第9話 別離
珍しく彼が「すぐに会いたい」と電話をかけてきた。休みだった私は、傍にあったカバンを引っ掴んで家を出た。彼と出会ったあの公園へと向かう。
彼はあの日のようにベンチへ座っていて、私の姿が見えると席を立ちこちらへと歩み寄ってきた。
「何かあっ……」
言うより先に、彼に抱きしめられる。
「俺、ハイキされるかもしれないんだ……」
「え?」
聞けば、最近カフェのバイト中たまに上の空だったり、研究者の制止を振り切り私に逢いに来たりしていたらしい。
研究者は言った。
「『人間らしいアンドロイド』を目指してはいたが、主人の命令に背く奴は要らない。従順で、言う事だけ聞いている。そんなアンドロイドが必要なんだ」
だから、廃棄すると他の研究者と話をしているのを、偶然黒斗君は耳にしてしまったらしい。
「君に逢えなくなるなんて、廃棄なんて嫌だ」
カタカタと小刻みに震える彼の手を、そっと握り返す。
「私はずっとそばに居るから。だから、泣かないで。黒斗」
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