8.ピクシーの、その先へ。

「ニア、どう? 確認終わった?」


 声をかけると、寝転んでいたニアが跳ねるように起きた。


「ずいぶん長かったわね。待ちくたびれて寝ちゃったわよ」


 俺は、『通常スキル』についての簡単な説明を一通りした。


 『固有スキル』については、俺自身の理解が追いついてなく、詳しく説明することが難しいし、ニア自身があまり他人に話すなと言うのだから、ニアに関係しそうな『絆』スキルについてだけ簡単に説明した。


 有効そうな『波動』スキルの一部の機能についても、簡単に説明した。


 もっとも、『絆』スキルで何やらひらめいたらしく、悪そうな顔でニヤニヤしていて、波動スキルの話はあまり聞いていなかった気がする。

 他の『固有スキル』については触れていない。


 そして、ニアのスキルについても簡単に教えてもらった。


 ニアは、現在レベル45で、各ステータスも大幅にアップしたらしい。

 超ドヤ顔&古臭いポーズで、残念感満載だったのはお約束である。

 もちろん、やさしさスルーは発動した……。


 こんなに教えていいのかと思ったが、嬉しくて、言いたくて仕方なさそうだったので、聞いておいた。

 もちろん情報を悪用するつもりはないし、将来、『絆』スキルの『共有スキル』コマンドを活用するためにも、ある程度パーティーメンバーのスキルは知っておきたいところなのだ。


 内容はというと……


 通常スキルが、『風魔法適性LV.10』『風魔法——突風LV.10』『風魔法——風弾ウィンドショットLV.10』『風魔法——癒しの風LV.10』『風耐性LV.10』『風魔法——風盾ウィンドシールドLV.10』『魅了耐性LV.10』


 種族固有スキルが、『ハニートラップLV.10』『ピクシーショットLV.10』『ウィンドミラージュLV.10』


 なかなか充実している。

 ピクシーは、風に特化した種族らしい。

 攻撃、防御、回復、補助と万遍なくスキルがあって羨ましい。


 そして、さらにニアから大事な相談をされた。


 なんとピクシーは、レベル20になると、『ハイピクシー』にクラスチェンジできるらしい。

 ニアは、レベル45もあるから、『ハイピクシー』にクラスチェンジできるわけだ。

 その方が新しいスキルが手に入るらしい。

 ちなみに、ピクシーの『種族固有スキル』や他のスキルも全て受け継がれるらしいし、攻撃力などのステータスも全て持ち越しらしい。レベルも45のまま持ち越しのようだ。


 つまりクラスチェンジには、メリットしかないのだ。

 ……うらやましいヤツめ。


 もちろん、ニアには初めての経験であり、何が起こるか分からないから不安だとのことだ。


 もっとも、よくよく話を聞くと、一番引っかかってるのは、容姿が変わったらどうしようということらしい。

 美少女じゃなくなったらどうしよう……とか、マダムみたいな色っぽいお姉さんには、まだなりたくない……とか、ぶつぶつ言っていた。


 ピクシー族は、クラスチェンジしても、大きく容姿は変わらないらしいのだが、なかなか踏ん切りがつかないらしい。


 しかし、こんなメリットしかないクラスチェンジをやらない手はない……。

 ここは何とか後押ししてあげたい。


 どうしたものかと、いろいろ考えたが、ここは、ニアさんの美少女スイッチを刺激するしかない。


「ニアなら、クラスチェンジでもっと美少女になったりしてね」


 この一言に、ニアはピクンと反応した。


 しばらく真顔になった後、両手をポンと叩いた。


「そうよ! そうよ! 私は、もっと美少女になるに違いないわ! そう、真の美少女よ! ……ムフフフフ……」


 作戦は成功のようだ……。

 ニアが単純で助かった。


 そして決めたら早いようだ。


「じゃぁ、行くわよ! クラスチェンジ! ハイピクシー!」


 ニアが叫ぶと同時に、その体が光に包まれる。

 球体に広がったその光は、まるで繭のようになった。


 数秒で光の繭が弾けると、ニアが元気に出てきた。


 その姿は………


 全く変わってなかった……。


 ちょっと笑ってしまった。


 それを見たニアは、「なによ!」と言いながら、自分でも確認したらしく、ちょっと安心、ちょっとがっかりの微妙な感じになっていた。ここはあえて、スルーしてあげるところだろう……やさしさスルー発動!


