍛えられているのだろう。


 仕入れについては、様々なルートを築いているようで、この街の管轄の村々はもちろん領都や他の市町、隣領、隣国にまであるようだ。


 ただ、遠方の場合は行商人を通じて手配するらしく、この三人が遠方まで足を運ぶ事は基本的には無いようだ。


 今度ゆっくり色々な商品の仕入れルートについて訊いてみたい。


 この店を購入したのは完全に当たりだった。


 どうしても手に入れたい食品や調味料などがあるんだよね。


 この人達の情報網を使えば、何とかなりそうな気がしてきた。


 めっちゃワクワクしてきた!


 俺は、数日のうちに新装オープンするので、今まで通り仕事を続けるように指示した。


 やはりみんな家族があるようで、安心した様子だった。


 ちなみに、この二つのお店は中央通りに面していて通りの東側にある。


 トルコーネさんの『フェアリー亭』があるのも東側なので、同じ東並びになる。


『フェアリー亭』は北側の別ブロックになるので、それほど近いわけでは無いが、街全体で見れば比較的近い位置にあると言える。



 次に俺は、この店から北東方向にある下町の工房と倉庫を訪れた。


 衛兵隊の訓練スペースがある北側外壁の内側エリアのすぐ近くだ。


 通りを挟んで南に位置するブロックの一画にあるのだ。


 ソーセージ加工場からも比較的近い。


 家具を作る工房だけに、かなりの大きさだ。


 中に入ると……


 出た! ……まさに職人といったむさ苦しい男達が四人待っていた。

 圧が凄い……。


  親方はモコザイグという背の高いがっちりとした五十代の男性だ。

 なんかプロレスラーっぽい。


 他に四十代が一人、三十代が二人いる。

  三人とも職人としては一人前で、かなりの腕前なのだそうだ。


 それぞれ、カグツク、テブル、イースと名乗ってくれた。


 豪華でありつつも、手作りのぬくもりを感じさせる素晴らしい商品を作っている。


 そういえば、この材木はどこから仕入れているのだろう……?


 疑問に思って尋ねると、半年に一度、人を雇って伐木に行っているらしい。


 北門を出てすぐの林や森から切り出して来るとの事だ。

 つまりあの不可侵領域から採って来るようだ。


 魔物などに襲われないように、外壁の近隣からしか伐木しないようだ。


「すみません。グリムの旦那、どうしても訊きたいことがあるんです。あの避難民達の仮設住宅に使っている木材はどこから手に入れたんですか? あっしは、あんな素晴らしい木を見たことがありません。死ぬまでに一度でいいから、あんな木で家具を作ってみたい。あの仮設住宅を見てからずっと頭から離れないんです」


 親方のモコザイグさんが、突然話しかけてきた。


 話の内容からして、どうしても我慢出来なくなったのだろう。


 そうか……あの木は霊域の木だからね。


 無頓着に使っていたが、凄い木なはずだよね。


「実はあの木は、妖精のニアが友達から貰った特別な木なのです。ですので今後仕入れる事は難しいと思います。ただ少しだけ残っていますので、よろしければ二本ほど置いていきます」


 俺はそう言って、木材のスペースに魔法カバンから出すふりをして、『波動収納』から霊域の木を二本取り出した。


 職人さん達が突然出てきた木を見て、腰を抜かしそうになっていた。


 魔法のカバンであることを説明した。


 モコザイグさんは、俺のそんな説明には御構い無しで、霊域の木に頬を擦り付けて号泣している。


 なんか凄く喜んでくれたようだ。


 俺は自由に好きな物を作っていいと告げて、今後も良い物を作ってくれるように依頼した。




 隣にある食品倉庫には、家具調度品と食品の両方の配達を担当しているという男性が二人待っていた。


 二人とも三十代後半の男性でムキムキの筋肉マンだ。


 名前はトドゲル、ハイターツと言うようだ。


 そして配達用の荷引馬が四頭いた。


 霊域にもいるが、ポニーサイズでデフォルメした感じの可愛い馬達だ。


 この馬達も屋敷にいた馬車馬二頭も当然ながら俺の『使役生物テイムド』になってくれた。


 これによって『共有スキル』が使えるようになるので、この子達はかなりの能力を身に付けた事になる。

 突然危険に遭遇しても生き残れるだろうし、一緒に働いてる人達や近くの人達を守ってくれるだろう。


 この倉庫には厩舎もあって、この四頭は常時ここにいるようだ。



 全てを見てわかったが、本当に良い買い物だったようだ。

 代官さんに感謝しないとね。


 そして今後、色々と役立ちそうだ。

 既にいくつものアイデアが浮かんできてる! ……ムフフフフ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る