フローズンメロンソーダ

人新

第1話

 夏だ。

 だが、夏といってもそこいらの夏とは比べてはいけない。この地の夏はとても暑いのだ。

 なんだか、都会の避暑地の代償としてここら周辺が請け負っているような気がする、そんな暑さだ。

 とにかく、暑い。


 そんな中、僕は屋根の下にもいかないで、一番日の当たる場所のベンチに座り込み、両手にプラスチックカップに入ったメロンソーダを持っていた。

 この地の夏と同じようにここのメロンソーダも他の場所とはまた違うのだ。簡単に言えば、凍りついている。

 ここの店主であるババがボケているのかどうかはわからないが毎年毎年夏が来るたびにカップにメロンソーダを注いでは冷凍庫に入れるのだ。

 だが、僕にとってはこのメロンソーダは都合がいい。なにせ、簡単にぬるくはならないし、なんと言ってもその固体から液体へと変わる過程がとても美しいのだ。

 固体に陽が照らされるとなんとも言えない美しい色となり、それは三月の山を彷彿とさせる。それが溶ければ六月の空と八月の海を付け合わせたような色となる。

 僕はこの変化を毎年楽しみにしている。


 だが、決してこの変化を一番楽しみにしているわけではない。真に僕には楽しみにしている変化があるのだ。


 それは毎年変わっていく変化。

 決してメロンソーダの変化みたいにいつも同じような変化ではない。

 それはとにかく見るたびに変わるのだ。

 僕は永遠に続くような畑の道に目を凝らす。

 そこには確かに僕に手を振ってこちらに向かって走っている少女がいた。僕は大して目がいいわけではないが、それでもこの日だけはマサイ族を思わせるほどの視力を発揮するのだ。

 僕は笑う練習をしてみる。そして、いつもの常套句を小さく何度か呟いた。

 どんどんと彼女は近づいてくる。その度に僕の心は変化していく。

 ちょうど僕の心が落ち着いた頃、彼女は目の前にいて、そしてメロンソーダはいい具合に溶け始め、固体と液体が混ざりあっていた。


 息を切らせた彼女はこちらを見て微笑む。

 そして僕も微笑んでから、左に持ったメロンソーダを渡した。それと同時に「グッドタイミング」僕はそう言った。


 これが毎年僕の一番の楽しみである。

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