決断

「なら、マカはどうする気だ?」

「…母様に会う。会って止める」

 マカの眼には光が宿った。

「だが、その前に」

 目の前にいる実父を睨み付ける。

「あの人形の製作をやめさせろ。どう取り引きしているのか知らないが、一般の人間に渡すのもだ」

「それは…カノン次第だね。あの家の中にはいるけれど、全てを取り仕切っているのはカノンだから」

「どうやってそんなことを…」

「まっ、会ってみれば分かるよ」

 そう言ってマサキは立ち上がった。

「さっ、行こうか。送るよ」

 本家に行く。

 僅かながらもマカは緊張していた。

 本家に行くには、一般の道路以外の道も通らなくてはならない。

 つまり、一般の普通の人間ならば、絶対に行くことのできない所に、マカ達一族の本拠地があるのだ。

 マカは跡継ぎゆえに、一族全てを受け継がなければならない。

 それは影も闇も、だ。

 人成らざるモノでありながらも、人として生きるにはリスクが大きい。

 だがそれを承知で今の人生を歩んできた。

 もう―後戻りはできない。

 そしてその道を邪魔するのなら、誰であろうと容赦もしない。

「例え実の母親でもな…」

 呟いたマカの言葉を、マサキは答えず、思いで受け止めた。

 やがて長いトンネルを抜け、森に出た。

 そここそが、マカの一族の本家のある場所。

 車は森の中心部へ向かう。

 本家へ向かって―。




「僕も一緒で良いかな?」

「…私の邪魔をしないと誓えるなら、許可しよう」

 マサキは苦笑しながら肩を竦めた。

 本家の家を門は、マカが立つと勝手に開いた。

 まるでマカを迎え入れるのが当たり前だというように。

 そしてどんどん中へ、奥へ進む。

 中庭を抜け、本家の住居から少し離れた建物へ。

 元は来客を泊める為の離れは、母の住居と化していた。

 声もかけずに中に進む。

 途中、女中達がマカ達の姿を見て、無言で頭を下げる。

 僅かな緊張感がこの離れに満ちている。

 そして―マカは気付いていた。

 この離れに満ちる、腐臭…いや、死臭に。

「マノン…」

 険しい顔で呟き、離れの一番奥の扉の前にたどり着く。

 匂いの元はここからだ。

 重厚な木の扉は、ある意味、封印だ。

 忌まわしいモノを封じる為の。

「マカ」

「分かってる」

 マカは深く息を吐くと、眼を閉じた。

 そして再び開いた眼は、赤く染まっている。

 右手を開くと、浮かぶ黒い紋章。

 マカは扉に刻まれた紋章と、右手の紋章を合わせた。

 すると、扉は開いてく。

 扉の向こうは、白く明るい。

 和の庭園。

 季節を無視した色とりどりの花々が咲き乱れる。

「…ふふっ。そうなの」

 庭園の奥から、美しい女性の声が聞こえる。


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