第2話 男子バレーボール部を創設
~毛利喜多郎(海港中学バレーボール部顧問・生徒指導教員)~
伊野部がバレー部に入ったのが四月。それ以降の試合結果は悪くない。
四月の地区大会では桂北中学を破って優勝。市大会では優勝こそ逃したものの勝ち上がって都道府県大会に駒を進められた。さすがに全国大会出場経験のあるシードチームに敗れてしまい、惜しくも上の大会に進出はできなかった。それでも過去の最高戦績を手にすることができた。市大会のシード権も獲得でき、今後の戦績にも期待することができそうだ。
勝因は間違いなく男子のスパイクに多少慣れたことだろう。チームの守備力が大きく向上し、多少の強打スパイクでは失点をしなくなった。過去最高戦績という華々しい結果は伊野部がいなければあり得なかったはずだ。
そして夏、三年生の引退試合でも同等の好成績。この結果、市大会以下の大会ではシード権を秋の新人戦まで引き継ぐことになった。まさにバレー部は今右肩上がりに強くなっていると言える。
そんな中、好調のバレー部に水を差す一大ニュースが飛び込んできて、海港中学の教職員達に衝撃を与えた。
とある十月の放課後。体育祭を終えて日常に戻った海港中学の職員室。全教員が勢揃いしての職員会議が長々と続けられていた。
「毛利先生、これは早急に手を打たなければなりませんよ」
教頭先生を筆頭に、多くの教員の視線が集まる。
「ですが、何か問題を起こしたというわけじゃないですよね?」
「それにバレー部は過去最高の戦績と聞きましたよ」
反対意見の教員の視線も集まる。全職員は今、重大な議題と向き合っている。
教育委員会経由でとある通達がやってきた。他県の高校で男子の運動部に所属する女子マネージャーの妊娠が発覚したのだ。関係を持っていたのは同じ部活の男子部員。非常に繊細な問題のため世間には公にされていない。
教育界では女子学生の妊娠は毎年のようにどこかで起こっている。その相手は先生や生徒、他校の人間や社会人など多岐にわたる。もちろん強姦などの事件によるものもあるので一概に全てが教育界の問題というわけではない。しかし女子学生の妊娠は発覚する度に教育界を揺るがす。
そしてその妊娠騒動がまた起こった。そしてそれが他県の高校ではあるが、男子ばかりの部活に所属する女子マネージャーであった。男女を逆転させれば、女子に混ざって練習をしている伊野部は、非常に状況が酷似している。
教育委員会などから次の妊娠騒動を起こさないように、細心の注意を払うよう各学校へ通達が渡った。その通達を受けての会議なのだ。
「毛利先生、そもそも続くかどうかわからないから様子見をするという方針で最初はバレー部への所属を認めたわけですが、あれからもう半年も経っています。もう様子見というわけにはいかないでしょう」
つまり伊野部をバレー部に残すかどうか、その判断をしなければならないときがやってきたわけだ。バレー部は過去最高戦績を残して、それは伊野部のおかげだった。そう言ってハッピーエンドとはいかなくなった。現状維持も難しくなった。伊野部をバレー部に残すためにはそれなりに環境を整えなければならない。
伊野部が何か問題を起こしたわけではない。だからこのままでいいのではないか、という教員も当然いる。当人はバレーボールという競技が好きで、バレー部に所属したいという意向があって所属している。一人の教師としてはこのままにしてやりたいし、バレー部顧問としてはバレー部にいて欲しい。そう言いたいところだが、問題発生を未然に防がなければならない教育界の状況という大人の事情がそれを許さない。
「そうやな。せやけど、あいつは自分の意思でバレー部に来たわけやし、こっちが勝手に決めてええっちゅうわけでもない」
中学生はまだ子供。そんな子供を大人の事情で振り回したくはないが、状況が状況だけに何か動きが無ければならない。大人の決定をただ押しつけるのは簡単だが、当人の希望ややる気や将来の展望を考えれば、勝手に決めていいことではない。
「伊野部と少し話さなあかんな」
