159.落札、したってよ。

 新たに『フェアリー農場』を作ると決めてから二日が経った。


 俺は予定通り、マグネの街の南門を出た場所から左右に新たに道を作った。


 魔法の巻物の『土壁瞬造グランドウォール』を利用した石畳の道だ。

 もちろん巻物は、ミルキーに使ってもらった。

 俺が使うと、超どデカい壁が出来ちゃうからね。


 誰もいない明け方に短時間で作り上げた。


 もっとも、あの土壁を綺麗に切断出来る『魔剣——ネイリング』がなければ難しかっただろうが……。


 石畳の微調整や周辺の整備は、避難民達にやってもらった。


 ちなみに今回労働してくれている避難民達には、全員に日当を払う形にした。

 この農場は雇用を作り出す為に作る農場であり、作物を無償提供することを前提としていないからね。


 まずは街道の西側にあたるエリア……西側農場と呼ぶことにするが、ここの開墾を優先する。


 水田地帯を作る為だ。

 このエリアは大きな川が流れているので、水が引きやすく大水田地帯を作るのに最適なのだ。


 スキルを使ったチート技と、大量の避難民達の力でこの二日で大分形になった。




 それから『フェアリー薬局』は、オープンしてから今日で四日目だが、問題なく運営出来ているようだ。


 宣伝を全くしていないにもかかわらず、結構お客さんが来店している。


 トルコーネさんが『フェアリー亭』のお客さんに宣伝してくれているらしい。


 店長のハーリーさんから、もう少し品揃えを増やしたいとの要望があった。

 品揃えが充実すればもっと売れると考えているようだ。


 俺も一緒に考えてみた……


『フェアリー薬局』のコンセプトは、『医食同源』である。


 元々薬だけでなく、健康に役立つ食品も販売しようと思っていた。


 そこで俺が考案したのは……


 ……『薬草茶』だ。


 薬草や野草等で、健康に良いお茶を作る。

 普段の生活の中で習慣的に飲む事で、健康長寿を維持出来る。


 俺は元の世界で、野草などを摘んで自分で野草茶を作っていた。


 お茶作りは簡単で、例えばドクダミの葉を摘んで来て十分に乾燥させた後に、焦げない程度に炒るとお茶になるのだ。

 このやり方で、スギナ茶、トウモロコシのヒゲ茶など健康茶が簡単に作れる。


 特徴を明確にして野草茶や薬草茶を作れば品数も増える。


 お客さんも健康に良いだけでなく、毎日違う味を楽しむ事が出来る。


 総合的な効能が出るように、ブレンド茶を作っても面白いかもしれない。


 早速昨日から、ハーリーさんと見習いの四人の子供達でお茶作りをしていたから、今頃は店頭に並んでいるのではないだろうか。


 それから卵も体に良いので、店頭販売することにした。


 トルコーネさんの『フェアリー亭』は、いまだに絶好調で大量の卵を納品しているのだが、大王ウズラ達のお陰で少し余裕が出来たのだ。


 そのお陰で、烏骨鶏達の卵を販売に回わす事が出来た。




 ソーセージ工場の方も順調だ。


 毎日の大量のソーセージ作りで、採用した人達もすっかり作業に慣れたようだ。


 最近は、ミルキー達がいなくても仕事に支障は出ないらしい。



 ということで、今日は久しぶりに全員で『フェアリー農場』の開墾をしていたのだ。



 お昼休みを終えて、畑作りに戻ろうと思っていたら、代官さんが訪ねてきた。


 外で食事をしていた俺達だが、来客用のログハウスに代官さんを案内して、みんなでお茶することにした。


 代官さんは、厚めの書類の束を取り出した。


 俺に差し出す……権利証のようだ。


「グリム殿、昨日、例のオークションがございまして代理入札させていただきました。落札いたしましたので、その報告に参りました」


 え……


 そうか……前に聞いた悪徳商人の資産のオークションが昨日だったのか……すっかり忘れていたよ。


 落札したって言ってたけど……


 半額からのスタートだったのに、誰も入札しなかったってこと……?


 どれを落札したんだろう?


「あの……どの物件を落札したんですか? 」


「全てでございます! 」


 代官さんが満足そうに頬を緩めている。


 え……全部?


 一人も入札しなかったの?


