家畜転生

雨村友斗

第1話 目覚める

 絶句からの絶叫。それが自分が取った最初の行動だった。


 どうすればいいんだ。ここは地獄だ。





 うん?ここはどこだ。軽く思い出そうとしたが記憶が異様に空っぽで粗探ししようにもはどこにも見当たらない。在ったのかもしれないが今は無い。自分の名前すら出てこない。たった今起きて頭がゆっくり活動を始めた感じだ。


 一番最初に感じた感覚、それは感じたことの無い程の悪臭。否今意識目覚めたばっかだから感じたことは無いのは当たり前なんだが、それでもこれは酷過ぎる臭いだ。

 

 朝起きて早々どんな仕打ちだと苛つきながら顔をしかめながら瞼を開こうとするが、顔が思うように動かない、どうしてだ。


 何も覚えてないし苛々することが増えたなと変わらず瞼を開く。


 


 そこにいたのは豚、豚、豚、四方八方どこを見ても豚しかいない。

 なぜか自分の視界の高さが豚と一緒なので自分は四つん這いにでもなってるのかと足元をみてみるとそこにはあるのは豚の短い脚と蹄が当然かのように目に入る。


 何だこれ。これが自分のだっていうのか・・・、自分は豚・・・



 嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!

 何で自分が豚なんだ。前世でなんか悪いことしたのか自分。どちらにしろこりゃないだろ。

 理不尽だ。なんで豚なんだ。こんなの惨過ぎる。

 認めない、認めない、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だーー!!!



 それから自分は狂ったかのように叫んだ、それはもう叫んだ。拒み続けて狂ってしまえばこんなくそったれな夢から覚めるかもしれないと全くない望みをかけて叫んだ。


 だけど自分の口から聞こえたのは豚が興奮したかのような醜い声だった。ふと我に返るとそんな自分の叫びに嫌悪感を抱いてしまって叫ぶのを止めた。


 周りをよく見てみると豚が自分から遠ざかって怯えるようにこちらを見ていた。そりゃいきなり叫んだやばい奴をみたらそんなふうになるだろう。分かるよ、その気持ち。うんうん。


 って傍観者のような気持ちで周りを見てたけど自分がその当事者だった。・・・どうしよう。


 ひとまず自分の殻にこもって考えよう。引きこもるんだ。


 よし、とにかく今の自分を受け入れるしかない。受け入れずに発狂し続けても何も生まない。死ぬほど疲れて声枯れて、周りの豚からもっとイカれた奴というレッテルを重ね貼りされてしまうだけだ。


 自分は豚だ、豚なんだ。嫌でも目を背けてもとにかく自分は豚なんだ。豚でしかない。驕るな自分。自分はただ一匹の豚なんだ。


 と自らを洗脳にかけるように頭の中で延々と自分自身が豚であると諦めるまで唱えてる内にだんだん疲れてきてそれも止めた。


 それにしても本当に何で自分は豚なんだろう。普通、豚として生まれたなら記憶は無いくせに持っている己が人間という意識など持たない。自分は何で人間じゃないんだ。否、なぜ自分は人間だったと思ってるんだ。分からない、記憶も根拠も自分に示すことはできないけど消しきれない自分は人間なんだという謎の自信が確固としてある。


 そもそも自分の身体を見て分かるように生まれたての豚ではない。自分の意識はついさっき生まれたんだ。眠っていたのだろうか。ずっと眠っていて今起きたのだとしたらそれまでこの体は自分じゃない豚さんのものだったのだろうか。そいつはどこにいったんだろう?塗り潰してしまったのか、それとも今までの自分のように眠ってしまったのか。もし自分と同じように眠っているのだとしたらまた目覚めたとき、自分の意識は何処に行くのだろうか。また眠るのか、消えるのか。死刑囚は死刑という見えている避けられない忌むべき地獄のゴールを毎朝いつ来るのかと怯えている訳だが自分の場合、そのゴールさえあるのか分からない。


 考えてもいつこの自分の意識が消えてしまうのかどうか分からない。これは考えるだけ無駄なのかもしれない。無駄と言い切るのも尚早なのかもしれないが少なくともただ考えてるだけじゃ解決しないから一旦これを考えることは打ち切ろう。


 さぁここで本題だ。自分が豚であることを嫌がった唯一と言ってもいい理由をいい加減直視しよう。ここは建物の中、狭い枠の中で自分達、豚達は飼われてるんだ、つまりじきに食われる。殺されるんだ。


 人間である時はこれから食っていけるのかという将来の不安、病気にかかるのではないかという不安、寿命だとしても何ら変わらず訪れる死への恐怖、いつか来る友や家族との別離、いろんな不安や恐怖を常に感じながら生きてきたはずだ。だが、絶対に来る理不尽。向こうの都合で勝手に生まれ、向こうの都合で殺される。抗いようがなくただ殺されるために大きくなる。希望などあったもんじゃない。これに勝る恐怖などあってたまるか。


 仕方ないのは知っている。仕方ないのは知っているんだ。人間だって生きるためにやっていることだ。だけど自分が殺されるのを仕方ないなんて言う奴がいるか。少なくとも自分は嫌だ。この生存困難な現状と自分を殺す人間と一部絶望している自分が嫌いだ。くそくらえ。幸いにも自分は他の豚に比べまだ小さい。自分は絶対に寿命で死んでやる。

 

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