45.衛兵長と、報奨金。

 もうすっかり日が暮れてきていた。


 俺たちは、夜になる前に、マグネの街の関所にたどり着くことができた。


 トルコーネさんは、顔が広いらしく、衛兵たちとも顔見知りのようだ。


 俺は、トルコーネさんの恩人ということで、簡単なチェックだけで中に入れてもらうことができた。


 今は、衛兵詰所の一角にある応接室に通されている。


 トルコーネさんの知り合いだという衛兵長を待っているところだ。


 ドスン、ドスンと大きな足音が近づいてくる。


「トルコーネ、大丈夫かい? 盗賊に襲われたって聞いたぞ、ほんとよかった! 」


 ドアを開けるなり、大柄な金髪ヒゲ男がトルコーネさんに抱きつく。この人が衛兵長なのだろう。


「やあ、モールド、ほんと死にかけたんだよ。このグリム殿と妖精女神様がいなかったら、君とも再会できなかったよ」


 トルコーネさんが、衛兵長の背中を叩きながら喜びをかみしめている。


「改めて紹介するよ。こちらがグリム殿、こちらがニア様だ」


「グリムです。よろしくお願いします」

「ニアよ。よろしくね」


「これはこれは、わが友を救っていただきありがとうございます。グリム殿、それにニア様、お会いできて光栄です。申し遅れましたが、私はこの街の衛兵隊の隊長しておりますモールドと申します。本当に友を救っていただき感謝いたします」


 丁寧に挨拶してくれた衛兵長だが、ニアに対しては、より丁重な気がする。


 以前ニアが、人族は、好意的なはずだと言っていたが、本当に妖精族に対して、敬うようなところがあるのだろうか……。


 俺たちはソファーに促され、盗賊に襲われた経緯などを聞かれた。


 途中、女性の衛兵が飲み物を持ってきてくれた。

 金髪ショートの結構な美人さんだった……

 つい目で追ってしまったが、久しぶりに人に会ったんだし……

 異世界で見る初めての人間の女性だし……しょうがないと思う……しょうがない……。


 飲み物は紅茶だった。

 この世界では、紅茶が一般的な飲み物なのだろうか。


 コーヒーよりも紅茶の方が好きだからいいんだけどね……日本茶なんてないよねきっと…… 。


 俺は、久しぶりの飲み物に舌鼓を打った。

 甘党としては、砂糖が欲しいところだったが、そんな贅沢は言っていられない。

 久しぶりの飲み物は、砂糖なしでも十分に美味しく感じられた。

 いい香りが立っていたし、高級な茶葉を使ってくれたのかもしれない。


 盗賊たちを捕縛した経緯は、トルコーネさんが説明してくれた。


 そして、俺の一部記憶喪失という状態を説明してくれ、身分証の発行を依頼してくれた。


 衛兵長のモールドさんは、早速、先程の女性衛兵を呼んで、俺の身分証の発行依頼をしてくれた。


 俺は、申請用紙に、『名前』『年齢』『職業』『主な所持スキル』などを記入した。

 もちろん、偽装ステータスのものだ。

 言葉もそうだが、文字も日本語のようだ……。

 本当に日本語なのか、頭の中で日本語に変換されているのかは、わからないが…… 。


 そして、白髪の老紳士が入室してくると、申請用紙を見ながら俺を凝視した。

 申請内容に偽りがないか『鑑定』スキルで、確認する決まりになっているらしい。


 少し焦ったが、俺のステータス偽装はうまくいっていたようだ。


 問題なく手続きは終わり、身分証を貰えた。

 硬い木板のようなものに、情報が刻まれている。


 リンやフウは、俺のテイムドなので身分証は関係ないし、シチミはカバンだし…… 。

 ニアについては軽く振ってみたのだが……


 衛兵長の「そんな恐れ多いです」の一言で終わってしまった。

 どうもフリーパスのようだ……。


 トルコーネさんの話によれば、やはり人族は、基本的に妖精族を大事にしているし、地域によっては崇拝しているところもあるようだ。

 妖精の加護を得られると、大きな繁栄がもたらされるという伝承も数多くあるらしい。


 この地域の領主である“ピグシード辺境伯”は、初代様が妖精族の加護により、命を救われ、武功を立てた伝説があるらしい。家紋も羽妖精になっているのだそうだ。


 なるほど、それ故ニアに対して、丁重な感じになっていたわけだ。


 盗賊たちの引き渡しについても、書類のサインだけで簡単に済ませてくれた。


 驚いたことに、盗賊捕縛の褒賞金を即金でくれるらしい。


 盗賊は一人について、三十万ゴルもらえるようだ。

 賞金首になっていると百万から一千万ゴル懸賞金がついていることもあるらしい。


 今回捕まえた盗賊たちのリーダー風だった男は、賞金首になっていたようだ。

 もっとも、懸賞金は一番低い百万ゴルだったが。


 この懸賞金は、普通の褒賞金とは別にもらえるらしく、俺は十人分で三百万ゴル、懸賞金で百万ゴル、合わせて四百万ゴル受け取ることになった。


 まだ、貨幣価値がどのぐらいかわからないから、ピンとこない……。


 なんとなく物価的なことを聞いてみると、宿屋などで外食するのに三百ゴルから五百ゴルかかるらしい。


 一食、ワンコイン五百円と考えると、俺がいた日本とほぼ同じ貨幣価値、物価と考えても良いのではないだろうか……。

 そうだとすれば、すごくわかりやすい……まさにイージーモード……イージーモード万歳!!


 今回、四百万ゴル受け取り、所持金にコウリュウド王国金貨四百枚つまり四百万ゴルあるから、合計八百万ゴルあることになる。

 ほかにもコウリュウド王国の銀貨、銅貨、銭貨が結構ある。


 日本円で考えると、八百万円以上持ってることになるはずだ。

 本当にしばらくお金には困らなそうだ。

 安心するとともに、少し嬉しくなった。

 今日はどこかの店で、一杯やりたい気分だ!


 金貨百枚入りの袋を、四つ渡された。

 かなりの重量だが、俺は魔法鞄というかシチミ鞄にしまいつつ、『波動収納』に入れた。


「そ、それは…魔法鞄なのですか?」


 これを見ていたトルコーネさんが、衛兵長と顔を見合わせながら驚いている。


「ええ、そのようです。私もよく覚えていないのですが……使い方は……なんとなくわかるんですよね」


 こんなに驚かれると思わなかったので、少し、しどろもどろな返答になってしまった。


 トルコーネさんによれば、商人や行商人なら魔法鞄を持っていても不思議はないが、下級でも、かなり高価であるため、持ってる人は少ないそうだ。


 持っていることを、対外的に隠した方がいいか二人に訊いたところ、そこまでする必要はないとのことだった。

 この小さな町では、魔法鞄を持っていることは確かに珍しいが、騒ぎになるほどのことではないとのことだ。



 俺たちは、一通りの手続きを終え、衛兵詰所を後にした。


「今晩の宿を探さなきゃなりませんよね。いい宿があるんです。紹介しますよ」


 上機嫌なトルコーネさんの申し出を受け、お薦めの宿に案内してもらうことにした。


 関所から少し歩き、メイン通りから一本奥に入ったところに、小さめの宿屋があった。


 雰囲気はなかなか良さそうだ。


 俺が宿屋のドアを開けると……


「お父さん、お帰りなさい! 」


 ドアを開けた俺に、突然女の子が飛びつくように抱きついた!


 お父さん? ………はて?


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