61.無事の、確認。

 俺は走りながら、『波動検知』を使い、小悪魔の気配を探す。


 どうやら……もうほとんどいないようだ。


 念話を仲間たちにつなぐ。


(みんな大丈夫かい? )


(リン、大丈夫)

(絶好調さ。任しとけ)

(はい)

(あちし、まじアゲアゲ! もう止まんないかんね)


(よし、今、残りの小悪魔の気配も消えた。もういないようだ。みんな、回復が必要な人がいたら教えてくれ、ニアと俺で向かう。それが終わったら、トルコーネさんの宿屋に集合だ! いいね)


 致命傷の人は、ほとんどいなかったが、それなりの数の怪我人がいたので、俺とニアで手分けして回復魔法『癒しの風』をかけた。


 もっとも、俺はあまり目立ちたくなかったので、走り去りながら、さりげなく魔法をかけてまわった。


 ニアは、普通に回復していたので、あちこちで人々に手を合わせられていたようだ。



 そして俺たちは、トルコーネさんの宿家に戻ってきた。


 扉が破壊されている……


「トルコーネさん、大丈夫でしたか?」


「ああ……グリム殿……なんとか大丈夫でした。一時は危なかったのですが……突然現れたスライムに助けてもらい……その後は、衛兵長のモールドが来たので助かりました。この子たちも戦ってくれたんです」


 なんと、サーヤさんとミルキーも戦ったみたいだ。

 手にクロスボウを持っている。


「よくがんばったね。大丈夫だったかい?」


「はい大丈夫です。多少の嗜みはありますので」


「うん、私はいつも弓で狩りをしてたから」


 二人共、大丈夫そうだ。

 ネコルさんや子供たちにも被害は無いようで、本当によかった。


 宿屋の一階部分は、結構めちゃめちゃになっているが、俺たちは、少し安心してその場に座り込んだ。


「今何か飲み物出しますから、ちょっと待ってくださいね」


 ネコルさんがいつも通りの感じで、声をかけてくれる。

 結構怖い思いをしただろうに、肝の据わった人だ。


 そんな時、壊れた扉から、三体のスライムが入ってきた………はて……?


「このスライムたちですよ。私たちを助けてくれたのは。この子たちがいなかったら、ほんとに危なかったんですよ」


 トルコーネさんが慌てて立ち上がり、スライムたちに近づくと撫でながら言った。


(リン、友達呼んだ。『合体指揮』で合体させた。みんな強くなって守ってくれた。もう仲間)


 おお……リンが呼んだのか……


 そういえば『種族通信』という種族固有スキルを持ってたっけ……。

 『合体指揮』は、ロイヤルスライムになったことによって覚えた種族固有スキルだったはず。

 この状況下で早速使ったのか……。

 いつもながらリンはすごいな……。


(((あるじ、よろしく。ポカポカ、嬉しい、仲間)))


 お、スライムたちから念話が来た……


 ということは……俺の使役生物テイムドになっているということか……

『絆』スキルの使役生物テイムドリストで確認すると、確かに入っていた。


(リン、この子たちを共有スキルの『テイム』で、仲間にしたのかい? )


(テイムしてない。お話しして、仲間に誘った。みんな喜んだ。あるじポカポカ、みんなポカポカなる)


 そうか……自主的に仲間になってくれたのか、この子たちは……


(みんな、俺はグリム、これからよろしくね。)


(((あるじ、ぼくたち、がんばる。よろしく)))


(あるじ、今、合体してるから、本当は九体いる)


 リンがプルプルしながら、現状を説明してくれる。


 なるほど……まだ合体中なわけね。

 リスト上のスライムと数が合わないと思ったら、三体で合体してるから、元は九体ってことなんだね。


(わかった。リン、後で人目につかないところで、合体解除してあげて)


(わかった)


「トルコーネさん、このスライムたちは、リンの友達みたいです。リンが呼んでくれたようです」


「おお、そうでしたか……これはこれは……ありがとね、リンちゃん。そして君たちもありがとう。これはグリム殿に助けていただいたも同然ですな…… 二度も命を救われました」


 リンとスライムたちはお礼を言われて、嬉しそうにプルプルしながら三回バウンドした。


「いえ、私は何も……リンが勝手にやってくれたみたいです」


「いえいえ、リンちゃんの行いは、主人のグリム殿の行いですよ。……ところで、広場の方は大丈夫でしたか? 大体の話はモールドから聞いたんですが……」


「ええ、もう大丈夫だと思います。出てきた小悪魔や、悪魔はみんな倒されたと思います。またニアとこの子たちが大活躍だったんですよ」


「まぁ当然よ、困ってる人を助けるのは、妖精女神としては、マストよね」


 ニアが腕組みしながら、空中で一回転する。


「おお、やはり……救い主……。 ありがとうございます。ニア様」


 トルコーネさん一家が深々とニアに頭を下げる。


 なんかほんとに女神として崇められそうで怖い……何よりも調子に乗ったニアを想像すると……怖いんですけど……。


 そんな時、俺に新たな念話が繋がった。


 霊域を守るフラニーからだった。


(主様、お耳に入れたきことがございます。大森林が、何者かの侵攻に遭っています。ケニー殿からは充分対処できるから、主様に伝える必要はないと言われたのですが……念のため、お伝えした方が良いかと……)


(大森林に? 魔物か? ケニーたちは大丈夫なのかな?)


(魔物の侵攻のようです。迷宮が狙われている可能性があります。今のところ、大丈夫のようではありますが……)


(わかった。こちらの騒動も一段落したし、念のため、俺も向かうよ。林の近くまで着いたら連絡するから、転移を頼む)


(かしこまりました。待機しております)


 ケニーなら、おそらく大丈夫だと思うが……

 なるべく早く様子を見に行こう。


 もう、この街は大丈夫だと思うが、念のため、新しく仲間になったスライムたちを監視要員として残すことにする。

 合体解除しないで、レベル15のままがいいだろう。


 俺は仲間たちに、念話でフラニーからの連絡を伝え、みんなで様子を見に行くことを告げる。


「トルコーネさん、もう大丈夫だと思いますので、私たちはこれで失礼します。サーヤさんの家も心配ですので、確認してきます。またゆっくりお邪魔します」


 俺はそう言って、サーヤさんとミルキーたちを連れ、トルコーネさんの宿を後にした。


 何事か察知したのか、サーヤさんが事情を訊いてきたので……


 簡単に、霊獣たちが帰った霊域の近くが、何者かの襲撃を受けているので、様子を見に行くという話をした。


 すると今回も、サーヤさんが同行を申し出た。

 今回の理由も、自分が一緒なら、簡単にこの家に戻ってこられるからという理由だった。


 確かに便利なのだが……

 ドライアドのフラニーの転移『森妖精の通り道フェアリーロード』で、林まで戻れるはずだし……


 危険もあるので、断ろうとしたのだが……


「グリム様、私なら大丈夫です。自分の身は自分で守ります。伊達に長生きしておりません。是非ご一緒させてください」


 今回の戦いで、血が騒いだのか、ハイテンションのサーヤさんに、押し切られてしまった。

 もしかして……バトルジャンキーなんてことは無いよね……

 そんなギャップ萌えいらないからね……。


 俺は、ミルキーたちに留守番を頼み、サーヤさんを連れて仲間たちとともに、林からフラニーの『森妖精の通り道フェアリーロード』で転移した。


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