139.選択と、集中。
復興に向けての話し合いが始まった。
俺が各都市や街を回った感じでは、生き残ったのは良くて半数程度、酷い所だと三分の一以下だと思っていたが、やはりその程度らしい。
そして役人もほとんどが命を落としている状態で、復興するにしても人材がいなく手詰まりのようだ。
もちろんユーフェミア公爵は、自分の領地から役人を一時的に派遣するつもりのようだが、いかんせん数が多すぎるのだ。
復興が必要な都市は領都を入れて四つ、街は五つある。
そして、なぜか俺達は意見を求められている。
ユーフェミア公爵曰く、マグネの街での避難民の受け入れとその後の対応が見事であり、その常識に捉われない発想を聞きたいとのことだ。
「そんなの……生き残ってる人の中から優秀な人を見つけるしかないんじゃないの。貴族とか貴族じゃないとか、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
いつものようにニアは、思いのままに口を開く。
「守護はともかく役人は身分に関係なく採用することができます。しかしながら、突然に出来るような仕事では無いのです」
アンナ夫人が申し訳なさそうに答える。
確かにそれはそうかも。
優秀な人でも、すぐにできるようにはならないもんね。
求めてるのは、すぐに仕事をこなせる人材だからね。
こういう状況では……思い切ったことをするしかないんだよね。
領地運営に当てはまるかわからないが、これが会社の支店や飲食チェーンなら……やる事は…… 経営資源の集中……
———『選択と集中』だ!
「では、思い切って都市や街を放棄してはどうでしょう。この領都と無傷のマグネの街、そしてセイバーン公爵領と隣接するナンネの街だけ残して、他は一旦放棄して住民を三カ所に集めてはどうでしょうか。それなら分散している生き残りの役人も、兵士も数が纏まって、機能出来ると思うのです。早急に立て直しをして、後は優先順位を決めて一つずつ復興させていくというのはどうでしょう」
俺は、そんな思い切った提案をしてみた。
「しかし……それでは……生き残った人々に自分の大事な家や資産を捨てろということになります」
アンナ夫人が視線を落としながら、呟くように言った。
「いや…………、それはいいかもしれないね。今のままじゃ、どうせ満足に行政なんて出来やしない。ならば絞るというのは一つの手だ。考えもしなかった発想だね……。あんた達に参加してもらって、正解だったようだね…… 」
ユーフェミア公爵は、目を閉じ頷きながら話す。
「ユーフェミア姉さま…… 」
アンナ夫人が驚いている。
「お母様、受け入れるには……住宅や仕事をどうするか考えなくてはなりませんよ」
シャリアさんも、現実的ではないと思っているようだ。
「でもグリムが言うように集めちゃった方がいいんじゃない。仕事だって人口が激減した都市に残っても成り立つ仕事の方が少ないんじゃないかしら。人が集まるところにこそ商売のネタはあるものよ! 」
ニアが、またもやいいことを言った。
最近この人、ほんといいこと言うんだよね。
確かに仕事の問題は俺も考えたが、ニアの言う通り、残っていたとしても人口が少なければ、今まで通りの仕事ができるとは限らないからね。
ただ農業関係の仕事をしていた人にとっては、代々守ってきた畑や土地を捨てることになるのは、大分厳しいだろうなぁ……。
荒れちゃうだろうし、その気持ちは凄くよくわかる。
もっとも現時点では、ほとんどの所は被害で既に荒れてるけどね。
「ニア様、マグネの街の仮設住宅はあなたの技ってことになってるけど、本当に一夜にしてあれほどの戸数を建てたのかい? 」
ユーフェミア公爵が何か思いついたのか、ニアに真剣な眼差しを向ける。
「そうよ。正確には私の友達がやったんだけどね」
「“女神の使徒”ってやつかい? それをこの領都でもやってもらうことはできるかい? 」
「“女神の使徒”っていうのは周りが勝手に言ってるだけよ。仲間よ、仲間。もちろんやろうと思えば出来るわよ」
「それじゃあ、お願いできないだろうか。もちろん代金は払う」
「いいわよ。ねぇ、グリム? それにお金はいらないわ。困ってる時はお互い様だもの。一応私は“妖精女神”らしいし……。えへんっ……」
そう言いながらドヤ顔で居住まいを正すニア。
さっきせっかく褒めたのに……やっぱりちょっと残念感が……。
「いや、そういうわけにはいかないよ。ちゃんとお礼はさせてもらう。このピグシード辺境伯領は堅実経営で、それなりの蓄えはあったんだ。今回の襲撃でも、金銀財宝を全て破壊されたわけじゃない。お礼はしっかりさせてもらうよ。いいよね、アンナ? 」
「ええ、もちろんですとも。ニアさん、グリムさんお願いできますか? 」
