Imaginary Trip -「夢」編-

ナトリウム

津軽連絡船

 東京2016発の「はやぶさ39号」新青森止まりを終点まで乗り通した僕は、接続列車の奥羽本線に乗って青森駅に降り立った。時刻は23時51分、夏の夜の青森駅ホームは、関東とは違い涼しい陸風が心地よく吹いている。

「ご乗車ありがとうございました、終点の青森です。0時15分出航の津軽連絡船、苫小牧ゆきをご利用のお客様は、階段上がりまして連絡通路より連絡船のりばへお進みください」

駅構内に流れるアナウンスが旅情をそそる。案内の通りに跨線橋の階段を上り、錨のマークの「連絡船のりば」と示されたピクトグラムに従って、数人の乗客らとともに連絡通路を歩いていく。通路は青森駅ホームの先に延びるヤード線と並行していて、暗闇のなか作業灯や機関車のライトで照らされたコンテナ貨車が動いているのが見えた。HD300形ハイブリット機関車が赤い尾灯を片方だけ輝かせて、紫色のコンテナを満載したコキ100系貨車をゆっくりと推進している。その先を見ると、僕がこれから乗船する津軽連絡船「つがる丸」が、大口を開けてコンテナ貨車を1両ずつ車両甲板にのみこんでいくのが見えた。

 5分ほど歩いて連絡船のりばに着く。待合室があるが、既に乗船手続が始まっているので、記録写真を数枚だけ撮って乗船口に向かう。ボーディングブリッジを通っていくと、船の入口で客が少し詰まっていた。乗船前のきっぷの検札だ。リュックからきっぷを取り出しておく。

「きっぷを拝見します」

僕の番が回ってきた。船の前にJR制服の職員がいるのはユニークだなと思いながら、きっぷを2枚手渡す。1枚は「乗車券/[区]東京都区内→[札]札幌市内/経由:新幹線・新青森・奥羽・青森・津軽航路・苫小牧・室蘭線・千歳線・函館線」と印字された乗車券、もう1枚には「A寝台券(個)/青森(0:15発)→苫小牧港(8:20着) シングル/8月5日 津軽23便 4番 個室」とある。駅員は券面を確認すると、手早くスタンプで挟んでこちらにきっぷを返した。

「A寝台個室はAデッキになります、正面の階段をお上りください。ご乗船ありがとうございます」きっぷを見ると、寝台券の方に丸いスタンプが捺されていた。「ご乗船ありがとうございます つがる丸」

 駅員に軽く会釈をして、いよいよ船に乗り込む。エントランスのインテリアは白と木目を基調にしたパステルな雰囲気で、新造船らしい清潔感溢れる船内だ。いわゆる「鉄道連絡船」のようなノスタルジックな雰囲気は皆無だが、これこそがある意味21世紀に復活した鉄道連絡船の姿なのだろう。吹き抜け構造になっている階段を2層上り、Aデッキに入る。階段の終わりに「これより先はA寝台・グリーン席です。ご利用のお客様以外の立ち入りはご遠慮ください」と示してあるのが船らしい。案内掲示によると階段より船尾の方がグリーン席、船首の方がA個室とのことだった。廊下を進むと、他の乗客が部屋に入っていくのが見えた。今日はA個室も満室だったはずだが、さすが最上級客室、下のデッキよりはるかに閑静な雰囲気だ。

 きっぷにある通り僕に割り当てられた4号室に向かう。4室しかないシングル個室の最後の部屋だ。おそらく1号室から順番に予約を埋めているので、ぎりぎり取れたものだった。同じA個室でもツインは10室もあるが、半ば観光向けとなっている船なので部屋数が少ないのは当然と言えばそうだった。4号室の前に着き、いよいよ客室へ。扉を開け、足を踏み入れる。室内にはベッドとソファ風椅子に小机がしつらえられ、窓もある上等な部屋だった。入口すぐにはトイレもある。値は張ったがやはり上級船室にして正解だった、と思う。

 そうこうしているうちに、船内のどこからともなく銅鑼の音が響いてきた。出航15分前の合図だ。せっかくだから出航を見届けようと、荷物のリュックを椅子に降ろし、財布とカメラだけ持って部屋を出る。Bデッキの左舷遊歩甲板へ向かうと、既に同じように出航を見物しようと10人ほどの乗客が集まっていた。僕もその中に混じって、手すりに手をかける。眼下左手には、コンテナ貨車のいなくなった広い青森駅ヤード線が見えた。さらに少し身を乗り出して見ると、ちょうど船と桟橋をつなぐ可動橋のレールを切り離す作業をしているところのようだ。

