NADDs~超自然犯罪対策機関~

たけむらちひろ

ファイル1-1 消えた被害者

 三月二十日、深夜の道路。


 ――眠気。

 こめかみを叩いたその感覚に、トラックの運転席の男はハンドルを握っていた手首を片方ずつ遊ばせた。時計は深夜零時十二分。オーディオから流れる音楽に合わせて唇を尖らせながら、暗闇の中を向こうから手前へと通り過ぎていく白線を睨みつける。

 前を行く車は無い。

 バックミラーに視線を投げると、後ろには規則正しく並んだライトが幾つも見えた。自動運転車らしく法定速度と正確な距離を保ち続ける光の中を縫うようにして、猛スピードの車が二台、すぐ後ろにまで迫って来ている。


「危ねえな」


 あっというまに大型車の死角になる真横下方から前方へと飛び出していく若さを苦笑まじりに笑いながら、彼はもうちょっと速度を上げても良いかと思って軽く顎を引いた。


 瞬間。


「っ! ぶねえ!!!」


 突然真っ赤なブレーキランプを光らせながらハンドルを切った若者の姿に息を飲み、急ブレーキを踏む。

 スピンしながら吹っ飛んで行く二台の暴走車の隙間に、真っ白な影が見えて。

 

 ――人だ。

 

 前の二台と同じように思いっきりハンドルを切りながら見開いた彼の瞳には、道路の真ん中に突っ立った女の青白い横顔が楽しげに笑っている様に見えた。


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