通達を受けてすぐに開かれた会議。現状維持派と強制退部派。双方の意見と溝は埋まらなかった。なら、行く方向を当人の意見を聞き入れて決めるのがいいだろう。
現状維持派は伊野部のやる気や所属してからの結果を重視している。強制退部派は教育委員会の通達を受けて問題になりそうなことを潰そうとしている。どちらも間違ってはいないからこそ話に決着はつかない。その解決の糸口を子供の意見に頼るのは大人としてどうかと思うが、当人の意思を尊重するというのもまた大人の役目でもある。
それに現状維持とも強制退部とも違う解決策があるかもしれない。もちろん当人にその気があり、周囲の助けがあればこその第三の道だ。
「少しだけ時間貰うで」
会議はこれにて一旦停止。続きは当人の意見を聞いてからということになる。
~伊野部俊(海港中学二年・バレーボール部)~
いつも通り授業を終えてクラブへと行く準備をしている。体育祭が終わってめっきり涼しくなった。冬服から夏服に替わった頃と似て、夏服から冬服に変わっていくのも時間経過というものを感じる。
去年、以前の学校では衣替えに関して特に思うところはなかった。季節が変わったから制服を衣替えするというだけのことだった。しかし学校が変わったことで多少感覚が変わってしまったのかもしれない。
「伊野部、明日の体育は絶対に勝とうぜ」
野球部の神田と村山とはよく一緒にいることが多い。他のクラスの野球部とも仲良くなったし、陸上トリオのおかげで陸上部とも仲良くなった。気のいい体育会系の人間達に助けられ、六月頃にはもう転校してきた新参者という距離を感じなくなっていた。今ではもう海港中学の一員として受け入れられている。
「おう、狙うのは全勝だ」
体育の授業は体育祭終了後から柔道が始まっていた。そして明日はクラスをチームごとに分けて団体戦をすることになっている。
「神田がいたら頼もしいな」
柔道の授業に限らず、神田と同じチームになりたい奴らは多かった。神田はどんな種目であろうとも活躍してしまう。運動神経がいいとか、感覚が優れているとか、身体能力が化け物だとか、同級生からもよく聞く。
体力測定では全ての種目でトップ争いを繰り広げた。その後はダンスで軽快な動きを見せて、バスケットボールではゴールを量産。ソフトボールでは野球らしく大活躍し、水泳では全ての泳ぎでトップ争い。体育祭の練習を兼ねた陸上では陸上部に負けず劣らない好成績で、体育祭では複数競技に参加して一位を連発。そして体育祭終了後に始まった柔道でもその高い能力で勝ちまくっている。
「柔道の次はサッカーだけど、こいつ足でボールを扱うのも上手いからな」
「去年は得点王だったからな」
村山が褒めて、神田が胸を張る。本当にどの競技をやっても活躍できるらしい。スポーツ万能とはよく聞くけれど、実際にそういう人物と出会ったのは初めてだ。
「おぉ、そうだ。冬休み明けの体育はバレーボールだぞ」
「そうなのか?」
体育の授業とはいえ、バレーボールの話題が出たのは少し嬉しかった。
「でも男子はバレー部いないし、上手いのか下手なのかはよくわからなかったんだよな」
「それでも神田のチームは一番強かっただろ」
よくわからなくても勝つ。海港中学の中にスポーツの才能で神田に勝てる奴はいないのかもしれない。
「まぁ、今年はバレー部がいるんだ。バレーボールの授業の時は味方で頼むぜ」
「じゃあサッカーの時は俺が味方で頼むよ」
授業の時のチームをこの場で決めていいものかどうかわからないが、有力な人物が味方であることは心強い。
「俺も、俺も味方な」
村山が自分を忘れず仲間に入れろと、強く主張してきた。とりあえず「忘れてなかったらな」と言っておいた。
「じゃあな、伊野部。また明日」
「おう、また明日な」
神田と村山と別れて体育館へ。体育館に入るとまっすぐ用具室に入って階段を上り二階へ。半年間も同じところで着替えていれば慣れたものだ。最初は空っぽの一室だった用具室の二階に、体育館のパイプ椅子や長椅子を勝手に借りて持ち込んだ。何も無かった部屋が少しだけ部室っぽくなった。
