88.初めての、種まき。

 サーヤは、『瞬間帰宅リターンホーム』で家に帰ってきていた。


「ただいま」


 軽やかな声でドアを開けると、皆が一斉に出迎えてくれる。


「あー、お帰りなさい、サーヤ」

「サーヤさんお帰り」

「お帰りなさい」

「お、おかえり……です」


 ミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキーがそれぞれドアに向かってかけてくる。


「問題なかった、みんな」


「うん大丈夫よ」


 ミルキーが妹弟達を見ながら笑顔で答えた。


「そう、それはよかった。それから……ワッキーくん緊張しなくて大丈夫よ。『です』なんてつけなくていいから、気楽に話しなさい」


 サーヤはワッキーの頭をなでながら微笑む。

 いつになく機嫌が良いようだ。


「うん、わかった」


「そっちはどうだったの? 大丈夫だったの? グリムさんは? 」


 ミルキーが、思い出したように矢継ぎ早に質問攻めにする。


「わかった、わかった、ゆっくり話すから、お茶でもいれましょう」


 サーヤが、みんなを玄関先からダイニング促す


「そ、そうね……。みんな無事なんでしょう……? 」


 やっぱり気になるミルキー……。


「ああ……ごめん、ごめん、大丈夫! みんな無事よ。ゆっくり話すわ。安心して」


「私、手伝う」

「私も」

「ぼくも手伝う」


 早く話を聞きたいのか……子供達も全員でお手伝いする。


 お茶の準備を終え、みんな腰かけると……


 サーヤはゆっくりと、大森林で起きていたことをみんなに説明した。


 ……そして……


 サーヤは本題を話す———


 グリムのパーティーメンバーに入って、今後行動を共にすることにしたという話だ。


「え……サーヤ、この家から出るってことなの? 」


 困惑するミルキー……

 妹弟達も不安そうな顔で見つめる。


「そうとも言えるけど…… ほら、私いつでもここに帰ってこれるから。『瞬間帰宅リターンホーム』で……」


 紅茶を飲みながら、あえて明るく答えるサーヤ。


「そう、そうだけど……」


 みんな不安顔のまま言葉が詰まる……


「大丈夫よ! みんなちゃんとここで一緒に暮らすんだから…… 。

 そうね……例えていうなら、私はお仕事に出るお父さんみたいな感じかな。

 朝にグリムさんところに行って、夜には帰ってきてみんなと過ごす……て感じかな」


「そうか、じゃぁ普通に一緒に暮らせるのね」

「なるほど」

「わーい! ……よくわかんないけど」


 例え話が良かったのか…… 子供達は安心したようだ。


「わ、私……」


 ミルキーが何やら言い淀む……


「実は……ここからが本題なの!

