Web小説らしいライトの『ラ』の字も感じられない、超重厚な「生きる」を問うストーリー。それを我々ひとの視点からだけではなく、主にユキハヤブサという猛禽類の視点から描いた作品。
読み終えたいま、謎に涙が止まらない。悔しさからか、清々しさからか、それとも生きること、生きていることに対する思いからか、たぶん誰もが涙すると思うので、ぜひあなたの『涙』のワケを探してみて欲しい。
この物語はそれだけ深く、潔く、掴みどころがないのだ。
テーマの切り取り方というか扱い方が見事で、『生き物が生きること』についてのふだん我々が目を逸らしている真実が、嫌という程、開示される。
そして、鷲掴みされてラストまでまったく離してもらえない。
それなのにカタルシスは半端ない。ラスト2行でわたしは、主人公であるユキハヤブサに空中でぱっと放り投げられたとすら感じた。
それほどまでに臨場感がすごい。いや、それをこえて、怖い。
特筆すべきは、その構成の美しさだ。
『ハヤブサ』『台座』『失敗』『最後の日』という実に綺麗な起承転結。
最初と最後に人の視点から描かれているのも実にいい。物語に奥行を持たせている。また俯瞰的でもある。
この構成がもたらす効果はこれだけではない。ふたつの視点を持たせることによって、行間に五感を込めることが出来ている。
緊迫感や風の音、翼の音に、カップラーメンのにおい(!)、まさに芸術を見た気がした。
カップラーメンに触れたのでもうひとつ。キャラがいい。
この短い中で、ユキハヤブサの飛び立ちという表テーマを決して邪魔することなく(裏テーマは前述の『生きる』であろう)だけど物語の中にすっと入り込んで『生きて』いる。
会話の端々に教授と助手・平子の人間性が散りばめられており、重く苦しく避けられない『生』の中には「でも、楽しいこともたくさんあるよね」と、語りかけてくるようだった。
平子にはぜひロールケーキを食べて、この罪深き『生』を謳歌してもらいたいものだ。