モブですらない悪役令嬢の妹に転生したようです

沙羽

6歳

第1話 呪いの言葉


 いつからかしら?

 お姉様が、私に話かけてくれたのは……。

 それまで、ずっと私は存在しないかのように扱われていたのに。


『独り言を喋る陰気な子って、屋敷の皆が言っているわ』

『あぁ、なんて醜い顔なのかしら。恥ずかしいから近寄らないで』


 そう言われて悲しくなると同時に、お姉様に声をかけていただけるのが、とっても嬉しかった。

 お姉様に嫌われているのは知っていた。けど、いつかは仲良くなれるんじゃないかと私は希望を抱いて、言われた事は何でも守るようにした。

 いつか……そんな希望は、希望でしか無いのだと、私は知ってしまった。


 私は遠ざかっていくお姉様に、届かないと分かっていながらも必死で手を伸ばした。

 じんわりと暖かくなってきた日差しに照らされ、私を見下ろすお姉様。


「リーシャル!!」


 悲鳴のような声を上げ、私の名前を叫ぶお姉さまの瞳は暗く澱んでいて、真っ赤な口元は弧を描いている。

 何度も名前を呼んでもらいたいと思っていた。やっと、名前を呼んでもらうことが出来たのに……それは、まるで呪いの言葉のようだった。


 階段の上からお姉様に突き落とされたのは、初めての事のハズなのに、何故か既視感を感じた。この光景を見たことが無いハズなのに――


(また、お姉様に突き落とされて、死んでしまうのね)


――そう思わずには、いられなかった。


 お姉様の悲鳴に誘われて、お茶会に参加していた人たちだろうか、一緒に悲鳴を上げる声が聞こえた。そんな声にも聞き覚えを感じてしまう。


――ドスッ……


 鈍い音とともに、頭に衝撃が走る。

 痛くて、熱くて、苦しい。

 視界も見えなくなり、重たい瞼を開くことも億劫で、このまま死んでしまうのだと、ボンヤリと理解した。


 お姉様に死を願われるほど嫌われてでも、生き抜く勇気なんて私には無い。

 お父様だって、私が居なくなった方が喜ぶだろう。

 お母様だけは、泣いてくれるかしら?でも、私が居なくなれば、お父様とも家族皆で仲良く出来るわ。


 一つだけ心残りがあるとすれば、初めてのお茶会で出会った彼に……私と初めて会話をして笑顔を見せてくれた彼に、もう二度と会えないのだと思うと、残念でならない。

 彼は、私の死を知ったら、泣いてくれるかしら?それとも、一度しか会っていない私のことなんて、もう忘れているのかしら?




 薄れゆく意識の中、私を呼ぶ声が聞こえた。

 初めて聞いた声のハズなのに、なんだかとても懐かしくて、安心する声。


――わたしは生きたい。もう階段から落とされて死ぬなんて嫌なの。


 でも、私はもう生きていける気がしないわ。


――彼に、もう一度会いたいんでしょ?


 ……出来るなら、会いたい。もっとお話もしたい。また、あの笑顔を見たいと思うわ。


――なら、死ぬなんて思わないで!


 なら……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る