 そんな様子を眺めたり写真を撮ったりしていると、ふいに隣から声をかけられた。

「こんばんは」

驚いて見ると、僕と同世代くらいの若い女が缶ビール片手に話しかけてきた。「一人旅ですか?」

「ええ、まあ。おたくも?」

「です。ただ、そろそろ一人に飽きてきた頃で」

女は苦笑いして見せた。

「なんか趣味合いそうだなと思いまして」

「趣味?」

聞き返しながら改めて女の姿を見ると、女は首からいかつい一眼レフカメラを提げていた。なるほどそういうことか、と少し笑う。と、ふいに足元が微かに揺れた。

「おっ」

桟橋の方に目をやると、岸壁が少しずつ離れていく。いよいよ船が動き出したようだ。

「出航、しましたね」

女が港の方を見つめたまま呟いて、缶ビールを一口飲んだ。夏の夜のひんやりとした潮風が、磯のかおりとともに頬をかすめる。夢に見た鉄道連絡船での船旅が、ついに始まった。


 「とりあえず乾杯しましょうよ」

乗客たちでざわめくCデッキ・パブリックスペースのテーブルで、僕はこの女と飲むことになった。自販機でスーパードライを買ってきて、既に半分ほどになっている女のサッポロの缶とぶつける。「乾杯」

3口ほどのど越しを味わい、缶を置く。女は缶を持ったままちびちび飲んでいる。

「僕から自己紹介しましょう」

名前と出身地を簡単に説明すると、女も名乗った。彼女は鳩野由里というらしく、僕と同じく東京から来たとのことだ。

「鳩野さんはどうしてこの船に?」

「そりゃー乗りたかったから乗りに来たまでですよ。同じでしょう?」

苦笑しながら答える。「野暮な質問でしたね。まさしく僕もこの船を目的に来ました。去年復活した、この『鉄道連絡船』に」

―このJR津軽航路は、去年運航を開始した航路で、JRの路線としてマルスシステムにも組み込まれているれっきとした「鉄道連絡船」だ。運航事業者はJR貨物の子会社として設立された「津軽連絡船株式会社」で、青森県や北海道といった周辺自治体のほか、JR北海道や津軽海峡フェリーなども出資している。

「昭和から2回も元号が変わってから、津軽海峡に鉄道連絡船が復活するなんて、世の中どうなるか分からないもんですねえ」鳩野さんが言う。

「ええ…まさか北海道新幹線がこんな形で影響するとは」

2016年に北海道新幹線が開業したが、そこで浮上したのが青函トンネルの新在共用問題だった。高速走行する新幹線列車がトンネル内で貨物列車とすれ違うと、風圧によってコンテナが破損する恐れが指摘され、そのため開業時から当面の間、北海道新幹線は青函トンネル内の運転速度を制限されていた。しかし、長い新在共用区間を延々と速度制限されていては、速達性が大きく損なわれ新幹線を通した意味が薄まってしまう。

「最初は色々検討してましたけどね。それこそ新幹線貨物電車とか」ビールで口を湿らせながら鳩野さんが言う。

「トレイン・オン・トレインなんてのもありましたね」

「あーありましたね!発想は面白かったけどなあ…さすがに重心が高すぎたんですかねえ…」

「ただ少なくとも、当時は『鉄道連絡船の復活』なんてのは全く議論されてなかった気がします」

「ですねえ。やるとか言い出したときはほんとに驚きました」

事態が急転したきっかけは苫小牧港の再整備計画だった。その中で、新幹線列車を高速化すると先述したすれ違い問題から減便が避けられない津軽海峡線経由の鉄道貨物を、代わりに苫小牧港から海上輸送できないか、という可能性が挙げられたのだ。それを受け、青森駅に残存していた往時の鉄道連絡船用設備を復活させ、青森―苫小牧で航路による鉄道貨物輸送、という案が急浮上したのだった。