着替えを終えてフロアに出ると、一年生が準備をしている。床にモップをかけて、ネットを張ってボールを準備する。準備をしている一年生の邪魔にならないように、体育館内で他の女子部員達と一緒に個別のウォーミングアップを始める。気温が少し下がってきたので怪我には要注意だ。
「伊野部、今日の後半にやるチーム練習の時なんだけど……」
三年生が引退して新キャプテンとなった雪村。一年生の頃から試合に出ていて、二年生の時にはすでに副キャプテンのような立ち位置だったこともあり、新キャプテンとなってからもチームはしっかりとまとまっていた。
チームの弱い部分を補強する練習がしたい時、練習相手として唯一の男子は存分に腕を振るっていた。そのチーム練習の時に強打や軟打の偏りを持たせるかどうかや、フォローやカバーなどのチームワークを重視する練習に重点を置くかなど、事前に話し合って方針を決めていた。
「おい、伊野部と雪村、ちょっと来い」
今日の練習の打ち合わせをしている時、毛利先生に呼ばれて教官室へと入った。
教官室は二人掛けのソファーが二つにパイプ椅子が数個。ロッカーと冷蔵庫と簡単にキッチンがある。普段は体育教師の着替えや準備の場所として使われているが、ほとんど毛利先生の私室の一つにもなっている。また海港中学が試合会場となったときに、他校の監督達が休憩する場所にもなっている。
「伊野部、座れ。雪村、コーヒー」
「「はい」」
言われるままにソファーに腰を下ろす。足を揃えて座っているが、対面では二人掛けのソファーを一人で広々と使っている教官室の主と目が合う。
冷蔵庫からコーヒーを取り出して準備する雪村。そのコーヒーの出し入れの際に缶ビールが見えたのは気のせいだろうか。
「伊野部」
「はい」
鬼と呼ばれる威圧感の塊の毛利先生。話しかけられればとにかく「はい」以外の言葉が出てこない。
「お前、試合に出たいか?」
「……はい?」
話しかければとにかく「はい」以外の言葉が出てこない。言っている意味がよくわからなくても「はい」以外の言葉が出てこない。ただ、聞き返す疑問形にはなる。
「公式戦に出たいかどうかを聞いてるんや」
聞かれて心臓が一瞬、強く脈打ったのがわかった。
答えは決まっている。女子の試合を間近で見ていて、試合のピリピリした空気や全力で勝ちに行く努力、一点を取るための駆け引きや対戦相手の威圧感。そういうものを間近で見ていて、試合ができるのであればしたい。そういう思いをずっと持っていた。
しかし試合をする為にはチームが必要で、そのチームが近くになかった。新入部員も入ることなく、近くにクラブチームもない。試合がしたくてもできない。それが現状で、試合がしたいかと問われれば「試合がしたい」と答えるのは決まっていた。
「試合……したいです」
雪村が用意したコーヒーが毛利先生の前に置かれる。雪村が教官室を出て行こうとすると、毛利先生は「雪村、聞いていけ」と二人掛けのソファーに座らされた。
「伊野部がバレー部に来てから半年や。最初はすぐ辞めるかもしれんと思っとった。せやけどもう半年も経ったんや。なら、もう伊野部は辞めへんやろな」
この時、毛利先生は辞めるかどうかをずっと見ていたことを知った。女子の練習が優先され、男子の自分は試合に出ることも叶わない。そんな状況になら諦めて辞めてしまってもおかしくはない。それでも辞めなかったことで本気の度合いが伝わったのか、毛利先生は試合に出たいかどうかを聞いたのかもしれない。
「そうか。それやったら、選択肢は二つや」
毛利先生が右手の指を二本立て、その一本を左手で指さす。
「一つは他校のチームに在籍させてもらうことや。昔はなかったんやけど、最近の少子化で合同チームが認められるようになっとる。長所は必ず試合の時にチームが組めるんやけど、短所は必ずしも試合に出られるとは限らんことやな」
他校のチームに在籍させて貰うことで試合に必要な人数は揃う。その代わりそのチームでレギュラー争いやメンバー争いがある。その争いに敗れれば、結局は試合に出ることができない。