アンナ夫人もユーフェミア公爵と同様の考えのようだ。
「オッケー」
「もちろん、できる協力はさせていただきます。ただ我々がすぐに設置出来るのは、木を使った仮設住宅だけです。領都の街並みのような家は難しいかと思いますが……」
あくまで一次的な仮設住宅ならいいけど、恒久的なものには厳しいだろう。
残っている街並みと雰囲気が合わないからね。
「それはいいさ、家の形や材質よりも安心して住めることの方が大事だ」
ユーフェミア公爵は、あまり問題にしていないようだ。
「わかりました。おっしゃっていただければ、いつでも設置いたします。どのように進めますか? 」
「そうさね……仮設住宅を建ててもらえるなら、あんたの言う通り、この領都、そしてわが領との境界のナンネの街、そして唯一無傷だったマグネの街、この三つに集約するか。それで体制が整ったら西にある大河沿いの都市『イシード』を復興させ、大河沿いから順番に復興し、最後は東のトウネ村という順番で復興させる」
「そうですか……それがいいと思います。ちなみに放棄される都市や街の最低限の維持管理は、私の仲間のスライム達がやってくれると思います。野盗などに荒らされることは多分ないと思います」
「何……あのスライム達はあんた達の仲間! ……そうなのかい? 各都市から戻ってきた伝令の兵達が、皆一様にスライム達が住民や都市を守っているという報告をあげていた。なるほどね……みんなあんたの友達か……ハハハハハハ! これは愉快だね。なんとまぁ、領全体があんた達に守られていたとは……」
ユーフェミア公爵は、驚きつつも豪快に笑い出してしまった。
釣られたかのようにアンナ夫人やシャリア嬢も笑っている。
できればスライム達を使って、周りにある荘園も最低限の維持管理をしたいんだよね。
そうすれば後に復興して戻ってきた時に、すぐに農業を再開できるからね。
農業と言えば……
「三市町に人を集めるにしても、その人達が食べれるだけの食料が必要になります。荘園の復活や牧場の新設などが領都やナンネの街に必要と思いますが……」
当然考えてはいると思うが、一応確認しておこう。
「そうさね、住む所の次は、当然、食料の確保が重要だね。まぁこの点でもマグネの街は見事にやっていたがね」
ユーフェミア公爵も、食料問題を次の議題にしようとしていたようで、満足そうにニヤリと笑う。
「もちろん食料の問題は、領の行政でしっかりやる。我がセイバーン公爵領でも全面的に支援する。
だができれば……この点でもあんた達の力を借りたい。マグネの街は実に見事だった。牧場の新設といい、ジャガイモの新しい栽培法といい……」
「ジャガイモの新しい栽培法? グリムさんはテイマーで商人と聞いていましたが、農業もできるんですの? 」
ユーフェミア公爵の話に、アンナ夫人が驚いた顔で俺に尋ねる。
キラキラした目で見られると……少しこそばゆい。
「ああ、あのジャガイモの栽培法がほんとに上手くいくなら画期的さ。種芋を増やさないで作付面積を増やせるんだから。それに牧場も見事だったよ」
ユーフェミア公爵は、視察をして色々聞き取りをしていたからね。
俺としては、もちろん協力するつもりだ。
「あんた、『フェアリー牧場』の二号牧場を作る気はないかい? もちろん領主体で荘園の復活と新しい牧場の設営をやる予定だ。でももし、あんたがやる気なら牧場を任せてもいい。その場合は新設牧場は荘園にしないで、あんたの個人牧場にしてやる。どうだい? 」
ユーフェミア公爵に、そんな提案をされてしまった。
この提案の意味を考えているのだが……
普通に考えれば、領で行政主体でやった方がいいし、やるべき仕事だ。
どうも俺のメリットになると思っての提案のような気がする……
「何勘繰ってるんだい? 大丈夫だよ。純粋にあんたの利益になると思っての提案さね。あんた達に対する謝礼の一つさ。望むならってだけで、強制じゃない。まぁあんた達に任せてしまった方が早く軌道に乗るだろうという期待はあるけどね……」
単に俺達の為の提案のようだ。
ユーフェミア公爵が更に続ける。
「さすがに荘園と村を復興させて、それをあんた個人の所有にすることはできないが、新しく作る牧場なら問題ない。土地は復興への協力と引き換えという事で無償にする。マグネの街に作った牧場もあんたの所有でいいよ。もちろん土地も無償でいい。採れた卵やミルクをしばらく無償で避難民に提供してくれるようだし、その協力への謝礼ということで筋が通る。アンナもそれでいいだろう? 」
ユーフェミア公爵にアンナ夫人が満足そうに首肯する。
二号牧場か……さてどうしようかなぁ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます