13.ミミック、開く!

 俺たちは、『迷宮管理システム』のダリーに迷宮の地下五階に転送してもらった。


 ここは、なかなか広い。


 俺たちが最初にいた迷宮地上部分の二階は、体育館二つ分ぐらいの大きさだった気がするが、地下部分の各階層は、ドーム球場ぐらいの大きさらしい。


 地下部分と地上部分で全く大きさが違う構造のようだ。

 どちらかというと、地下部分が本体で、地上部分はおまけ的な感じなのかもしれない。


 俺たちが現れるなり、狼、猪、熊、鷲の魔物たちが一斉に寄ってきた。


 襲われるのかと思い一瞬焦ったが、敵意は感じられなかった。


 身構えつつも様子を窺っていると……


 やはり敵意は無いようで……みんな、なんとなく“待て”状態になっている。

 ……ちょっとかわいい感じだ。


 狼に至っては、尻尾をビュンビュン振っている。

 よく見ると、みんなモフモフだし、やっぱりかわいいかも。


 確かに普通の動物の時のサイズと比べると、一回り以上大きいが、魔物だとは思えない雰囲気を出している。

 もちろん今も魔物なのだが、浄化された魔物であり、全く別物といっていいのではないだろうか。


 ダリーの話では、浄化された魔物(浄魔というらしいが)は、スキルやステータスは以前同様で、弱くなるわけではないらしいので、テイマーとしては頼もしい限りだ。


 まず狼に話しかけてみる。

 正確には『マナ・ウルフ』というらしいが。

 普通の狼を少し大きくした体躯の灰色の狼が三十頭いて、レベルは平均して15前後だ。


 他に、黒色の格上らしき個体が二頭いる。

『マナ・ファング・ウルフ』というらしい。レベルは33さんと34だ。


 さて、どう話したものか……


 まずは挨拶………


「あー、オホン、私が君たちのマスターになったグリムです。よろしく」


(ありがたき幸せにございます。ご主人様。われらは、ご主人様に忠誠を誓います)


 代表して『マナ・ファング・ウルフ』のレベルの高い方が念話で答えた。

 この群れのボスのようだ。


 なんか話が早い……

 抵抗感とかないのだろうか……


 それにしても、飼い犬と話せた感じで、ちょっと嬉しい。


「早速だが、君たちにはこの迷宮の地上一階の守護をしてもらいたい。外敵の侵入から守ってほしい」


(ご主人様の仰せのままに)


 俺の依頼に即答してくれた。


 ここはひとつ、このままの流れで……


「あー、オホン、ちょっと……触ってもいいかな?」


(ありがたき幸せにございます)


 おお、やった!


 俺は早速ボスの『マナ・ファング・ウルフ』の頭を撫でた。


 尻尾を振ってくれている。完全に飼い犬状態だ。

 このモフモフ、いいじゃないか……ムフフ……


 そんな俺の様子を見ていたニアも、恐る恐るマナファングウルフの後頭部のあたりに飛んでいき、撫でてみたようだ。


 特に嫌がる様子もなかったので、ニアは頭にもたれ掛かるように体を沈めた。


 モフモフのベッド状態だ……羨ましいヤツめ。


 やっぱこうなってくると、名前をつけてあげたくなるよね。


 ボスに“ウルル”という名前をつけてやると、尻尾がちぎれそうなほど高速で振られていた。

 喜んでくれたみたいだ。


 他の狼たちも物欲しそうな顔で見つめてくる……。


 ヤバイ……


 みんなにつけてあげたいけど、今名前をつけだすと、話が進まなくなる……


 ここはじっと我慢して……話の終わったウルフたちを、ダリーに頼んで地上一階に転送してもらった。


 ……のだが……


 やはり名前をつけてあげないまま、送り出したことが……なんとなく心残りだ。


 どうにかしたいけど……数が多いし……何か良い方法は無いだろうか……


 俺は、『自問自答』スキルのナビゲーターを呼び出した。


 起動されてなくても、今までの全ての状況はわかっているらしい。さすが俺自身!


 良い方法がないか相談したところ、名前は後から変更できるので、とりあえず識別のために番号を割り振ればいいのではないかとのことだ。


 …… それしかないか……

 とりあえずってところが俺らしい……


 それにしても数が多くて大変だな……


 そんなことを思っていると……


(私はナビゲーターの役割ですが、ある程度は秘書的な仕事や雑用もこなす機能があります。私が使役生物テイムドリストにある各魔物に、『テイム』『命名』『絆』の各スキルの相互活用により名前を付与することも可能です。つまり、この仕事を私に丸投げすることが可能です)


 おお、ワンダフル!


 さすが俺自身! 俺の気持ちがよくわかってる。

 丸投げ最高!


 自分自身に丸投げってよくわからんが、並列処理とか並列思考とかそんな感じなんだろうか……

 そのうち分身の術もできたりして……


 まぁそれはともかく、お願いしよう。


(かしこまりました。名付けの法則は“場所”、“種類”、“通し番号”とします。『マナ・ウルフ』の場合なら、TMW1 (テスター、マナウルフ、1)となります。よろしいですか? )


(もちろん、お任せしますとも。何せ丸投げですから……)


 いやー、これで助かった。

 ありがとうナビー!


