134.ジャガイモの、裏技。

 俺は夜明け前から『トレント』のレントンとサーヤを呼んで、牧場に避難民キャンプや牧場従業員の為の家とするべくログハウスをいくつか設置した。


 マグネの街の中に設置した仮設住宅と合わせれば、今いる避難民達には行き渡るだろう。


 日が昇りログハウス型の家がいくつも出現しているのを見たら、みんな驚くだろうが、いつものように“妖精女神の御業”ということで誤魔化すしかない。

 やっぱり、柵作りも一緒にやっちゃっても良かったかもしれないと、今更ながら思った。

 まぁもう作ってくれたんだし、良しとしよう。

 みんなで力を合わせた方が団結できるしね。


 この牧場は、街道から見て東側が牛とヤギのエリアをとなっている。

 西側は羊と鶏達と虫馬のエリアとなっている。


 それぞれに管理する為の住民の住む家が置かれ、広場も作られ村の形をなしている。

 今はそれに追加して、避難民達の仮設住宅がいくつか置かれていて、避難民キャンプの形になっている。


 将来的には、奥に農地を広げて農作物の栽培もやった方がいいだろう。






  ◇





 日が昇り、しばらくすると、衛兵の“金髪美人”ことクレアさんが、馬車を飛ばして街からやって来た。


 クレアさんはマグネの街で雑務に追われていたようで、戻ってきてからは初顔合わせとなる。


「ニア様、グリム様、此度も領都を救っていただき、本当にありがとうございます」


「いいわよ、そんな堅苦しい挨拶はしないで。大分疲れてるようだけど、大丈夫なの? 」


 ニアがフレンドリーに声をかけてあげる。


「よかったら、これを飲んでください」


 俺はクレアさんに、『スタミナ回復薬』を差し出した。


 これは、『マナ・ハキリアント』達謹製の『スタミナ回復薬』を、希釈して作った下級の『スタミナ回復薬』で、ひょうたん型の容器に入った一般配布用のものだ。


 それでも十分な回復効果があると思う。

 疲れが取れるはずだ。


 クレアさんは、衛兵長の指示で避難民の中から酪農の経験がある者を連れてきてくれたようだ。


 やはり何人か経験のある者がいたようだ。


 若い女性が三人だった。


 女性達はラン、スーリ、ミキイという名前で、みんな健康的な美人さんだ。

 元気な部活少女みたいな感じだ。

 女性達は同じ村の出身で幼なじみらしい。


 俺は挨拶をして、動物達の世話をお願いすることにした。


 基本的には丸投げだ。


 また避難民の中から希望する者を雇用する予定なので、その指導もお願いするつもりでいる。


 そして俺は大森林や霊域の時のように、基本的な方針だけを決めた。


 一、この牧場の動物は、潰して食べる事はしない。

 一、愛情持って大切に育てる。

 一、スライム達が牧羊犬の代わりに、動物達を誘導したり保護する時があるのでスライム達のことも大事にする。


 これだけ守ってくれれば、後はお任せで良いだろうと思っている。


 そして当面の間、採れた卵や牛乳、ヤギ乳は避難民に無償で提供することにした。

 羊毛についても無償提供でいいと思っている。


 一応、俺が牧場主になっているが、実務を取り仕切る支配人にサーヤ、その補佐の副支配人にミルキーを指名した。


 今後俺がまた出かけても、マグネの街が落ち着くまでは、彼女達は居残り組にしようと思っているので、大変だと思うがお願いすることにした。


 牧場で雇用する人の中から、支配人にふさわしい人が育ってくれれば良いのだが。


 実際の実務をサーヤが取り仕切ってくれるとすごく安心なのだ。抜群の安定感があるからね。


 今後、避難民の中から希望者はできるだけ牧場で雇用しようと思っているが、その面接や採用もサーヤにお願いしようと思っている。


 当面無償で提供しようと思っているので、給与だけ払う形になり人件費が回収できないが、無茶な人数でなければ、しばらくは何とかなるだろう。

 盗賊退治で貰った報奨金が結構あるからね。


 この世界では、月の給与は平均で十万ゴルから二十万ゴル位らしい。


 俺が元いた世界と物価的にも大きく変わらないから、妥当な金額ではないかと思う。


 ただ牧場雇用の場合は、衣食住が保障されるので、給与としては十万ゴル程度が一般的らしい。


 まぁ給与もサーヤに任せようと思っているが、将来的に利益がしっかり出たらボーナスを出せばいいと考えている。


 ちなみに、この世界にボーナスというものは存在しないらしいけど。

 利益が出たら還元すればいいし、その方が励みになると思うんだよね。



 それから急に牧場エリアに仮設住宅や厩舎が出来ていたので、やはり騒然となった……。


 予定通り“妖精女神の御業”ということで、適当に誤魔化した。


 大概の事はこれで誤魔化せるので、かなり便利だ。


 衛兵長の話では、俺が牧場を作るという噂が何故か既に広まっていて、就職希望者が名乗り出ているようだ。

 今後殺到する恐れがあるらしい。


 衛兵長は、経験者はともかくそれ以外の者をどうやってふるいにかけるか頭を悩ませていた。


