第27話 仕事の打ち上げは酒に囲まれる
「みんなお疲れさんっ、乾杯っ!」
「「「「「かんぱぁいっ!!」」」」」
イモータルの団員が全員集合して、再び街の広場を貸し切って打ち上げをしていた。
団長であるオッサンの号令と共にイモータルの面々が酒を飲み、料理を口にしていく。
全裸で戦場に来ていた他の団員と合流したところ、笑いながら服を差し出してくれた。来ていた団員の中にはユイカなどの女性の団員も居たのだが、誰も俺やオッサンの裸を気にする事はない。マリアもそうだったが、長年生きている事から異性の裸を気にする事はないようだ。
ただ、とある女性団員が「あ、可愛いサイズ」と言われた時には少し傷付いた。何についてのサイズかは言っていなかったが、視線は股間に向かっていたので分かる。
オッサンを倣って堂々としていたのだが、その一言に思わず両手で隠した。
俺は標準のサイズだ。確かにオッサンのは俺よりも大きかったが……標準サイズのはずだ。そう自分に言い聞かせながら戦場から街へと帰還したのだった。
街へと戻ると既に広場で打ち上げの準備が行われており、街の人々もイモータルの団員達の様子からもう戦争が終わる事を悟ったようで酒場が賑わっていた。
打ち上げには当然俺も参加している。先程から自分のグラスに酒を団員達が代わるがわる注がれてしまい、こんなに飲めるかと思い暫く飲まないで放置していた。すると別のグラスに酒を注いで、俺の周りに置いていくようになってしまう。
おかげで俺は酒の入ったグラスに囲まれてしまい、何らかの儀式が行われているようだ。俺を生贄に酒の神様でも召喚するつもりだろうか。
呆れながら俺はゆっくりとグラスを一つ一つ飲み干していく。
誰も手をつけようとしないので俺が飲むしかない。
俺の背後でサラから「注いだ酒を残すな……勿体ない……それもイモータルの経費から出しているだ……」と無言の圧力を感じたので飲まない訳にはいかない。
理性を失わないペースで酒を飲んでいると団員から声を掛けられる。
「初陣であんなに活躍できるなんてやるなー」
「お前傭兵に向いてるぜ」
「記憶喪失になる前も戦ってたんじゃない?」
「…………」
そして俺に声を掛けると同時に酒を注いだグラスを置いていく。
最初の内は「置くな!」と怒鳴っていたのだが、既に酒が回っていてまともに会話ができない団員が多くいて無駄だと悟った。適当に受け答えをしながら黙々と酒を飲んでいく。
「やあっ! ケルベロスくんっ! 飲んでいるかね?」
「…………」
酒だけで充分だというのに、面倒な博士が来てしまった。
ここまでの流れに乗って酒を置いていくなら許す。だが、訳の分からない魔道具は置いていくなよ。
「はっはっは! 街に戻りながらも言ったが、ケルベロスくん! なかなかの戦いぶりだった!」
「……博士もこういった事に参加するんだな。俺の歓迎会の時には居なかったから興味ないかと思った」
「打ち上げぐらいわな。マヤくんも普段は酒の席には出ないが、一つの仕事が終わった時には必ず参加する。あ、そうそう……ケルベロスくんに渡しておくものがあった」
「っ!」
咄嗟に身構える。魔道具を渡されると思ったのだ。
だが、差し出されたのは空のグラス。
良かった、どうやら普通に酒を置いていくだけらしい…………と思ったが、そのグラスに何を注いでいるんだこのジジイは?
髑髏が描かれたラベルのついた瓶から、グラスにドロドロとした赤い液体が注がれていく……どう見ても酒じゃない。毒にしか見えない。
「さあ、飲みなさい」
訳の分からない液体で満たされたグラスを平然と俺に渡して来るジジイは、気が触れているとしか思えない。
「……これは?」
「酒だ」
「嘘吐け!」
訳の分からない液体を飲ませようとした博士は、おかしな事はするなとサラに睨まれて逃げるように離れていった。
ジジイは俺から離れる際に「別の機会に試して貰うか……」と不穏な事を呟いていたので、暫くは飲食物に何か混入していないかと気を付ける必要がありそうだ。
……あのジジイ、俺を実験動物のように思っていないか?
