夕暮れエレジー

卯月みお

第1話 妙な音

 朝になったら起きて、物を食べて、仕事をして、夜になったら寝る。

 人間はそういう生活をする生き物だ。

 しかし、僕は違う。

 夜になったら起きて、血を吸って、朝になったら寝る。

 そんな生活をざっと200年は続けている。

 もう分かっているかもしれないが、僕は人間じゃない。

 ――吸血鬼だ。


 じゅる、じゅるる、じゅる。

 両親の寝室から妙な音がする。

 私はそれですっかり目が覚めてしまい、寝室の扉をそっと開け、隙間から覗き込んだ。

 窓から差し込む月明かりが見知らぬ男と、ベッドに横たわる両親と、床に飛び散った血を照らし出していた。

「⋯⋯っ!」

 思わず声が出てしまい、口を塞いだが時すでに遅し。

 男がこちらを振り向いたのだ。

 男の口もとはあかく染まっていた。

「こんばんは、お嬢さん」

 男が微笑みながら挨拶してきた。

「あなた⋯⋯誰? パパとママをどうしたの?」

 私は男に尋ねた。

「僕の名前はディザイア。いわゆる吸血鬼です」

「吸血鬼⋯⋯⁉ じゃあ、パパとママは⋯⋯」

「すみません、つい血を吸いすぎてしまって⋯⋯」

 ディザイアは申し訳なさそうに謝った。

 私の目には涙があふれていた。

「⋯⋯これでもう、あいつらと一緒に暮らさなくていいんだ!」

「え?」

 さすがの吸血鬼ディザイアも鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「パパとママを殺してくれてありがとう。美味しかった?」

「え、ええ⋯⋯。お父様の血はありふれた味でしたが、お母様の血は美味しかったです。それより、親を殺されて喜ぶ子供は初めて見ました。何があったんですか?」

「それはね⋯⋯」

 私は話し始めた。

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