 屋敷はともかく家具調度品販売店と食品販売店は、半額ならかなりの掘り出し物だと思うけど……


「誰も入札しなかったのですか? 」


「はい、全ての資産を一括セットでの競りにいたしましたので、他の入札は入りませんでした。仮に別々の競りにすれば店舗の方には入札が入ったかもしれませんが、街としては一括で処分したかったのです。

 食品のお店の方はグリム殿が欲しかったようですので…… 一括の縛りをつけました」


 代官さんが満面の笑みだわ……


 確かに街としては一括で売却した方が効率的だし、屋敷だけが売れ残っても困るのだろう。


 それはわかるが……それよりは俺が食品販売店を確実に手に入れられるように、他の人が入札しにくい“一括縛り”をつけたようだ。


 確かに俺はあの食品販売店に一千万ゴル以上つけてもいいと言ったからね。


 食品販売店一つに一千万ゴル以上出すなら、全部で三千万ゴルの方がお得で俺が喜ぶと思ったのだろう。


 確かにお得ではあるんだが…… どうするかなぁ……。


 本来なら大喜びするところかもしれないが……


 農場作りで収入の予定が無いまま大量に人を雇っていて、日払いでお金がガンガン出て行く予定だからな……。


 三千万ゴルがまとめて出ていくのは、ちょっと痛いかもしれないな。


 やっぱり何か他の収入を得る方法を考えた方がいいかもしれない。

 もしくは魔芯核など今まで手に入れた物の売却を考えるかな……。


「そうですか。ありがとうございます。ほんとに誰も入札しなかったんですね」


「はい、積極的雰囲気の入札者は見られませんでした。一括の縛りがなくても、入札が無かったかもしれませんね。やはり商人というのは時勢に敏感ですので、出費を控えているのでしょう」


 そう言って代官さんは書面を広げ、付随説明をしてくれた。


 まずあの屋敷は、本館、別館、使用人宿舎の三棟あるとの事だ。

 大きな庭園と厩舎も備えている。


 そして豪奢な馬車一台と馬車馬二頭が資産に含まれるそうだ。


 執事が一人、メイドが三人、料理人が二人、下僕兼御者が二人働いていたらしい。


 本来は数多くの使用人がいたようだが、酷い労働環境で多くの者がやめたり、不当な理由で解雇されたようだ。


 代官さんの話では、使用人のほとんどは先代からの人達で、素行の悪い者はいないそうだ。

 出来れば再雇用してもらいたいと言われた。


 そう言われても……あんな豪奢な屋敷どうすればいいか……


 まぁ後でゆっくり考えよう。


 そして家具調度品の販売店は、店舗に店員が四人、工房に職人が四人いるそうだ。

 隣接する食品販売店では店員が三人、買い付け要員が三人いるらしい。


 この二店以外に下町に家具の工房と、その隣に食品保管倉庫があるようだ。

 工房と倉庫も資産に含まれているそうだ。


 先日聞いた時には、この話は出ていなかった。


 工房と倉庫が付いてるなんて、超絶お得物件じゃないか……。


 どう考えても三千万ゴルで手に入る資産じゃないでしょう。


 元の評価価格の六千万ゴルだって、低過ぎると思う。


 この世界の感覚では妥当なのかもしれないが……


 まぁ俺にとっては、お得だからいいけど。


 俺への恩返しのつもりで動いてくれているのかなあ……考えすぎかな……。


 そしてこの工房や倉庫にも配達用の荷馬車とそれを引く荷引馬四頭が資産として付随しているようだ。


 工房には職人が四人、倉庫には配達担当の使用人が二人いるらしい。



 更に驚く事に、家具調度品販売店も食品販売店もその在庫全てが、今回の落札内容に入っているとの事だった。


 おかしいにもほどがある……


 商品在庫だけでも相当な金額になるはずだ……


 家具などは、今の時勢では売れにくいから、価値を見積もりにくいのかもしれないけどね。


 ただ、避難民達の生活が安定してきて自立出来れば、家具調度品も売れ始めると思う。


 食品は今の時点でも、いくらでも売れるだろう。


 いずれにしても、俺は大分お得な買い物をしたようだ。


 最初は、三千万の出費が痛いと思ったが、内容を知るほどに、めっちゃ得した気分になる!


 ここは気持ちを切り替えて、前向きにこの資産を出す方法を考えようと思う。


 なんか……テンション高くなってきた!




 今日は畑作りを区切りの良いところまでやりたいので、俺は作業を続行することにした。


 人を見る目が確かなサーヤに、屋敷やお店の使用人達の面接に行ってもらった。


 サーヤの面接で問題がないようなら、継続雇用を考えたいと思う。


 ただ今のところ屋敷に住む予定がないので、屋敷の使用人は継続雇用出来ないかもしれない。


 その場合は、町から出る見舞金とは別に慰労金のようなものを渡す事にしようと思う。


 いい人達だったら気の毒な事になるが……


 仕事を紹介してあげるとか、出来れば良いのだが……。


 ……そうだ!


 俺が本当にこの街の守護になったら、役所に職業紹介所を作ろう!






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