博士の俺の扱いに対して不安を抱きながら、再びチビチビと周囲のグラスを空にしていく。
記憶を失う前の事は分からないが、これほどの量の酒を飲んだ事はないだろう。ゆっくりと飲んでいるおかげか、今のところは気持ち悪くはない。まだ飲めそうだ。
「おい、ケルベロス。楽しんでるか?」
「ん? ああ、ダンか。楽しんでるとは言い難い。とにかく酒を飲むのに忙しい」
ダンは俺の目の前まで来ると、笑いながら腰を下ろす。
「はっはっは、凄いなこりゃ。まあ気に入られてる証拠だ。いくら飲んでも死にはしないんだからどんどん飲んでしまえ」
そう言って、折角空にしたグラスに酒を注いでいくダン。
それを止めようと思ったが、やはりいくらゆっくり飲んでいても酔いが回り始めているようだ。咄嗟に言葉が出て来ないので、黙って酒を注がれていくのを見守った。
空いているグラス全てに酒を注ぐと満足そうに頷いてからダンは口を開く。
「がっはっは! 今回、お前はよくやった! まさか初陣であれだけ戦えるとは思っていなかった。ユイカも褒めてたぞ!」
「……そうか」
ここ暫く訓練で何度も逃げようかと思った訓練をしてくれたダンに対して俺は怒りしかなかったが、単純なものだ。褒められるとそんな感情が綺麗さっぱりなくなってしまう。
今回は嫉妬によるところも大きかったと思うが、訓練があったからこそ動けたと思う。
少しはダンに感謝している。
ダンは俺の周りに置かれているグラスを一つ手に取り飲み始めた。
「本当によくやった! それほど大きな戦いではなかったにしろ、あれだけ動けるならイモータルの団員と名乗っても恥ずかしくない」
「ああ」
ここまで手放しで褒められると照れ臭い。俺はそれを誤魔化すように酒を飲みながら、適当に相槌を打った。
「胸を張ってイモータルの傭兵だと名乗ればいい。お前はイモータル期待のエースだ」
「ああ」
「ただ、これからが忙しくなるぞ」
「ああ」
「力が証明されたからには、どんどん戦場へ出て貰う事になる」
「……ああ」
「それに早速お前に懸賞金もかけられた」
「ああ…………ぁあん?」
ちょっと待て。今、おかしな事を言われた気がする。
「お、いけねえ。これだけ酒があるっていうのに摘まめるものがあった方がいいな。よしっ、酒に合う良い肴があんだ。持って来てやるよ」
「待て!」
一気に酔いが醒めた俺は、立ち上がろうとするダンの両肩を掴んで阻止した。
「ん? どうしたんだ? 食べたいものがあるなら取って来るぞ?」
「いや、ちょっと待ってくれ。食べるものは今はどうでもいい。それよりも聞き捨てならない事を言われたような気がするんだ」
「聞き捨てならない事? ああ、イモータルの期待のエースって話か? がっはっは、謙遜するな! 俺が初めて戦場へ出た時よりも戦えていたぞ! まさに一騎当千の活躍だった。だからこそ、こんなにも早く懸賞金がかけられたんだ」
「そっち! 懸賞金の事が聞き捨てならない事!」
「懸賞金? ……いくらかけられたか知りたいのか?」
「そうじゃ、いや額も気になるけど……。今はどうして俺に懸賞金がかけられたのかが知りたいんだ!」
ようやく会話が成立したように思えたのだが、ダンは「何を言っているんだ、こいつは?」とでも言いたそうにきょとんとしている。
だが、すぐに何か納得して口を開く。
「あ、そうか。そういった事は知らないんだな。よし、簡単に教えてやろう。いいか? 懸賞金というのは表と裏があってだな、表は公に指名手配されているような犯罪者にかけらているものだ。そして裏は各方面から、こいつは邪魔だな、生きていてもらっちゃ困るな、という奴の命にかけられる公になっていないものだ。裏の方は表よりも圧倒的に懸賞金が高くてな、裏に精通している賞金稼ぎが目をギラつかせて時々襲って来る……ああ、安心しろ。お前は裏の方だからな。何か罪に問われている訳じゃないから」
「…………」
……いや、いっそ表の方が良かったと思えてしまう。
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