129.俺が、父様?
俺は『テスター迷宮』地下三階の『マナ・クイーン・アーミー・アント』のアリリの巣の中に来ている。
アリリの子供達を見る為だ。
俺の仲間になって、最初の方に産んだ卵が孵ったらしい。
「我が君、わざわざおいでいただき、ありがとうございます」
「いいんだよ、すごい卵の数だね。こんなに産んだのかい? 」
「は、はい。今後も頑張って……産み続ける所存です! 」
「あまり無理しないようにね」
「は、はい」
「母上、この方が父上ですか? 」
小型犬サイズの子アリ達が集まってくる。
生まれてすぐでも、自由に歩けるようだ。
「「「父上様、お会いできてうれしゅうございます! 」」」
子供達が一斉に俺を父親と呼ぶ……はて……?
一緒に来ていたニアが……めっちゃジト目で見ている……視線が痛い……
そんなわけないでしょ……ないよね……?
「そうよ。父上様よ。父上様がいなければ、あなた達は生まれていなかったのよ」
アリリが普通にそう答えているが……
身に覚えが無いんですけど……
「アリリ、俺が父親っていうのは……」
「我が君は、この大森林に住む者すべての偉大な父親です。あなた様がいなければ、今の我々は無いのですから」
なるほど……そういうことね。
意味はわかったけど……誤解を生むような微妙な言い方はやめてほしい……。
いまだにニアさんは、俺をジト目で見ている……なぜに…… 解せぬ……。
それにしても、子供達はめっちゃかわいいのだ。
薄茶色の体に、目は黒目でクリクリだ。
俺は頭をなでたり、抱っこしたりしてあげた。
昆虫系は、モフモフ感がないけど……それでもかわいいのだ。
なんだか……ほんとの子供のようにも思えてくる。
ていうか……この大森林の皆はすでに家族だけどね。
◇
迷宮前広場に戻ると、今度は『ミノタウロス』のミノ太が近づいてきた。
前に『ミノタウロスの小迷宮』に里帰りしていたが、帰って来ていたようだ。
「若様……オデ、里帰りしてきたでゲス。族長が遊びに来て欲しいと言ってたでゲス。もちろん……ケニー様もでゲス。一族丸ごとケニー様のシモベになりたいでゲス。ムフ……ウホ……ウホホッ……」
やばい……
こいつケニーの名前を自分で言った途端、またグフグフ言い出した……。
それに一族丸ごとケニーのシモベになりたいって何……?
もし本当にそれが一族の総意なら……『ミノタウロス』族……怖すぎるんですけど。
そしてケニーは相変わらず、一瞬、刺すような視線を送った後、何事もなかったかのようにガン無視している。
それに興奮したミノ太が、また体から蒸気を発している。
この光景……もうお腹いっぱいなんですけど……。
まぁ、せっかくのお誘いなので、前向きに検討してみよう。
すぐには行けないかもしれないけど、本物の迷宮も見てみたいしね。
◇
夜になってサーヤの家に戻ると……
「旦那様、予定を繰り上げてマグネの街に帰って来てはどうでしょうか。また新たな問題が起きておりまして、旦那様にいていただいた方が良いと思うのですが……」
とサーヤが言ってきたので、詳しく内容を訊いてみた。
話によると、避難民の第三陣とも言える人達が向かって来ているようなのだ。
俺は各都市や街で救出した際、行きたい者は領都に避難して良いという領主夫人の伝言を伝えていたのだが……
なぜマグネの街に避難民が来るのだろうか……。
すでに避難していた人達が、俺の伝えた話を知らずにマグネの街に向かっているのだろうか……
だとしても……やはりマグネの街に来るのは不自然だ……。
サーヤが衛兵達から聞いた話によると、どうもこのマグネの街が『妖精女神』に守られて無傷であったこと、その後避難民を手厚く受け入れている事が伝搬しているのではないかとのことだ。
平時ならともかく、こんな非常時に噂話が伝搬するだろうか……
もっとも、いつの世の中でも、噂というのは不思議に広がるものだからね。
意外とそうなのかもしれないとも思った。
避難民が来てる話なら、俺が出なくてもいい気がしたが……
人数によっては、俺が購入した土地が足りなくなるかもしれない。
そしたら、新たな対策を考えないといけないからかなぁ……。
それからもう一つ。
かなりの数の家畜だったと思われる動物達が向かってきているらしい。
なぜに動物達まで集まるのか全くわからないが……
何かに惹きつけられるかのように、この街を目指しているようなのだ。
物見に出た衛兵が、そう報告してきたらしい。
酪農をしているラク村の収容規模を軽く超える数のようだ。
新たに牧場のような場所を作る必要があると、衛兵隊や役人が話していたようだ。
サーヤは、暗に俺に牧場を作れと言っている感じなのだが……
うーん……俺はもう数日のんびりしてから、都市を回ってきたという体で戻ってこようと思ったのだが……。
早めに帰るか……。
この世界の情報伝達精度からすれば、多少の不自然さは誤魔化せるだろうし。
もし何か言われた時は……
“妖精女神の御業”にすればいいか……。
ということで、俺は明日の朝にでもオリ村の外れの林にフラニーに転移してもらって、そこからこの町に帰って来ることにした。
◇
翌朝俺達は、予定通りにオリ村の外れの林に転移していた。
街道に入ると、確かにマグネの街に向かって避難民が歩いていた。
大集団ではないが、十人とか二十人という単位で歩いている人達がいた。
俺達は、そういう人達に出会う度に馬車を止めて、回復してあげたり食料をあげたりした。
オリ村に向かう一本道の街道に入ると、衛兵長が馬を飛ばして出迎えに来てくれた。
おそらく、物見が俺達の存在を見つけて、衛兵長に報告したのだろう。
「ニア様、グリム殿、お待ちしておりました。領都を救っていただき、ありがとうございます。領都からの伝令兵に領都での活躍ぶりをお伺いしました。本当に心より御礼を申し上げます」
「いえいえ、できることをしただけです。ところで、こちらの様子はどうですか? 避難民が続々と来ているようですが」
「はい、そうなのです。サーヤ殿達の御協力で何とかやってはいるのですが……」
俺達は衛兵長に案内されて、オリ村の仮設詰所に通された。
そこで現在の詳しい状況を聞いた。
基本的には、昨日サーヤから聞いた状況と変わらなかった。
やはりこの街の評判を聞いて訪れた者は、かなりの数になるようだ。
そして、家畜だったと思われる動物達が向かってきているという話もあった。
衛兵長としては、家畜は大きな資産であり、放置して野生動物に食べられてしまうよりは、何とかこの街で確保したいという意向のようだ。
だが、やはり酪農を担当しているラクノの村では収容しきれないようだ。
そこで俺は、新たに牧場を作ってはどうかという提案をしてみたのだが……
「牧場ですか……確かに我々も考えてはみたのですが……」
衛兵長がいつになく口ごもっている……
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