第7話 名前

 とりあえず会える日は会おうということで、連絡先を交換することにした。

「あの、お名前は?」

「ない」

「え?」

「人間として暮らしていく為の名はあるが、あまり好きじゃない。君がつけてくれないか?」


 私は、う~んと考えた。名前、名前……。彼をふと見ると、微笑んでいる。夜空と彼が見えた。

「……黒斗」

「くろと?」

「黒い夜に輝く星みたいだから。『斗』って、南斗、北斗とか星のイメージだから。……貴方の人生が光り輝くものでありますようにって意味も込めて」

 彼はぱあぁっと嬉しそうにはしゃぎながら、くろと、くろとと何度も呟いた。

「素敵な名前をありがとう。君の名前はなんて言うんだ?」

「あ……先に名乗るべきでしたね。失礼しました。私は『白愛』と申します」

 落ちていた木の枝で地面に書くと、今度ははくあ、はくあ、と名前を噛み締めるように繰り返す彼。

「白愛……良い名だ」

 どくん、と心臓が跳ねた。

「男性に呼び捨てられるなんて初めてで」

「……嫌か?」

 顔をのぞき込まれる。

「やじゃない、です」

「なら、そう呼ぶな。俺の名を呼んでくれ、白愛」

「……く」

「く?」

 俯く私がちらりと見ると、わくわくと期待している彼の顔が見えた。

「くろと、くん……」

「呼び捨てじゃないのは残念だが……名前を呼んでもらえるのは嬉しいな」

と、笑った。

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