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「最近、特に日本では……怪盗の存在が減ってきているんだ。十九世紀、二十世紀前半頃は、まだロマンを求め、芸術品を盗む怪盗の存在は沢山いた。だが、機械化が進み、『怪盗』は今や姿を消しつつある」

「怪盗の存在を保護する……それが、善意会の真の目的か」

 不意に父は立ち上がって窓際へ歩いていき、二十五階からの景色を眺めながら言った。

「いや。善意会の真の目的はそれだけじゃない……今は話せないがな」

 父は考え込むようにして言う。勿論真の目的は気になったが、どうせ話してくれなさそうなので話を続けた。

「何で、僕が怪盗なんだ?」

「それは、お前が産まれる頃には決まっていた。新たな怪盗育成の計画。快人はその第一号なんだ」

 父は振り返り、にっと笑って言った。

「嘘だ……今までそんなこと、匂わせもしなかったじゃないか」

「——完全に忘れているようだな」

「何、を……?」

「怪盗に必要な技術をだ。一通り教えて、それを忘れないように記憶を封じ込めたんだ。もうそろそろ、蓋を開けないとと思っていたんだ。記憶を解く鍵は……『ファントム・シーフ=ブルー』。蒼の怪盗だ」

 ファントム・シーフ=ブルー。

 蒼の怪盗。


 僕は、その言葉を知っている……?


 その途端、いきなり頭の中に大量の記憶が流れ込んできた。


 これは、なんだ……?


『——さあ、先ずは鍵開けだ。どうだできるか、快人』

 僕は……幼い僕は座って、まるでおもちゃを手にしているように、楽しそうに鍵を開けている。小さな手を巧みに使い、ものの数秒で、かちゃんと鍵が外れる。


 コレは本当に僕の記憶なのか?


『よしよし。良くできたな快人』

 若い頃の父が記憶の僕の頭を撫でる。その記憶に触発されて、また別の「訓練」の記憶が雪崩れ込む……。


 しばらく俯いて、何もできないでいた。記憶が一時に押し寄せてきて頭がパンクしそうになるのを堪えるのでやっとだった。額に汗が浮かんでいるのがわかる。

「……大丈夫か?快人。いきなり大量の記憶を思い出すからな……」

 珍しく、父が心配そうに僕を覗き込んでいた。風邪をひいて寝込んだ時だって「あったかくしてれば治る」と殆ど心配しない癖に。

「——平気だ。思い出したよ。まだ理解が追い付いていないけど」

「まだ実感が薄いかもしれないな。何せ三歳から五年間の訓練の記憶を封じていたものだから。記憶を植え付けたのではない。全てお前の体験した記憶だ。全部思い出したのなら……確認しよう」

 僕は頷いた。

「それじゃあ……手始めに、声帯模写でもやって貰おうか」

 父はそう言った。

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