 気を取り直してニアに聞いたところ、各ステータス数値が結構上昇したらしい。

 平均すると5前後は上がっているようだ。

 スキルも大幅に増えたとのことだ。


 その内容は……


 『通常スキル』が、『雷魔法適性LV.10』『雷魔法——雷撃サンダーLV.10』『雷魔法——雷球サンダーボールLV.10』『雷魔法——植物成長LV.10』『雷耐性LV.10』『雷魔法——雷盾サンダーシールドLV.6』『眠り耐性LV.5』


 『種族固有スキル』が、『スリープトラップLV.10』『ピクシーストライクLV.10』『サンダーアロー乱れ撃ちLV.3』


 これまた一気にスキルが増えたね。


 スキルレベルは、どうもレベル10でカンストって感じかな。

 レベル45のニアは、『ハイピクシー』としても、実質レベル25相当のためか、ほとんどの新スキルがレベル10になっている。


 『ハイピクシー』は、雷特化型だね。

 これでニアは、風魔法と雷魔法が使えるってことか。


 今回も攻撃、防御、補助と幅広いスキル構成だね。

 回復系はないみたいだけど……植物成長って回復系じゃないよね。


 ニアに聞いたら、本当に植物の成長を促進させるスキルらしい。


 農家をやってたからわかるけど、カミナリの放電で空気中の窒素が固定され、植物が吸収して生育が良くなると言われている。

 窒素は、植物の生育に必要な三大要素である窒素、リン酸、カリウムの中の一つで、植物の成長に大きく作用する要素なのだ。

 稲妻という語源も、カミナリの多い年は米の生育が良いということにある。

 稲のパートナーということなのだろう。

 戦闘で使える気はしないが、将来、畑でも持ったら、ニアさんに頑張ってもらおう。


 『固有スキル』にも、謎名称があったが切り札ということだし、深くは訊いていない。


 ニアの話では、『ハイピクシー』も、レベル20相当つまりレベル40でクラスチェンジできるらしく、『ロイヤルピクシー』という強力な種族になるそうだ。

 これもすぐに実行できるのだが、今は見送ることにしたらしい。


 『ハイピクシー』のスキルに慣れるためにも、しばらくは『ハイピクシー』のままでいたいらしい。

 ……というのは多分表向きで、本当は今回あまりにも外見の変化がなく、つまり本人が期待していた更に上の美少女、“真の美少女”にならなかったのが、少し悔しいのだと思う。

 万全を期して、次のクラスチェンジに臨みたいのではないだろうか。

 多分当たってると思うが、スルーしてあげよう。――やさしさスルー


 今でも充分美少女だし、何よりレベルアップで強くなってる。

 無双できるかどうかはわからないけど、かなりイケてるんじゃないだろうか。


 そういえばこの世界では、どのくらいのレベルが標準なのだろう?


 ニアに訊いてみると、人族でも妖精族でもレベル50を超えるのは、少数らしい。


 ニアが本で読んだ知識によると、人族は成人年齢の十五歳でレベル6前後、二十歳以上でレベル10前後で落ち着くらしい。

 これはおそらく、二十歳ぐらいまでは成長期でレベルが上がりやすいからだろう。

 兵士や騎士など戦闘する人間は、初級でレベル15前後、中級クラスでレベル30前後、団長クラスでレベル40から50 程度、レベル60を超えると英雄クラスになるらしい。

 過去の有名な伝説の勇者や英雄たちでもレベル80程度だったようだ。


 つまりニアのレベル45は、かなり凄いということだ。


 そして俺のレベル9は、極めて普通ということだ……。

 ニア、うらやましいヤツめ。


 さて、ニアの確認は終わったことだし、今まで空気のような不遇な扱いを受けていた我が愛しき使役生物テイムド第一号、リンちゃんの確認をしてあげよう!

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