丁寧の分離別人化現象

クロタ

第1話 目覚め

「う、んん……」

 初めに知覚したのは、重力に必死に抗う瞼の存在と、物凄く重い頭の奥。そして、それらネガティブな感覚とは対照的に、全身を心地よく包み込む柔らかなベッドの感触だった。

「あー……、今何時だ……?」

 寝起きの瞳にはあまり優しくない光量の朝日が顔面に突き刺さり、寝惚けまなこの青年、大座葉成人おおざはなひとは思わず顔をしかめる。それでも毎朝の日課を果たすべく、半ば目を閉じながら手の届く範囲を縦横無尽に弄るも、目当てのものらしき感触を得る事は出来なかった。

「……んー。あれ、どこだ……スマホ……」

 大抵の場合枕元から腰の少し下の辺りまでの範囲に転がっているはずのスマホが、今日に限ってどこにも見当たらなかった。ベッドの上に立ち上がり、掛け布団を引っくり返して探してみたが、どこにも無い。

「はぁ……。おいマジかよ……」

 仕方がなく、とりあえず時間だけでも掛け時計で確認しようと部屋の電気を点ける。

「つっても、スマホが無いと困るんだけど……って、は? もう十時過ぎ!?」

 壁の方へ視線を巡らせるとそこには、短針が十時を指していながらもなお、時を刻み続ける掛け時計があった。

「うっそだろおい……」

 昨夜の記憶が、日曜の夜を呪いながらの就寝であった大座葉にとってそれは、寝坊という絶望を意味していた。

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