133.牧場を、作ろう。
俺は夜明けとともに、サーヤの転移で大森林の迷宮前広場に来ていた。
白衣の男が潜伏している迷宮の調査に行っていたリンが戻ってきたからだ。
「おかえり、リン。大丈夫だったかい? 」
「あるじ、ただいま。リン、大丈夫。がんばった」
リンから詳しい報告を受ける。
白衣の男が潜伏してる迷宮は、『テスター迷宮』と非常によく似た作りのようだ。
一つのフロアが、ドーム球場一つ分ぐらいの大きさがあり、垂直の階層構造になっているらしい。
やはり地下十階に、白衣の男が潜伏しているようだ。
リンの話では、周りに悪魔はいないようだ。
遠くから確認する他なかったようだが、一人で何かをしていたとのことだ。
各フロアは、様々な魔物がいるようだが、主体となっている魔物は決まっているようだ。
地下一階層二階層———『小悪魔インプ』が多い
地下三階層四階層———『小悪魔ジャキ』が多い
地下五階層六階層七階層———動物型の魔物が多い
地下ハ階層九階層———虫型の魔物が多い
地下十階層———魔物はいない。白衣の男のみ。
「リン、地下十階層か九階層のどこかに、小さな家を置いて隠せるような場所はないかな? 」
「うーん、地下九階層は難しいかも。すぐに見つかる。地下十階層は……一番離れた所なら置けるかも。ちっちゃいのなら」
俺が考えたのは、小さな家をリンの『体内保存』スキルで収納して、もう一度潜入し密かに設置する。
事前にサーヤの『管理物件』に登録しておき、転移で急襲するという作戦だ。
大分確率は高まるが、白衣の男がいる部屋とは距離があるようなので、近づく時に気づかれるかもしれない。
その時点で、白衣の男に逃げる事を選択されれば、転移されてしまうだろう。
悪い作戦では無いと思うが……
何かもう一工夫ないと、逃げられる可能性が高い……。
他のみんなからも、特に画期的な作戦は出なかった。
やはりしばらく様子を見るしかないようだ。
モヤモヤするが……しょうがない。
万が一にも逃げられたら、もう一度探せる保証は無いからね。
◇
オリ村に引き返した俺達は、牧場作りに取り掛かった。
牧場作りといっても柵を立てていくだけだ。
本当は、動物達は俺の『
そんなことを言えるはずもなく、通常の牧場の体を整える為に、広大な面積に柵を立てなければならない。
まぁ野生動物の侵入禁止や、家畜泥棒防止という意味ではあった方がいいけどね。
昨夜のうちに手配してくれたらしく、衛兵長が犯罪奴隷となった盗賊達を大量に引き連れて来た。
避難民の中で、手伝える者も手配してくれて、すごい人数が集まっている。
そしてトルコーネさん一家も来てくれた。
実は昨夜サーヤに念話をして、朝一でトルコーネさん一家に来てもらうように手配をしてもらったのだ。
目的はもちろん、ロネちゃんの仲間を増やす為である。
『
俺はその件をトルコーネさん一家に説明して、みんなで『虫馬』を迎えに行くことにした。
トルコーネさんの宿では、これ以上飼うスペースがないので、この新しく作る牧場に虫馬のスペースも作ろうと思っている。
荷引き動物として活躍してくれるだろう。
ロネちゃんの仲間にしても、牧場の人の言うことを聞くように指示してもらえばいいからね。
もちろんロネちゃんの仲間である事を知られないように、偽装ステータスを貼るつもりだ。
最初に現れたのは、芋虫型の虫馬『ランドキャタピラー』四体だ。
ロネちゃんが前に出て行くと……
『ランドキャタピラー』達は、興味深そうにロネちゃんの周りに集まりだした。
「みんな、お友達になってくれる? 」
ロネちゃんがそう言うと……
「「「キュイー、キュイー」」」
四体が一斉に二回鳴いた。
俺は『ランドキャタピラー』達のステータスを確認する。
<状態> が…… 『ロネの
『虫使い』が使役すると、『
ニアに訊いてみると、
「うーん、そこら辺のことは、はっきり本には書いてなかったけど……『使役生物』よりも『使い魔』の方がより深い関係と言えるから、スキルの貴重度から考えたら、いきなり『使い魔』になるっていうのはアリかもね……」
と言う感じで、正確なところはニアにもわからないようだ。
でも本当だとすると、養蜂で使ってる蜂達も全部『使い魔』なのだろうか?
蜂は何万匹という単位になるはずだから、俺の『絆』リストよりも遥かに多くなると思うんだよね。
確か『使い魔』は『使役生物』と違って、感覚共有が出来るはずだ。
やろうと思えば、虫を使った広大な情報網を作ることもできそうだね。
そういう使い方をすると確かに強力なスキルだよね。
その後、カタツムリ型の虫馬『デンデン』を二体と、カブトムシ型の虫馬『ギガビートル』二体を仲間にした。
カブトムシ型の『ギガビートル』を最初見た時は感動した。
カブトムシ好きだったからね。
それがめっちゃでかくなっていて、そしてやっぱり目がクリクリしてて可愛い。
しかもオスとメスのペアで、オスだけに角があった。
少年の心が呼び起こされて、ワクワクしてしまった。
ちょっとだけ、自分の『使役生物』にしたい気持ちすら芽生えてしまった。
ロネちゃんは、『ギガボール』のだん吉を含め、これで九体の虫馬を仲間にしたことになる。
ロネちゃんの虫馬軍団の誕生だ。
俺は、なんとかこの虫馬達を鍛えて、ロネちゃんのレベルも上げてやりたいと思っている。
いい方法を考えようと思っているが……また次の機会で良いだろう。
◇
俺達が戻ると、すごい勢いで作業が進んでいた。
作業に使う道具等は衛兵隊で町中からかき集めてくれたようだ。
また柵に使う材木も同様に集めてくれたらしい。
俺は代金を支払おうとしたのだが……
「いいのです。グリム殿、このぐらいは我々にやらせてください。いつも助けてもらってばかりなのですから。ただ急ごしらえのものしかできませんので、将来的にはしっかりしたものを作った方がいいと思います。その時の為に取っておいて下さい」
衛兵長にそう言われてしまった。
本来なら、俺達がやった方がすぐにできる。
レントンの力を使えばあっという間だからね。
だが、ここまで大がかりになると、さすがにそれも厳しい。
『女神の使徒』ということで、レントンの能力を解禁することも考えたのだが……
『トレント』が人族の街にいる事はあまりないようだし、変な輩に目をつけられても困るから、可能な限り隠しておこうと思う。
まぁレベルが上がった今のレントンなら、余程の相手でない限りは大丈夫だと思うが。
それでも『中級悪魔』やそれに組するような者達に、標的にされたら危ないからね。
夕方になる頃には、最低限の面積の柵はなんとか作り終わっていた。
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