103.過保護の、親バカ。

  衛兵詰所を出た俺達は、一旦サーヤの家に戻った。


 ゆっくり街を見て回るはずが、まさか魔物退治をすることになるとは……


「今回は、子供達とレントン、トーラ、タトルは留守番。安全なこの家で待ってて」


 俺がそう言うと……


  一斉に抗議の声が上がってしまった。


「リリイは一緒に行くのだ! 一緒に戦うのだ! 街の人達を守りたいのだ! 」

「チャッピーも一緒に行きたいなの。頑張りたいなの。連れてってなの」

「ぼくだって結構強くなったんだ! 姉ちゃん達にだって負けないよ……です」

「ぼくも行くのだ! 魔物なんかやっつけちゃうなのだ! 」


 リリイ、チャッピー、ワッキー、レントンが必死に訴えかける。


「でも相手は魔物なんだ。危険かもしれないんだよ」


 俺がそう言うと、ニアが腕組みしながら飛んできた。


「もう…ほんっと、過保護なんだから。何の為にレベル上げしたのよ。この世界では戦いから逃げ切れる保証なんてないのよ。むしろ、ちゃんと戦えるようにしてあげる方が親心だって言ったでしょ! 」


 ニアからお説教されてしまった……。


 確かにそれはその通りなのだが……

 どうしても、前の世界の常識で考えてしまう……


 冷静に考えれば、ニアの言う通りだ。


 いつも俺が守りきれるとは限らない。

 いくらチートでもやれることに限界があるからね。体は一つだ。


 だったら、俺がいなくても生き残れる強さを身に付けさせてあげた方がいい。


 俺は……あっさり前言を撤回した。

 朝令暮改どころではないな……。


 ……ということで、もうぶれないことに決めた。


 むしろ、ちゃんと戦えるように、装備を整えることにした。


 サーヤ、ミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキー、リリイ、チャッピーにはレベル上げの時に使ったクロスボウと、前に傭兵達から没収した皮鎧を渡してある。


 ちなみに、リリイは元々着ていたお婆さん手作りの革鎧をケニーが『糸織錬金』で強化してくれたものを着ている。

 お婆さんの形見みたいなものだからね。

 ケニーが頑張って強化してくれていたので、見た目に反して一番防御力のある革鎧に仕上がっている。


 子供達の革鎧のサイズ調整もケニーがやってくれた。

 同様に強化もしてくれたらしい。

 ケニーってば、ほんと最近いろんな意味でお母さんっぽいんですけど……。


 家精霊であるナーナは、特に鎧を着る必要は無いようだが、一応みんなに合わせて革鎧を着ることになった。


 チャッピーが前に遊びで使ったことがあるということで、湖の底から出てきた掘り出し物『魔法のブーメラン』を預けることにした。


 そしてリリイが、『宝物召喚』で出てきた『魔鋼のハンマー』を使いたがったので渡してあげた。

 なんとなく不器用そうに見えるのに、意外と魔力調整が上手いようだ。


 あの歳で……大したものだ。

 将来有望だな……

 ……と、ついつい考えてしまう俺は……ただの親バカなのだろうか……

 もう完全に親目線になってしまっている自分に気づいてしまった……トホホ。


 あと、弓の扱いに一番慣れているミルキーに『テスター迷宮』の宝物庫で手に入れた『魔法の弓』を渡した。




 そんな感じで一段落した後、俺達は少し早めにトルコーネさんの宿屋に向かうことにした。


 宿屋の中に入るのは、人型メンバーとリンとフウだ。


 残りのメンバーは『家馬車』と一緒に外で待っててもらうことにした。


 俺達がドアを開けると、衛兵長から連絡が来ていたらしく、待ってましたとばかりに出迎えられた。


「グリム殿、お待ちしておりました。あれからどうしてたのですか? 心配してたのですが……」


「すみません。いつも心配かけて。実は急用でサーヤ達の知り合いのこの子達を迎えに行ってたのです」


 そう言って初対面となる、リリイとチャッピーを紹介した。


「私はリリイなのだです。よろしくお願いしますなのだ」


「チャッピーなの、よろしくしますなの」


 二人とも丁寧語はあまりできないようで、変な感じになっているが、ちゃんと頭を下げて挨拶をしている。

 今後教えていけばいいだろう。


「こんにちは。私はトルコーネ。よろしくね」


「二人ともかわいいわね。こんにちは、私はネコル。いつでも遊びに来てね」


「私はロネ。よろしくね」


 そんな感じでそれぞれに挨拶をした後、俺達は立ち話もなんなのでということで、少し早いお昼をここで食べることにした。


 なぜか居酒屋部分は、貸し切り状態にしてくれていたらしい。


 普段ならお昼から食べに来るお客さんがいるはずだが……。


 ネコルさんが腕によりをかけて料理を作ってくれるらしい。

 サーヤ達も手伝うみたいだ。

 あの悪魔の襲撃があった日に一度会っただけだが、結構打ち解けた感じになっている。


 そしてサーヤは、前回お邪魔した時に話していたようで、手作りのソーセージをお土産に持ってきている。


 ネコルさんは、前に食べてすごくおいしかった『牛のとろとろシチュー』と鳥の丸焼きを出してくれた。


 あとサーヤの持ってきたソーセージがいっぱい出てきた。いろんな種類だ。


 俺達はそんなおいしい料理に舌鼓を打った。


 とても幸せなひと時だったのだが……


 ソーセージを食べた、ロネちゃんが突然、わんわん泣き出してしまった。


 サーヤがびっくりしてロネちゃんに駆け寄ると、なぜかサーヤもロネちゃんを抱きしめたまま一緒に泣き出してしまった。


 ロネちゃんは、どうも美味しくて泣いていたらしい。


 自分でもどうして泣いたのかよくわからないみたいだ……


 食べたらとにかく美味しくて……何かこみ上げるものがあって……ただただ……涙が出たらしい。


 サーヤはその姿を見て、なだめようとロネちゃんに触れたら、まるで気持ちが移ったかのように一緒に涙が出てきてしまったらしい。


 心の琴線に触れるほどのすごい味のソーセージということだろうか……サーヤ、恐ろしい子……。


 これにはトルコーネさんもネコルさんも驚いていたが、その後泣き止んで、ソーセージにかぶりつくロネちゃんを見て安心したようだ。


 サーヤはなぜかしばらく涙が出ていたようだ。

 ロネちゃんもだ。


 そんな一幕を挟みつつ、楽しく食事を続けた。


 街の様子を聞くと……


 あの悪魔襲撃事件の後しばらく混乱が続いたが、衛兵長を中心とした衛兵隊の活躍で今は落ち着いているそうだ。

 ただ衛兵長も言っていたが、守護が死んで不在の為に、街の意思決定は出来ないみたいだ。


 今衛兵長が準備している魔物の撃退作戦も、文官と相談して衛兵長が主導で行っているらしい。


 ただ、もともとあのハイド男爵はちゃんと仕事をしていなかったようで、代官という実務を取り仕切る分官がいて、通常の行政はストップしていないらしい。


 という事は、やはり当面の問題はこれから押し寄せてくる魔物だけという事だろう。


 俺達がひとしきり話し終わった頃には、食べ終わって遊んでいた子供達もすっかり仲良くなったようだ。

 みんなで楽しそうに遊んでいる。


 ロネちゃんは、妹ができたのが楽しいかのごとく、張り切ってリリイとチャッピーの相手をしてくれている。


 リリイもチャッピーも、明るく楽しそうに話してて、俺は心が温かくなった。


 大森林や霊域の仲間達も、みんな子供達に優しくしてくれて、すごくよかった。

 特にリリイはケニーに懐いていたし。


 ただ、やはり同じ歳位の人族の子供同士というのは特別らしい。


 二人の屈託のない笑顔が見れてほんとに嬉しい。




 しばらく遊んだ後、何かを思い出したかのように、ロネちゃんが慌てて俺とニアのところに来た。


 どうしたのかな……?




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