 今帰ってきたのは…… ミルキーも一緒にグリムさんのパーティーメンバーになってもらう為……。

 一緒に行きましょう。私がいれば、いつだって帰りたい時にこの家に帰ってこれるから」


 サーヤがミルキーの目をしっかりと見つめながら、それでいて柔らかく優しく言う。


「え…」


 サーヤの突然の、それでいて自分の気持ちを見透かしたような申し出に、ミルキーは戸惑い言葉が出なかった。


「やったー! お姉ちゃんそうしなよ。言ったでしょう、私達のことは気にしないでって、大丈夫だから」

「そうだよお姉ちゃん、チャンスだよ」

「ぼくもグリム兄ちゃんと一緒に行く! パーティーメンバーになる! 」


 妹弟達が、姉を後押しする。

 若干一名、よくわかってないようだが……。


「うーん……ワッキーくんは、もうちょっと大きくなってから……そして、もうちょっと強くなってからかな……。

 みんないつでもパーティーメンバーになれるから、焦んなくて大丈夫よ。まずは一番上のミルキーからね」


「そうだよワッキー、私達はまだ早い」

「同意。家を守る人が必要」

「ちぇー、やっぱり強くなんないとダメか……」


 妹弟達はみんな納得のようだ……


 そしてミルキーを見つめている……


「お姉ちゃん、迷うことなんてないでしょう。恋のチャンスを逃しちゃだめ! そうよ……恋のチャンスハンターになるのよ! 」

「激しく同意! 」

「そうだよ! 嫁さんになるチャンスじゃないか」


「な、な、何言ってんのみんな……サ、サーヤの前で……」


 湯気を出しそうなほど真っ赤になりながら、あたふたするミルキー。


 サーヤはそれを微笑ましく見ながら、ちょっとだけ悪戯っぽく言う。


「そうよミルキー……ぐずぐずしてると、私が旦那様を取っちゃうわよ! 」


「な、何言ってるのよサーヤ……だ、旦那様!? 」

「「「旦那様!? 」」」


 みんな驚いてサーヤを見つめる。


「だ、大丈夫。みんな安心して。そういう旦那様じゃないから。

 屋敷の執事が主人に対して使う意味の旦那様よ。

 まだ……そういう意味の旦那様じゃないから……」


 サーヤが少し頬染めながら説明する……。


「そ、そうなんだ……。え……まだ……? 」


 ほっとしながらも……再度モヤっとするミルキー。


「こ、細かいことは気にしないの……。それよりどうするのミルキー、私と一緒にメンバーになるでしょ?

 」


「う、うん。……でもグリムさんが認めてくれるかなぁ……」


「大丈夫よ。ちゃんと真剣にお願いすれば……」


「そうだね。私……お願いしてみる! 」


「わかった。じゃあグリムさん呼んでくるよ。ちょっと待ってて」


 そう言うとサーヤは、転移してしまった。





  ◇






『ミミック』達が召喚してくれた宝物中で、実は、俺が一番気になっているのが『カボチャの種』だ。


 農家の習性か、どうしても植えたくなってしまう……。


 『カボチャの種』は、袋に12粒入っていた。

 なんだか……種屋さんで種を買ってくるのと同じ感じだ。


 まず俺は、霊域のフラニーが畑用に開けておいてくれたスペースに出かけた。


 もともとのスペースの半分くらいは、みんなの広場用にすることになっている。


 だが、残り半分でもかなり広大な面積だ。


 俺は中央の道を基準に見て、東側の一画を『カボチャ』スペースにした。


 本来なら“土作り”からだが……この霊域の土では必要ない。


 霊素がたっぷりというのもあるが、そもそも森林の土が野菜作りに最適なのである。


 俺は、元の世界で森林の土、つまり落ち葉をたっぷり含んだフカフカで多種多様な微生物が息づく土作りを目指していたのだ。


 霊域以前に森林の土というだけで、必要な条件を十分満たしているのだ。


 育たないわけがない。


 栽培で一番大事な土作りが、もう出来ているのだから……。


 早速、種を植えることにする。


 カボチャは蔓が長く伸び、子蔓孫蔓と広がるので、栽培には広い面積を必要とする。


 元の世界では、株と株の間を七十センチから百センチ位空けて、苗を植えるのが一般的だった。


 だが、スペースもいっぱいあるし、この霊域の霊素たっぷりな土壌ならかなりの成長をするのではないかと予想した。


 それゆえ、株間も三倍にして三メートルにした。


 苗を作らず直接種を地面に蒔いた。


 そして、しっかり地面を踏み付ける。


 これは、『鎮圧播種』といって、種を蒔いた後、敢えてそこを踏み付けてしまうのだ。


 こうする事で、土が押し付けられ種と密着する。


 土の含む水分で種が発芽しやすくなるのだ。


 ここの土なら、そんな小技など要らないだろうが、つい癖でやってしまった。


 ただ種を土に埋めただけなのに、この高揚感、このワクワク感はなんだろう!


 やっぱり俺は野菜作りが好きなのだ!


 そしてもっと楽しみなのは……


 異世界補正……そう、俺のスキルだ。


 農業系スキルを二つ持っている。


『促成栽培』と『一粒万倍』だ。


『促成栽培』のスキルレベルからすれば、成長が三倍になる筈だ。


 通常カボチャは植えてから収穫まで三ヶ月ぐらいかかる。


 三倍の成長なら一ヵ月で採れてしまうということになる。


 そして『一粒万倍』のスキルレベルも10なので、万倍採れることになるが……


 さすがに一万個にはならないと思うが……

 ……すごい数のカボチャができるかもしれない……


 そう思うと、めっちゃ楽しみでしかない。


 しかも霊域の土だからね。


 今回は三粒だけ蒔いてみたが……。



 そして俺は、大森林の俺の家の近くにも少しだけ畑を作った。


 同様にして三粒蒔いてみた。


 どうしても場所によっての生育の比較をしてみたくなっちゃう……


 農家の性かも………。


 残りの種は、どこか普通の場所、霊域でも魔域でもない場所に植えてみたい。


 一カ所は、サーヤの家の近くに蒔けたらいいけど……

 あの綺麗なガーデンには蒔けないだろうけど……

 できあがっちゃってるからね……。


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