 サーヤとミルキーを担当にしたので、相談して欲しいと言っておいた。


 俺としては、仕事を見つけにくい女性達や、子供達を中心に雇用してあげたいと思っている。


 この世界では、十歳位の子供は働きに出るらしい。

 学校があれば良いのだが……ないしね。


 どうせ働かなきゃいけないのなら、うちの牧場で雇用してあげたいんだよね。

 少し考えてることもあるし……。


 衛兵隊ではこの選抜の意味も含めて、文官と協力して、避難民達の今後の意向を細かく調査してくれるようだ。


 復興したら領都や地元の街に戻るのか、ここに定住するのかは重要なポイントだよね。




 衛兵隊の皆さんは、ずっと働きづめでお疲れモードなので、全員分の『スタミナ回復薬』を差し入れた。

 少しでも元気になって、頑張ってもらいたい。


 それにしても、避難民達の仕事を考えないといけないなぁ……

 そして魔物の肉以外の食料も考えないと……。






  ◇






 俺は今、ポテ村に来ている。


 このポテ村は、芋類を栽培している荘園の村だ。

 ジャガイモとサツマイモが中心のようだ。


 芋類は、放置しても育つのだが、その分値段も低く、村としてはあまり裕福では無いようだ。


「これはこれはグリム様、そして妖精女神様、わざわざ起こしいただき、ありがとうございます。私は村長のカルビンと申します。是非ご挨拶にと思っていたのですが、なにぶん忙しく申し訳ありません」


 白髪白髭の村長さんが、大仰に挨拶してくれた。


「いえ、別にいいんですよ。それよりも、突然押し掛けてしまって申し訳ありません」


 俺も挨拶をし、突然の訪問の理由を説明した。

 ちなみにクレアさんも同行してくれている。


 俺が訪れたのは、栽培状況を見学させてもらう為だ。


 芋類の収穫が増えれば、避難民にも配れるし、何か俺の知識で役立てることがないかと思ったのだ。


 今丁度ジャガイモが育っているところのようだ。


 時期的には、この地方の暖かさなら早いものはもう収穫できる状態になっているようだ。


 ただ時期をずらしながら植えているようで、遅い植え付けのものは一月位前に植えたようだ。


 収穫間際のものは駄目だが、生育途中のものについては、植え付け数を増やす裏技があるのだ。

 俺流の秘密技だ。


 それが出来ないかと思って来たのだが、遅く植えたものについてはまだ出来そうだった。

 茎が育ち過ぎてなくて、丁度良いのが結構ある。


 この裏技は、種芋なしに作付面積を増やすことができるのだ。


 後は作付場所だけだ。


 村長に尋ねると……


 現在サツマイモの植え付けの準備中で、すぐに使える空き畑は無いそうだ。


 しょうがないので、新しくできた牧場の一画にジャガイモ畑を作ろうと思う。


 村長や村人達に、ジャガイモの作付けを増やす“妖精族に伝わる秘密の技”という名目で、俺の裏技を教えた。


 俺の裏技というのは、生育途中のジャガイモの茎を抜き取り、それを土に挿す所謂『挿し芽』というやつだ。


 ジャガイモは、植えた種芋から芽が何本か出てくる。


 採れるジャガイモの大きさを揃えるには、ひと手間かけて『芽かき』という作業をすることがある。

 芽の数を三本位にする為に、余分な芽を引き抜くのだ。

 これが『芽かき』である。


『芽かき』をしないと、芋の数が多くなり養分が分散して、小さな芋が増えるのだ。

 所謂クズ芋が増えてしまうのである。


 もっとも作付け面積が大きい大農家は、手間がかかるのでやらないことも多いが。


 普通は、『芽かき』した芽は捨ててしまうのだが、俺は“もったいない精神”で、畑に植えていたのだ。

 なんか……かわいそうな気持ちになっちゃうんだよね。


 丁寧に引き抜いた芽には、根がついているので移植可能なのだ。


 通常よりは収穫量が落ちるが、ちゃんとお芋がつくのである。


 つまり新たに種芋を入手する必要もなく、かつある程度大きくなった芽を植えるので、生育も早いという一石二鳥の裏技なのだ。

 芽を引き抜かれた元の芋は、粒の揃った品質の良いものが出来る。

 本来捨てていただけの芽から、収穫量が少なめとはいえ、ちゃんと芋が収穫できる。

 良い事しかないのだ。


 ただ俺の元いた世界でも、これを実践している人は、ほぼいなかったはずだ。

 まさに裏技なのである。


 俺はそんな説明をし、協力してもらえることになった。


 最初は、みんな聞いたことがない話で信じていなかった。

 眉唾な視線を俺に向けていたのだ。

 実際に、眉に唾を塗ってる人もいたし……。


 ただ最終的には、“妖精族の秘技”というのが効いて協力してくれることになったのだ。


 ニアも説得してくれたからね。ニアのお陰だ。


 一応、最後の方には、上手くいったら次作ではこの村でも取り入れたいと言っていた。


 俺達は、畑の準備が出来次第、芽を貰いに来ることにして、村をあとにした。





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