 その後、鷲の魔物(マナ・イーグル)たちにも、同様に話をして、地上二階に移動してもらった。


 猪と熊の魔物たちや各階層の魔物たちにも同様に挨拶をして、それぞれ階層を守護するように指示を出した。


 今後指示を出しやすくするためにも、各階層のリーダーを決めて、その魔物だけは、識別番号ではない名前をつけてやった。

 階層によっては、何種類かの魔物が混在しているところもあるが、一番レベルの高いものをリーダーに指名した。


 リーダー以外の魔物たちは、しばらく識別番号の名前で我慢してもらおう。


 ちなみに、各階層のリーダーは……


 地上二階——『マナ・ダガー・イーグル』(鷲の魔物)のワシシ

 地上一階——『マナ・ファング・ウルフ』(狼の魔物)のウルル

 地下一階——『マナ・ナゲナワ・スパイダー』(投げ縄蜘蛛の魔物)のナワワ

 地下二階——『マナ・ペーパーワプス』(アシナガバチの魔物)のワププ

 地下三階——『マナ・クイーン・アーミー・アント』(軍隊アリの魔物)のアリリ

 地下四階——『マナ・デスサイズ・マンティス』(カマキリの魔物)のカママ

 地下五階——『マナ・シールド・ベア』(熊の魔物)のアベベ


 俺の名前の付け方を見て、ニアは終始ジト目で見ていたが……

  名前のセンスについてのクレームは受け付けていないのだ……あしからず。

「なんで熊だけベアアじゃなくてアベベ?」とか、ぶつぶつも言っていたが……知りません……。




 ◇





 今は、迷宮地上一階の出口を出た広場のようなところにいる。


 俺と、ニア、リンに加え新しいお供のシチミも一緒だ。


 シチミは、なんと『ミミック』だ。


 手と足があり、歩きまわる不思議な宝箱だ。


 地下二階に行った時に、突然、宝箱が歩いてきたからびっくりしたが、何かと思えば、『ミミック』だった。


 この『ミミック』は、不思議なことに念話ではなく直接会話ができる。


 擬態のスキルの応用で声帯のようなものを作っているらしい。

 リンと同じような感じかな。


 ニアに訊いたところによると、『ミミック』は、『オリジン』という通常の魔物とは異なる珍しい存在らしい。


 通常、魔物は、普通の生物が大量の魔素を浴びることで変質し、魔物化するらしいのだが、『オリジン』は初めから魔物として存在しているらしい。


 このため『オリジン』は、通常の魔物のように精神に変調をきたしておらず、理論上は平和的に会話することも可能らしい。


 それ故、テイムできる可能性もあるそうだ。


 ただ、実際は『オリジン』はほとんどが高レベルで、テイムできる可能性は限りなく低いらしい。


 もっとも、『ミミック』はそれほどレベルが高くないので、よりレアな存在かもしれない。


 『ミミック』は、全部で七体もいた。


 みんな妙に人懐こく、お供についていきたいと懇願してきたのだ。


 最後は駄々っ子のようになってしまったので、一体だけ連れていくことにした。


 “草の蔓”によるくじ引きという厳正なる抽選によって、お供の一体が決まった。


 外れた『ミミック』たちが、メチャメチャぶーたれていたので、かわいそうになり、特別に全員に識別番号ではない名前をつけてあげることにした。


  七番目に引いて、当たりをつかんだラッキーな一体には、ラッキーセブンな『ミミック』ということで、シチミとつけた。


 後は、レベルの高い順からイチミ、ニーミ、サンミ、ヨンミ、ゴーミ、ロクミとした。

 若干、唐辛子というか調味料っぽい名前のやつはいるが、決して無理に狙ったわけではない……決して……。


 この時もニアは、ジト目で見ていたが……


 『ミミック』たちはみんな喜んでくれたようで、箱の蓋をバンバン開閉させていた。


 ちなみに、シチミのステータスは……


<種族> ミミックボックス

<レベル> 16

<通常スキル> 『かみつきLV.5 』『物理耐性LV.6 』『気配察知LV.4 』

<種族固有スキル> 『箱擬態LV.6 』『マルチトラップLV.6 』『時空間収納LV.4 』『宝物召喚LV.4』


 ……となっている。


 『箱擬態』は、箱型のものなら、ある程度大きさ自由に擬態できるらしい。


 『マルチトラップ』は、様々な罠を仕掛けられるらしい。


 『時空間収納』は、俺の『波動収納』と同じように、時間が止まった状態で収納、保存できるらしい。


 ニアによると、時空間魔法の系統ではないかということだ。


 ちなみに、『ハイスライム』のリンの『体内保存』は、時間は止まらないらしいので、通常の『アイテムボックス』と同じような空間魔法系のスキルなのだろうとのことだ。


 『宝物召喚』は、ランダムに宝物が召喚できるらしい。

 出てくる宝物の価値は、スキルレベルと消費する魔力によるとのことだ。


 スキルは通常、魔力を消費しないタイプも多いらしいが、このスキルは完全に魔力を消費する魔法系のスキルのようだ。

 これも、ニアの見解ではあるが……。


 スキルレベル4では、すべての魔力を使っても、伝説の秘宝クラスの宝が出る確率は、ほとんどないとのことだ。

 それでも、どんな宝が出るか楽しみな感じは、まるでガチャだ。


 毎晩、寝る前に、シチミの残り魔力を使って召喚すれば、ガチャ気分で楽しそうだ。


 魔力は寝てる間に回復するだろうし。

 今後の毎日のささやかな楽しみとして良さそうだ。


 ちなみに、淡い期待を込めて聞いてみたら、あくまで召喚できるのは物品のみで、キャラクターは召喚できないそうだ。

 そりゃそうか……。


 そうそう、これからが本番だ……

 迷宮から出てきたのは、大森林の魔物たちに会うためだった。


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