1-4
五月、ゴールデンウィークの第一日目。ただいま午前十時。
僕は、首都圏に位置するとある駅に降り立っていた。
都内にある僕の家から出発して、二時間ほど掛けて父の知人の家に向かっている途中だった。都心に行くには少々遠いが、そこそこ栄えているベッドタウン。連休のせいか、行楽に出掛けるらしい家族連れの姿が目立つ。僕は改札を抜け、父が送ってきた地図通りに歩いた。
今日は朝から快晴だった。初夏の爽やかな風が、僕の少し明るい髪を揺らす。僕が今持っている荷物は、大きめのリュックサックが一つだけ。他は父の知人の家に全て送られているはずだ。十分ほど歩くと、閑静な住宅街の一角に目的の建物が見えてきた。
父の知人、
そこそこ新しい店に見えるが、どうだろう。
父の知人だからやはり中年のおじさんで、脱サラして喫茶店を開いたというところか。とりあえず入ってみることにした。
からんからん、とドアベルが鳴る。
さほど広くはないが、奥にカウンターが並び、他にテーブル席が四つ。誰もいないのかと辺りを見回すと、すぐに一人の青年がにこやかな笑みを湛え、「いらっしゃいませ」とカウンターの奥から出て来た。
店員らしい青年は、二十代くらいのように見えた。少し明るめの茶髪を目の上で揃えて、服装は喫茶店らしいかっちりとしたギャルソンエプロンを着こなしていたので、軽薄そうには見えなかった。むしろ落ち着いている。大学生だろうか。彼は、
「あれ……?」
と言って、僕をじいっと見た。
「な、何ですか?」
僕は青年を警戒して、声音が固くなってしまう。青年は「ああ」と言って、
「ごめんごめん。君、卯路井快人君……だよね。君の証拠になるものって、これしか貰っていなかったから」
そう言って、青年は一枚の紙切れを取り出した。はがきより少し小さいそれは、僕の写真だった。いつ撮ったのだろうか、今まで通っていた学校の校内で僕が歩いている写真だ。きっと盗撮だ。父が付き人に頼んだのだろう。あの親父……。とりあえず僕は気を取り直して、青年に聞いた。
「ええっと、貴方はアルバイトの方ですか?」
そういえば、何故アルバイトの青年が僕の写真を持っているのだろう?僕は続けて「店長さんは?」と聞いた。
「店長は、ぼくだよ」
ぼく?てことは……。
「すっ、すみません!若い人だと知らなくて」
僕は謝った。先入観とは恐ろしいものだ。
「いいよ、気にしなくて。どうせこんな事だろうとは思ってたよ……この喫茶もみじのマスターをしている、茅野真紅郎です。ちなみに年齢は二十七。『もみじ』っていう店名の由来は、ぼくの名前に『紅』って字が入ってるでしょう?で紅葉も好きだから『喫茶もみじ』。君のお父さんはぼくの店のお得意様だから、少し悩んだけど引き受けたんだ。よろしくね」
結構よくしゃべる人らしい。真紅郎さんが握手を求めてきたので手を差し出した。
「ぼくさ、気になることがあるんだよね」
続けて真紅郎さんは僕にそう言った。
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