「男子がある中学校で一番近いのは桂北中学ですね」
今まで黙っていた雪村が口を開き、毛利先生は雪村の言葉に頷いた。
「そしてもう一つやけど、こっちは海港中学でチームを作ることや」
二本立てられた指のも一本を指しながら言った。
「長所は試合に出られる人数でチームを組めることやけど、短所としてバレー部以外から引っ張らんと集まらん」
他のクラブに所属している人間をバレー部に勧誘するか、もしくは帰宅部のような無所属の人間を勧誘する。この二つしか無い。
野球部や陸上部など、それぞれ本気で向き合っているスポーツがある。そこをバレー部に鞍替えして貰うのは難しいかもしれない。そうなると帰宅部を誘う案が良さそうだが、帰宅部で越知乙いている人間がバレー部に入ってくれるかどうかわからないし、スポーツで戦力になるかどうかもわからない。
「好きな方を選べ。他校のチームに在籍するんやったら今すぐ連絡取ったる」
究極の選択、のような気がする。
他校のユニフォームを着てそのチームの一員として試合に挑む。レギュラーを獲得できるかどうか、メンバーに選ばれるかどうかもわからない。試合に出るという当初の目的は達成できないかもしれない。それでもバレーボールを本気で全力で、男子の部活で行うことができる。ずっと望んでいたことでもある。
しかし試合に出られない可能性だって十分ある。そのチームにはそのチームの練習方法があり、チームごとに戦術や戦略が異なる。ただでさえ男子の部活から離れてしまっている状態だ。男子の部活のレベルの感覚に戻し、さらにそのチームの戦術や戦略や練習方法に適応することを考えれば、新たにチームを作った方が試合に出るという点では断然有利だ。しかしチームができる確証はない。
どちらを選ぶにせよ、一度選択したら後から帰ることは難しい。他校のチームに在籍する案は時間が短くなればなるほどメンバー入りは難しくなるだろうし、新しくチームを作る方はメンバー探しや練習する時間が無くなる。
「伊野部の好きな方を選んだらいい。女子のことは気にしなくていいから」
雪村の言葉を聞いて一つ、気が付いた。
この海港中学から一番近い男子バレー部のある学校は片道でもけっこう時間がかかる。そうなると授業終了後すぐに学校を出て移動しても遅刻だろう。そして練習が終わってから帰ってくるともう夜も遅くなる。そうなると女子の練習には当然手を貸せなくなる。
他校のチームを選ぶということはつまり、もう二度と海港中学女子バレー部の練習に参加しないという選択をすることにもなるのだ。
「俺は……」
この夏、過去最高戦績で三年生が引退した。彼女たちは口々に「この結果は伊野部のおかげでもあるよね」と言ってくれていた。本当に自分の力が役に立っていたかどうかわからない。それでもそう言ってくれたことは嬉しかった。バレー部の役に立っているという実感が湧いた。
雪村は気にしなくていいと言ってくれたが、海港中学のバレー部として過ごした半年間は確かに心に強く残っている。それを全て置いて他校のチームに参加させて貰うという決断が、どうしてもできなかった。
「できれば、海港中学のユニフォームを着たいです」
他校のチームに参加するか、海港中学で新しくチームを作るか。お互いの長所と短所を考えた結果、この半年間自分を受け入れてくれた人達への思いがこの決断に導いた。
「そうか、わかった」
毛利先生はそう言うとコーヒーを一気に飲み干すと、ソファーから立ち上がる。
「じゃあ練習に戻れ」
「は、はい」
毛利先生はさっさと教官室を出て行ってしまう。先に教官室を出ようとすると、雪村は空になったグラスを洗ってから教官室を出てきた。
「良かったの?」
「なにが?」
「新しいチームを作るって、相当難しいと思うけど」
バレーボールという競技の人気は男女差が激しい。女子に比べて男子がとにかく集まりにくい。海港中学がある地区の男子チームは女子チームの半分。一チームの人数も女子より少ないだろう。きっと他校でも人数を集めるのには苦労しているはずだ。そこに全く男子バレー部が無い状態から男子バレー部のメンバーを集める。難しくないはずがない。
