42.情報、収集中。
俺は、御者台のトルコーネさんの隣に座らせてもらい、風に吹かれている。
自分で走るよりも、街に着くスピードは遅くなってしまったが、このままトルコーネさんと一緒に、関所を通過した方が確実だ。
一人では何かと対処に不安があるが、トルコーネさんと一緒なら安心だ。
記憶喪失のことも言ってあるので、いろいろフォローしてくれると思う。
城門までの間、俺は更に情報収集する。
まず気になっているのはお金のことだ。
俺の持ってる所持金の中に、現在でも使えるものがあるのか……。
トルコーネさんによると……
お金は、単位を“ゴル”というらしい。
そして、驚いたことに大陸中のほとんどの国が同じ“ゴル”を使っているらしい。
それぞれの国毎に硬貨のデザインは違うものの、金貨1枚は、どこの国の発行のものでも、 一万ゴルの価値として使えるそうだ。
通貨単位が統一されているなんてかなり便利だし……その面ではかなり進んでいるような気がする……。
銭貨一枚が十ゴル、銅貨一枚が百ゴル、銀貨一枚が千ゴル、金貨一枚が一万ゴルになるらしい。
なんとなく……十円玉、百円玉、千円玉、万円玉っていうイメージかな……意外とわかりやすいかも……。
ちなみに、これから行くコウリュウド王国の硬貨は、例えば、金貨なら『コウリュウド金貨』と呼ばれるようだ。
俺はこっそり頭の中で、『波動収納』にある硬貨の種類をリストから確認する。
迷宮で手に入れた硬貨の中には、“コウリュウド”とつくものは無いみたいだ。
残念だがしょうがない……想定の範囲内だ……何せ三千年前に滅んだ帝国の隠し資産なのだから……。
その後の歴代マスターが、個人的に収集してくれていれば、あったのかもしれないが……無いものはしょうがない……。
というか……『テスター迷宮』が休眠状態に入ったのが二千年前位らしいから……その当時は、まだコウリュウド王国がなかったのかもしれないけどね……。
気を取り直して、『マナテックス大森林』や迷宮のアンデッドたちを殲滅したときの戦利品の中にあった硬貨のリストを確認する……
……よかった!
“コウリュウド”とつく硬貨がある!
金貨が四百枚以上ある。
銀貨は六百枚ぐらいある。
銅貨も、銭貨も千枚以上ある。
これが、どれぐらいの経済価値かわからないけど……
おそらく、すぐにお金に困るようなことにはならないと思う……
ほっとした……。
試しに、一枚だけ迷宮で手に入れた金貨の中の『マシマグナ第四帝国金貨』というのを出してみた。
この金貨が普通に使えるなら……俺はかなりの大金持ちのはずだが……
俺はトルコーネさんに、記憶喪失でよく思い出せないがと前置きしながら、その金貨を見せてみた。
「この金貨……見ないですねぇ……手に取ってみてもいいですか……。
………おお!
こ、これは……古代金貨ではないですか……いったいどこでこれを……」
トルコーネさんが、腰を抜かさんばかりに驚き、馬車を止めてしまった。
ニアもトルコーネさんの様子に、興味津々顔だ。
「すみません。記憶がなくてよくわからないんですが……私の鞄に一枚だけ入っていたのです……
硬貨袋とは別に入っていたので、商品か、コレクションのようなものかもしれませんが……」
「そう……そうですね……すみません。記憶がなかったんですよね……。
あまりに驚いて……取り乱してしまって。
これは“古代金貨”といわれるもので、何千年も前の古い時代の金貨です。
現代の金貨と同じぐらいの大きさなので、使われている金の量は同程度と思いますが、古代金貨ということで大きな付加価値があるんです。
通常の金貨の五倍以上の価値は確実にあります。収集家なら十倍以上つけるでしょう。
古代金貨は、なかなか発見されないので、遺跡発掘などで見つかると大騒ぎになります。
もし、その金貨を換金するなら仕方ありませんが、そうでないなら、あまり人に見せない方がいいと思います。
確実に目立ちますよ。その分、不埒な輩に目をつけられる可能性も増えますから。
誰か信頼のおける人に販売するか、自分のコレクションとしてとっておくのが良いでしょう。」
トルコーネさんが、すごい勢いでまくし立てた。
息継ぎ、いつしてたんだろう……
なるほど……そりゃそうだよね。
三千年前に滅んだ国の金貨なんだから……。
トルコーネさんの話だけで判断するのは時期尚早かもしれないが、俺が迷宮で手に入れた大量の宝物は、あまり人前に出さない方が良さそうだ。よほど困った時以外は、使えないということだな……。
右も左もわからない異世界で、悪目立ちするわけにはいかないし……しょうがない……。
まさに、宝の持ち腐れ状態だな……。
まぁ、もともと俺が稼いだものじゃないし……文句は言えないよね。
とりあえず、アンデッドたちを倒した時に手に入れた硬貨で、なんとかなりそうだからいいね。
俺はもう一つ、気になっていることを訊いた。
この世界に、身分証のようなものが存在しているかどうかだ。
トルコーネさんによれば……
身分証は、みんなが持っているわけではないが、旅をする場合は、関所を通りやすくなるため、あった方が便利とのことだ。
役場のようなところで、発行してくれるらしい。
俺は、身分証らしきものを持ってないことを告げると、魔物に襲われた時に落としたんだろうと納得してくれた。
関所を通過する時に、衛兵に事情説明して、発行してくれるように頼んでくれるそうだ。
衛兵長が知り合いらしい。
盗賊たちの引き渡しの手続きも、その時できるそうだ。
やはり、トルコーネさんと一緒に関所を通るのは大正解だった。
もうすぐ、関所が見えてくるようだ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます