158.雇用の、ために。

 今日も朝から大忙しだ。


 まず今日は『フェアリー薬局』を正式にオープンさせようと思う。


 昨日薬師見習いの子供達が四人入って、いろんな雑事が出来るようになったので、後はお店を開けながら整えていけばいいと思ったのだ。


 特に何も宣伝するつもりはないので、いきなりお客さんが押し寄せてパニックになるという事も起きないだろう。


 当面は大森林で作っている希釈回復薬を各種取り揃えて販売するとともに、後はハーリーさんが中心となって、調合薬を作って販売する形になるだろう。


 毎度のことながら、基本的には丸投げである。

 もっともサーヤがフォロー含めて、ちゃんと見てくれるとは思うが……。


 内装外装含め準備は出来ているので、オープンといっても俺達が手伝う事は特に無い。

 顔を出すだけなのだ。



 その後避難民達の仮設住宅や、『フェアリー牧場』に設置してある避難民キャンプにカボチャを届けようと思う。

 大量に収穫したからね。


『フェアリー牧場』に行く途中に、ポテ村によってサツマイモの蔓を貰う予定だ。


 サツマイモは植える時に、種を播いたり、ジャガイモのように種芋を植えるわけではなく、種芋から生えてくる蔓を切って、土に挿すのだ。


 牧場に着いたら、早速、植え付ける予定だ。


 あと東側牧場の更に東奥に、大森林から持ってきた果樹の苗木を植えようと思っている。


 そして今なら誰もそのことを知らないので、チートスキル全開で成長させて、一気に実の成る位まで大きな木にしてしまおうと思っている。

 レントンとニアのスキルで多分出来るはずだ。


 そして、偶然野生の果樹を見つけたと言って『フェアリー牧場』の農園に組み込んでしまおうと思っている。


 これなら、すぐ果実が収穫出来ても説明がつくだろう。


 そして西側牧場の更に西側には大きな川が流れているので、そこから用水路を引いて大水田地帯を作ろうと思っている。


 さすがに、水田や用水路を突然発見したというわけにはいかないので、人海戦術でやろうと思っている。


 これで牧場スタッフももう少し増やせるし、正式雇用はともかく一時的には大量に人手が必要なので、臨時雇用して賃金を支払ってあげる事が出来そうだ。


 ということで、今日もやる事が目白押しなのだ。





  ◇





 予定を全てこなした俺は、『フェアリー牧場』の避難民キャンプで夕食を食べている。


 遅くなったので、牧場に宿泊する事にしたのだ。


 今日はこの避難民キャンプにいる人達総出で畑仕事をした。


 凄くいい汗をかいた。楽しい時間だった。


 この人達を全員『フェアリー牧場』で雇用してあげれば良いのだが、この避難民キャンプには八十名近くいるので、そういうわけにもいかない。


 すでに『フェアリー牧場』では 二十三人雇用している。


 水田や果樹園を増やすから、もう少し雇用出来るにしてもあと二十人ぐらいだろう。


 領都での会議以来ずっと考えているのだが、数多くの人に仕事を与えられる事業が中々思い浮かばない。


 やはり人手が必要な農業や、道づくりなどの公共事業っぽいものになっちゃうんだよね。


 もう少し畑を増やして、雇用拡大するしかないと思っている。


 そこで考えたのだが、この『フェアリー牧場』の面積をこれ以上増やしても、マグネの街から通勤出来ないのであまり意味がない。


 マグネの街に近い場所に、大きな畑があればマグネの街から畑に通勤出来ると思うんだよね。


 マグネの街に所属する荘園の村は、南門を出た街道沿いに左右に三つずつ合計六つある。

 そしてその周辺に作られている荘園を管理している。


 その先に俺の『フェアリー牧場』が、街道の左右に分割してあるのだ。


 各荘園も村も交通の便を考え、街道沿いに作られているのだ。


 逆に言えば、街道から離れた西側の奥や東側の奥は、南門に比較的近い場所でも広大な土地が空いているという事なのだ。


 マグネの街の南門を出たすぐの場所から、東側と西側にそれぞれ道を作れば、新しく広大な畑を作る事が出来る。


 特に西側は大きな川が流れているので、大水田地帯を作るのにも丁度良い。


 この位置なら、今マグネの街いる避難民達も仮設住宅から通勤して仕事をする事が出来る。


 ここに『フェアリー牧場』とは別に『フェアリー農場』を作り、稲作と果樹や野菜の栽培など大面積で行えば良いのではないかと思っている。


 既存の村とあまり重複しない作物を選んで植えれば、問題も起きないのではないだろうか。





  ◇





 俺は翌日マグネの街に戻り、代官さんと衛兵長を尋ねた。


 そして俺の案を提案してみた。


 もちろん、アンナ夫人に新たに開拓をする事の許可を得ていることは説明した。


 結論としては、二人とも大賛成だった。


 それぞれに避難民達の仕事の問題を考えてくれていたようであるが、やはり多くの人を雇用するには大規模農業か公共事業的なものしかないと考えていたようだ。


 お店を一軒二軒作っても、雇用出来る人の数は知れているからね。


 また、衛兵長と代官さんで考えてくれていたのは、領の承認が得られればという前提付きだが、衛兵の増員である。


 これだけ住民が増えれば、衛兵も増やさないと機能出来なくなるからね。


 実は、それは俺も考えていて、もし本当にこの街の守護になったら衛兵の増員募集をかけようと思っていた。


 領都とナンネの街についても、募集をかけて領軍兵士や衛兵の補充をした方が良いと提案しようと思っていたのだ。



 俺は早速農場作りに着手することにした。


 道作りと畑の開墾は、ある程度は人海戦術でやるつもりだが、米を早く植えたいので、ある程度スキルの力も借りようと思っている。


 道作りは魔法の巻物で土壁を作り、それを切れ味抜群の『魔剣 ネイリング』で切断し、石畳として敷き詰めていけば簡単に作れそうだ。


 もちろん避難民達の見ていないところで、こっそりやらないといけないが……。


 あの巻物がこんな風に使えるとは思わなかったが、我ながら良い使い方だと思う。


 その他開墾等についても、スキルを使った常識外の現象については、いつものように“妖精女神の御業”で押し通すつもりだ。


 道作りの微調整や開墾は、日当を払う形で出来るだけ多くの希望者を雇用しようと思っている。


 その中で良い人材を見極めて、正式雇用するのがいいだろう。


 当面、お金が出ていくだけになるので、お金が足りるか少し心配だ……。


 基本的にお金関係の『波動複写』は自主規制しているので、他の資金調達を考えようと思っている。


 まぁ何とかなるかな……。


 回復薬も衛兵隊と街で購入してくれたし、トルコーネさんの『フェアリー亭』が絶好調なので、ソーセージと卵の納品の代金だけでも結構な稼ぎになっている。


 全体を賄えるわけではないが、大分貢献してくれている。


『フェアリー牧場』で採れる物は、当面避難民達に無償で提供する事になっているので、売り上げは立たない。

 これは当初からの予定なので、しばらくは我慢だ。


 もう一つか二つ儲かるネタがあると良いのだが…… 。





 

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