「新幹線の高速化と貨物の輸送量確保、これを両立する解決策としてなるほどって感じでした」

「まあほんとに実現しちゃったのは政治的なあれこれもありましたけどね」

結局、青函トンネルについては時間帯によって新幹線専用にすることで新幹線列車の高速化を図り、その分津軽海峡線を経由できなくなる鉄道貨物を青森―苫小牧の連絡船で輸送する、という形になった。なお、荒天で船が出られない日は新幹線のダイヤを遅らせて貨物全量を津軽海峡線経由にするらしい。また、青函トンネルの新幹線化によって旅客が青森―北海道を安価に鉄道移動できなくなったことでフェリーの需要が増えていたことを鑑みて、この新設の連絡船についても一部の船を貨客混載とすることになり、現在の様子に至る、というわけだった。

と、鳩野さんが口を開く。

「まあ難しいことはともかく、ただの旅行マニアとしては鉄道連絡船がまさか復活して、今こうして乗れているっていうのが何より楽しいので何でもいいんですけどね」

「はは、確かにその通りですね」改めて鉄道連絡船に乗れている喜びをかみしめながら、残ったビールを飲み干した。

「そういえば、鳩野さんは青森まではどうやって来たんですか?僕は東京から新青森ゆき最終の『はやぶさ』で来ましたけど」

「私は始発の上越新幹線で新潟へ出て、そこから『いなほ』と『つがる』を乗り継いで来ました」

「ええ…マジですか…」

絶句する僕を見てなぜか誇らしげな表情をする彼女。

「やっぱり一度は日本海縦貫線の特急街道を味わっておきたくて。楽しいですよ~」

「まあ面白そうではありますが…っていうかそれ何時間かかったんですか」

「えーっと」鳩野さんはスマホを取り出し、行程表を確認する。

「上野6時14分の始発『とき』で新潟に着いたのが8時13分、接続の『いなほ』で秋田に12時、30分くらい待って『つがる』乗って青森15時20分なので…まあ9時間ちょっとって感じですかね」

「…よくやりますね…」

なんだかとんでもない人と知り合いになったなと思いつつ、腕時計に目を落とすともう1時前だ。すっかり話し込んでしまった。明日の朝は8時過ぎに入港なのでそこまで早いわけではないが、そろそろ眠気も感じてきた。

「ぼちぼち船室に戻りましょうか。鳩野さんもその行程で来たんじゃお疲れでしょう」

「私は全然大丈夫ですけど、たしかにそろそろ寝ますかね。いい感じに酔いも回ってきたし。飲むの付き合ってもらってありがとうございました」

「いえいえこちらこそ。じゃあまた明日の朝に」

「ですね。おやすみなさい」

Bデッキの「のびのびシート」に席を取ったという鳩野さんとはここで別れ、自室に戻る。置きっぱなしの荷物を軽くまとめつつ、替えの下着を出して着替える。備え付けの浴衣をまとい、部屋に備え付けの洗面台で歯を磨く。寝る準備を整え、部屋の灯を消したところでふと窓の外を覗いてみると、真っ黒な海面の上に満天の星空が広がっていた。今日は新月に近いらしい。今晩は良く眠れそうだと思いながら、僕はベッドにもぐりこんだ。


カーテンを閉め忘れた窓から差し込んできた朝日に目を覚ます。津軽海峡の波が心地よい揺りかごになったのか、旅行先とは思えないほど熟睡できた。とはいっても、時刻を確認するとまだ7時前、6時間ほどしか寝ていないらしい。

そういえば昨晩はシャワーも浴びずに寝てしまったので、朝風呂を浴びることにしよう。ベッドの上に置いてあったバスタオルとフェイスタオル、それから貴重品を手に部屋を出る。1フロア下のBデッキに大浴場があるのだ。全15隻ある津軽連絡船の船の中でも、この「つがる丸」をはじめとした3隻は貨客船として貨車を運ぶとともに旅客の観光利用を想定した造りになっている。ちなみに残りの12隻は車両航送専用だ。朝の静かな船内を歩き、Bデッキ後方の大浴場に着く。男湯は右舷側らしい。足を踏み入れると、早朝だからか他の客は誰もいなかった。貴重品をロッカーに預け、浴衣と肌着を脱ぎフェイスタオルだけ持って浴室へ。大浴場というにはやや小さ目ながら、大きな窓からは陽光にきらめく広大な太平洋が望めた。シャワーで身体を洗ってから、浴槽に浸かる。オーシャンブルーを眺めながら湯に身体を沈めて脚を伸ばすと、まさに極楽の心地だ。鉄道連絡船の船旅というよりはクルーズ志向のフェリーのようだが、これも時代だろう。単純なノスタルジーだけを追い求めるのではなく、流れゆく時代とともに何が変わって何が変わらないのか、それを味わうのもまた乙な楽しみ方だと、僕は思っている。

程よく温まった身体で大浴場から出た僕は、瓶牛乳の代わりにと大浴場の目の前にあった自販機で甘い缶コーヒーを買ってを一気飲みした。良い眠気覚ましだ。腕時計を確かめると針は7時半前を指している。そういえばこの船にはCデッキに軽食を出すスタンドコーナーがあった。8時20分の下船までまだ時間もあるし、何か朝食を食べることにしよう。自室に戻り洋服に着替え、荷物をまとめてCデッキのパブリックスペースに向かう。

「あ、おはようございます」

すぐに声をかけられた。鳩野さんがスタンドコーナーで買ったらしいホットドッグを片手に近づいてきた。

「おはようございます。それ朝食ですか」

「です。もう食べました?」

「ちょうど今買いに来たところです」

カウンターに出向きメニューを見るが、朝食になりそうなのはホットドッグかトーストくらいしかなかった。と、横にニチレイのホットメニュー自販機が置いてあるのに気づき、心の中で小さくガッツポーズする。僕の好物なのだ。そちらにシフトして焼きおにぎりを購入、温まるのを待ってから、パブリックスペースに戻って鳩野さんと同じテーブルについた。

「昨日はよく眠れました?『のびのびシート』はどうでしたか」

「悪くなかったですよ。フェリーで言うカーペット敷きの大部屋が一人ずつ仕切られた感じなので、プライベート感もありましたし。思ったよりカーペットが柔らかかったのと、スペースもサンライズのノビノビなんかより全然広かったですしね」

「なるほど。今度乗るときはそっちもいいかな」

「そういえば苫小牧着いてからはどうするんです?」

「僕は『スーパー北斗』で札幌に出る予定です」

「お、じゃあ札幌までは同じですね。せっかくですし一緒に行きましょうよ」鳩野さんが提案する。

「いいですよ。あ、でも鳩野さん指定席ですか?」

「ですね。あーそっか、席離れちゃってますよね」

「そしたらいま窓口行ってきて乗変かけてきますよ」

「わざわざありがとうございます」

鳩野さんの指定券を預かり、一旦席を立つ。リュックから自分のきっぷを取り出しつつ、Cデッキ中央の乗船口前にある船内窓口へ向かう。この窓口は、フェリーと同じで乗船後の上級船室への変更などを対応するほか、JRのみどりの窓口同様列車のきっぷの発券や乗車変更も取り扱っている。ただ船上ということでマルスシステムのオンラインネットワークには繋がれておらず、今のところすべて手書きの補充券での発券となるとのことだった。

「すみません、乗車変更お願いしたいんですが」

窓口の係員に声をかけ、自分の指定券を手渡す。鳩野さんの席番を見て、隣が空いてるかどうか問い合わせてもらう。

「少々お待ちください」係員は列車の号数と席番をメモして、電話の受話器を取り上げた。「こちら『つがる丸』です。指定券の乗変をお願いします」

少し覗き込んでみると、電話の相手は苫小牧駅のようだ。向こうの駅のマルス端末で席を確保しつつ発券するらしい。しばらくして係員は受話器を置いた。

「ではこちらの席でお取りできましたので、もう少々お待ちください」

引き出しから手書きの補充券の用紙を取り出して書いていく。こういう形できっぷを発券されるのもなかなか貴重な体験だ。

「お待たせしました。ではこちら乗変後の指定席のきっぷになります」

やや横長の紙になって返ってきた指定券を受け取る。初めて見る形態のきっぷだ。右下に「つがる丸 発行」とあるし、いい記念になりそうだ。

 パブリックスペースに戻り、鳩野さんに指定券を返す。テーブルに着いて残りの焼きおにぎりを食べていると、船内放送が流れた。

「みなさま、おはようございます。当船はあと20分ほどで、苫小牧西港に入港する見込みです。乗客のみなさまは下船の準備をお願いいたします。苫小牧駅ゆき連絡列車は、船を降りましたら左手の0番ホームから8時35分発車予定です」

