130.相談、パレード、また相談。

「何か問題でもあるのですか? 」


 口ごもる衛兵長を見かねて、俺は尋ねた。


「実は、牧場にできそうな場所は街の中にはありません。新しく場所を確保しなければならないのですが、そうすると町から大分離れてしまいますので、管理する為の村も新たに作らなければならなくなるのです……」


「だったら、村も作っちゃえばいいじゃない」


 ニアは、何の問題もないと言いたげに口を挟んできた。


「ニア様、勝手に村を作ることなどできないのです。この街は守護も不在で……。本来、村を新設するとなると、領主様の許可がいるのです」


 衛兵長が苦々しげに言いながら、視線を落とす。


「なるほど、勝手な判断ではできないということですか……」


 俺はそう言いながら、衛兵長の気持ちを察する。

 きっと歯がゆいに違いない。


「ええ、口惜しいのですが……。領主様が亡くなったことを聞きました。お伺いを立てようかとも思ったのですが、この混乱した状態では、すぐに許可をいただけるかどうか……。そう考えてしまって、二の足を踏んでいるのが実情なのです」


「じゃぁ……仮設住宅の時みたいに、グリムが勝手にやっちゃえばいいんじゃない」


 出たよ!

 ニアのいつもの軽い思いつき……


「いくらなんでも、勝手に村を作っちゃダメでしょ」


「そう……じゃあ……村じゃなきゃいいんじゃない。牧場を作って避難民の人達を雇用すれば! 牧場経営すればいいじゃん! 」


 ニアは、簡単な事のようにさらっと言っているが……


 ……でも……なんとなく……それでもいいような気がしてきた。


 うーん……それでいけるかもしれないなぁ……。


 俺が広い土地を買って、そこに人を雇う形で管理してもらう。

 家も提供してあげればいい。


「衛兵長、仮に今のニアの案のように私が牧場を経営するとして、売っていただけそうな土地はあるでしょうか? 」


 ニアの案を採用するにしても、そもそも土地がなきゃできないからね。

 一応……確認してみたのだ。


「うーん……なんともですね。街の中の土地ならば役所や商人ギルドで売買していますが、街の外は基本的に荘園と言って領主の所有地になっています。それ以外の土地となると売買できるのかどうか……一度代官と相談してみます」


 と言うことで、衛兵長の方で代官さんと相談してくれることになった。


 その結論次第では、俺が牧場を始めてもいいかもしれない。


 ただ…… 牧場やる位の面積っていくらするんだろう。

 お金足りるかなぁ……。





  ◇





 俺達はオリ村を出て、一旦マグネの街に戻ることにした。


 街に入ると、俺達の『家馬車』を見つけた人達がどんどん集まってきて……


 何故かまたパレードみたいになってしまった。


「助けていただきありがとうございます!」

「妖精女神様、命を救っていただきありがとうございます!」

「領都を救っていただき、ありがとうございます!」

「凄腕の若さまぁ〜ありがとう〜」

「きゃー、若旦那! きゃー、好き〜! 」

「若様〜飲みに来て〜」

「よお! 若大将!」

「いつもありがとう! 」


 俺達が治療してあげた避難民達もいたようだ。

 そして領都を救った話が、広まって評判になっているらしい。


 どう考えても情報の伝わりが早すぎる……


 衛兵長とかが情報を広げているようにしか思えないのだが……


「グリム殿! 」


 一際大きな聞き覚えのある声の方を見ると、トルコーネさんだった。


 馬車に近づいてきて、宿屋の方に来てほしいと言われたので、家に戻る前に寄ることにした。





  ◇





 宿に入るとサーヤ達居残り組がいた。


 朝一で衛兵隊の手伝いをした後、ここで休憩していたようだ。


「いやーグリム殿、ニア様、またご活躍だったようで。領都まで救っていただいて、本当にありがとうございます。街では皆様方の話題で持ち切りです。サーヤさんやミルキーちゃん達も声をかけられて大変のようですよ」


