あってはならない現実

「マノンったら…」

 カノンのその言葉に、マカは血の気が引いた。

 そのまま奥へと進む。

 少し小高くなっている場所には、一本の木が植えられていた。

 そこの木の元には、カノンともう一人―。

「なっ…!」


 ―そこでマカは言葉を無くした。


 ふらつくも、マサキに支えられる。

「まさかあそこまでいっているとは、ね…」

 マサキの声は、震えていた。

「…あら? マカ?」

 美しい着物を着たカノンが、無邪気な顔で振り返った。

「帰って来たのね。声、かけてくれたらよかったのに。ねぇ、マノン」

「そうだね。母さん」

「っ! カノンっ! 何てことをっ!」

 思わずマカは叫んだ。

 カノンの側には………マカと同じ顔の少年がいた。

 マカと同じ顔の作りだが、色素が薄い。

 マカの通っている高校の男子制服に身を包み、マノンは笑顔でそこにいた。

 いてはいけないモノが、目の前にいる。

 マカは眩暈した。

 けれど自分がしなければいけないことは分かっていた。

 足に力を入れ、駆け出した。

 そしてカノンの頬を叩いた。


 パンッ!


「きゃっ…! マカ、いきなり何を…」

「何を、じゃないっ! 何ではこっちのセリフだ! 何故静かにマノンを眠らせてやらなかった!」

 カノンの肩を掴み、マサキに渡した。

「マノンは人間だっ! 生き死にを勝手に操ってはいけないんだっ! 何故禁忌に触れたんだっ!」

「そんなに責めちゃ、かわいそうだよ。姉さん」

 この場でも平然としているのは、マノンだけだった。

 マカは弟を睨みつけた。

「マノンっ…! この世によみがえりたかったという気持ちは分かる。だが分かってくれ。お前はこの世にいちゃいけないんだ」

「マカっ! あなた何てことをっ」

「誰のせいでこんな言葉を言ってるんだと思うんだっ!」

 マカの鬼気迫った表情に、カノンは黙った。

 マカは深く息を吐き、改めてマノンと向き合った。

「…大人しく、再び眠る気は?」

「さらさら無いね」

 そう言ってマノンは立ち上がった。

「理由や原因はどうであれ、ボクは生き返れた。みすみす闇に戻るつもりは無いよ」

 けろっと言い放つマノン。

 マカは歯噛みした。

「ならっ、強制的にでもお前を闇に返す!」

「マカ! 止めて!」

「マサキ! カノンを止めておけ! 巻き込んでも責任は取らんぞ!」

 マサキは頷き、カノンを抱き止めた。

「カノン…。これは二人の問題だよ」

 マカは赤眼のまま、走り出した。

 マノンの首を掴もうとするも、僅かな差で避けられる。

 それから恐るべきスピードで急所を狙うも、軽々と避けられてしまう。


-死人に何故こんな力があるっ…!-


 マカの顔に苦渋が滲んだ。

 その心境を察したように、マノンは笑みを浮かべた。

「母さんがしてくれたことは、ボクだけの為の儀式だったからね」

「っ! …なるほど。そういう意味、だったのか」

 マカはその笑みで悟った。

 あの人形の本当の意味を。

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