「もうそんな時間か」腕時計に目を落とす。確かに針は8時を少し回ったところだ。

「思ったよりあっという間でしたねえ」鳩野さんも同意する。左舷の窓を見ると、もう北海道の陸地が迫って来ていた。

 さっき部屋を出るときに荷物は全部持ってきているので、接岸までこのままCデッキで待つことにした。のびのびシートだった鳩野さんも既に荷物は全てまとめてきていた。次第に下船準備をし始めた乗客たちで船内がざわめき始める。

「そろそろ並びますか」

一か所しかない下船口に乗客が並び始めていたので、鳩野さんとともに列に加わる。大荷物を抱えた人々が並んでいるのを見て、ついに目的地に到着した実感を覚える。並んでしまうと外がよく見えないが、入港してからしばらくして、船は動きを止めた。列の向こうの下船口で、ボーディングブリッジを船に接続する作業が見える。まもなくして、ざわめく船内にアナウンスが流れた。

「お待たせいたしました、当船は苫小牧西港に接岸いたしました。これより下船を開始します、順番に押し合わず下船ください。本日は津軽連絡船「つがる丸」ご乗船いただきまして、誠にありがとうございました」

アナウンスとともに下船口で待ち構える船員たちもお辞儀をして、下船口を開放した。前の客に続いて、ついに船から足を踏み出した。

「北海道上陸!」前の鳩野さんが小さくジャンプをする。

「上陸って言うんですか?ここまだボーディングブリッジですけど」

「そういう細かい人は彼女できませんよ」

「…」

流されるがままボーディングブリッジからターミナルビルを素通りし、「0番ホーム 苫小牧方面列車のりば」と案内看板が指し示す方へ進んでいく。この港で外へ出ることもできるらしいが、ここで降りても周りに何もないので、ほとんどの乗客たちは用意された連絡列車に乗り込んで苫小牧駅へ向かうようだ。

 そのまま歩いていくと、プラットホームに停まる列車の姿が見えてきた。キハ40形気動車が4両連なって、乗船客たちを待ち構えている。

「昔でいうボート・トレインみたいな感じですかねえ。こういうのも面白いなあ」と鳩野さん。この苫小牧港駅と苫小牧駅を結ぶ接続列車は津軽連絡船の乗船客専用で、こちらもなかなか体験できない列車だ。「0」と掲げられた番線表示と「とまこまいこう/苫小牧港」と書かれた駅名標を撮ってから、キハ40の車内に乗り込んだ。手近な左手のボックスに鳩野さんと向かい合わせに腰を下ろすと、ちょうどベルが鳴った。

「8時35分発、苫小牧駅行き列車発車します!」

ドアが閉まり、列車が動き出す。ホームを出ると、車窓にさっきまで乗っていたつがる丸が見えた。少しずつ後ろに離れているその船の姿に、鳩野さんが手を振っているのに気づく。船旅のひと時を思い出しながら、僕も窓の外に小さく手を振った。


 「楽しかったですねえ」

隣の席の鳩野さんが口を開く。僕たちは苫小牧駅からスーパー北斗1号に乗り込み、札幌に向かっていた。

「ええ、本当に。また乗りたいですね。実はああいう船に乗るのは初めてだったんですが、ゆったりできていいですね」

「あら、そうだったんですか。フェリーとかもいいですよー」

「そういえば鳩野さん、札幌着いてからはどうするんですか?僕は適当に観光して、夕方に新千歳から飛行機のつもりですが」

「私はまだまだ帰りませんよー!札沼線の廃線区間を見に行ったりした後、夜に小樽まで移動してそっから新日本海フェリーで舞鶴です!」

「あなた正気ですか…」

この人の体力は無限なのだろうか…。

「新日本海フェリーはともかく、夕方までは僕も何も決まっていないので、鳩野さんが良ければ僕も札沼線とかご一緒しても?」

「もちろん構いませんよ!やっぱり旅は道連れですからね。まだまだ旅行はこれからです!」

楽しそうな鳩野さんを見て、僕も気分が高まってきた。そんな僕たちを乗せて、キハ281系は一路札幌へひた走っていった。


(了)

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