 そうなのか……そんな話はサーヤの報告には無かったが……。


「サーヤ、そうなのかい? 」


「はい、特に大きな支障は無いのですが、皆さんに声をかけていただくので、挨拶が結構大変です。ですので最近は、少しの移動でも馬車を使うようにしています」


 なかなか大変だったようだ。


 よく休憩でこの宿に来ているらしい。


 最近は、ソーセージ以外にも烏骨鶏達が産んだ卵やヤギのミルクも納品しているとの事だ。


 俺もこの前食べたが、烏骨鶏の卵は絶品だった。

 元いた世界で一つ何百円もするような高級卵の味と同じだった。

 いや、それ以上かもしれない。


 ネコルさんも、上質の卵とヤギのミルクが手に入るので喜んでくれているようだった。


 ロネちゃんの養蜂も順調なようだ。


 さすがにまだ蜂蜜を採る段階にはなってないが、蜂達がかなり頑張っているらしい。


 普通よりは遥かに早く採れるのではないだろうか。


 トルコーネさんは、新しく購入した宿屋への引っ越し準備を着々と進めているらしい。


 また馬車を使って荷物を運ぶなど、衛兵の手伝いもしているようだ。


 ロネちゃんも仲間になった『虫馬ちゅうま ギガボール』のだん吉に、小さな荷車を引かせて、荷物運びの手伝いをしているらしい。

 手伝いに使う荷車は衛兵隊で使わなくなった小さな物を貰ったようだ。


 この町では、ダンゴムシ型の虫馬である『ギガボール』はとても珍しいらしく、人目を引くらしい。

 特に子供達に人気で、触りに来るようだ。


 一度『ギガボール』目当てで絡んできた変な大人がいたようだが、巡回中のスライムに撃退されたとのことだ。


 ロネちゃんの安全の為にも、レベルを上げた方がいいと思うが……俺達の仲間にするわけにいかないし……。


『虫使い』は、『使い魔ファミリア』や虫達のレベルが上がると、テイマーと同じようにある程度経験値を取得できるようなので、この『ギガボール』のだん吉が強くなれば、その経験値でロネちゃんもある程度レベルアップできるとは思う。


 今度何かの理由をつけて、だん吉を秘密裏に特訓して強くしてもいいかもしれない。




 トルコーネさんが、俺達に新しい宿屋のことで相談があるようだ。


 そこで俺達は、ここで少し早い昼食をとることにした。

 いわゆるランチミーティングと言うやつだね。


 トルコーネさんが相談したい事とは……


 簡単に言うと、俺の援助で新しい宿屋を購入したものの、今開業すべきか悩んでいるとのことだった。


 領内全体がこれほど混乱している状況では旅人や、商隊等も来る可能性はほとんどなく、宿屋部分については宿泊客が見込めないと考えてるようだ。


 一階の食堂・居酒屋部分については、来店は見込めるもののネコルさんとロネちゃんだけでは、人手が足りない。


 自分が手伝えばいいのだが、衛兵長に頼まれて衛兵隊の手伝いもしていて、しばらく手伝いたい気持ちもあるとのことだ。


 それで移転オープンをどうしようかと悩んでいるらしい。


 こういう問題は考え方一つというところもあるし、何が正解というわけではない。


 ただ俺が一つ言える事は、ネコルさんの料理はすごく美味しいし、サーヤのソーセージも抜群の味。


 それを食べた人は、おそらく皆笑顔になるし元気になると思う。


 それを考えると混乱している時だからこそ、美味しい物を食べて元気になってもらいたい。


 そういう理念を持ったらどうかと提案した。


「確かに……人はどんな時でもお腹がすきますし、美味しい物を食べれば元気になりますからね……」


 トルコーネさんが腕組みしながら、上を見上げて目を閉じる。


「そうね、あなた……せっかく手に入れた新しい宿屋なんだし、頑張って始めましょう! l

「私もお手伝い頑張る! 」


 ネコルさんもロネちゃんもオープンに前向きなようだ。


「そうだね……うん、こんな時だからこそ、みんなに笑顔になってもらう! おいしい料理を提供しよう! 」


 トルコーネさんの気持ちも固まったようだ。

 すっきりとした顔になっている。


「オープン直後は慣れなくて大変でしょうから、逆に宿屋のお客さんがあまり入らなくて一階の食堂・居酒屋部分に集中できるからいいかもしれませんよ」


 俺がそう言うと、


「それもそうですね。うん確かに! 」


 トルコーネさんが笑顔になった。

 そう、ものは考えよう、考え方一つなのだ。


「あと、できれば最初にお店の特徴というか“売り”にすることを明確に決めておいた方がいいと思います」


 俺は老婆心ながら、忠告というか提言させてもらった。

 ちゃんと成功してもらいたいからね。


「特徴……売り……ですか? 」


 トルコーネさんが思案顔で首を傾げる。

 ネコルさんとロネちゃんも同様に首を傾げている。


「これは一顧客としての意見ですけど、料理では……まず今売りにしている『牛のとろとろシチュー』の他に、比較的価格が安くて注文しやすいもの、ここに食べに来たいと思ってくれるようなものを考えた方がいいと思うんですよね」


 いわゆる看板メニューというやつだ。

 何かそういうものがあった方がいいと思うんだよね。


「そうねぇ……まずはサーヤさんのソーセージ、これは値段も高くないし……特別なものってことになるんじゃないかしら……」


 ネコルさんが、顎に指を添えながら目を輝かせる。


「お母さん、何か卵の料理も考えたら! アッキーちゃん達が持ってきてくれる卵、凄く美味しいもの! 」


 ロネちゃんも真剣に考えて、提案してくれた。


 それ……いいかも!

 卵料理で何かないかなぁ……


「そうね……何がいいかしら……」


 ネコルさんも卵料理がいいと思ったようだ。


 ———そうだ!


 俺は簡単に作れるいい料理を思いついた!

 俺の大好きな卵料理だ!


 それは……



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