「他校に行って試合に出るのも難しいと思うけどな。まぁ、お情けで出してはもらえるかもしれないけど、それだったら出ない方がマシだよ」
実力でメンバー入りを果たして戦力となったわけではなく、試合に出たいという思いだけをくみ取ってわずかな出場機会を得させて貰う。それは公式試合がしたいという自分の思いとはかけ離れている。そんな屈辱的な出場なら、女子のコーチのままの方を選ぶ。
「しかたないんだよ」
そう、しかたがないのだ。他校に行ってそのチームのユニフォームを着るよりも、半年間一緒に練習して受け入れてくれた人達と同じ文字が入ったユニフォームが着たい。そう思ってしまったのだから。
この日の練習は、いつもより少し遅れて始まった。
~毛利喜多郎(海港中学バレーボール部顧問・生徒指導教員)~
職員室に戻ると、まだ多くの教員が残っていた。
「毛利先生、伊野部君との話は?」
「さっき終わったわ」
話が終わった。そう言うとまたしても注目が集まるのがわかる。伊野部がどういう風に考えているのか、その結果バレー部顧問としてどういう決断を下すのか。みんなそこが気になっているのだ。
「それで、伊野部君は? バレー部を辞める決意を固めてくれましたか?」
強制退部派の教頭先生は伊野部が辞めてくれれば全てが丸く収まると思っている。重いが言葉になって出ている。
「伊野部はバレーを辞めへん」
「そ、それじゃあ現状維持ですか? このまま女子の中に男子が一人というのは……」
「現状維持でもあらへん」
「え?」
職員室が少しざわついた。
「そもそも女子の中に男子が一人っちゅうのが問題なんやろ? それやったら男子バレー部を作ったら解決や」
職員室が大いにざわついた。
「毛利先生、それはさすがに……」
「なんや? 何か問題あるんか?」
「い、いや、そういうわけでは……」
「卓球部も吹奏楽部も男女同じ空間で練習しとるやないか。バレー部もそうなれば問題ないやろ」
「そ、それはそうですが……」
やや言葉が強くなってしまったかもしれない。明らかに教頭先生が萎縮している。
「ですが男子バレー部を作っても一人というのは困ります」
「それはこれからや」
「こ、これから?」
「そうや、これからや」
職員室内の掲示板に目を向ける。そこには様々な行事の予定や授業のカリキュラムなどが掲示されている。
「少し授業のスケジュール変えさせてもらうで」
「え? は? スケジュール?」
「体育の授業で今は柔道、その後はサッカーで年明けからバレーや。これを柔道が終わったらサッカーやなくてバレーにする。サッカーは年明けにすればええやろ」
我ながら妙案だ。体育の授業でどの種目をするかは各学校に選択権がある。しかしやらなければならないことがある。器械運動、陸上競技、球技、武道、水泳、ダンスというジャンルを網羅しなければならない。網羅した上で規定を達していれば問題ない。つまり体育の競技を行う順番を変えることは大した問題では無いのだ。
「毛利先生の一存だけでそんなことは……」
反対意見を言おうとしている教頭先生と目が合うと、急に声が小さくなって聞き取れなくなった。
「あかんか?」
「いや、えっと……不可能ではありませんが……」
「そうか。なら、頼んだで」
「え、えぇ?」
ひとまずこれで今年中に授業でバレーボールを行うことができる。授業でバレーボールが上手い生徒を声かければ、比較的上手いメンバーでチームを作ることができる。そうすれば素人の寄せ集めにしても多少はマシになるだろう。
体育でのバレーボールの授業。これはバレー部顧問としてしっかり監督するとしよう。
~伊野部俊(海港中学二年・バレーボール部)~
試合に出たいという意思を伝えて数日後。文化祭迫る飽きの海港中学の生徒達に一つの噂が流れ始めた。
「おい、伊野部。聞いたか?」
教室で顔を合わせた神田はなにやら楽しそうだ。
「なにを?」
「毛利先生のあの話だよ」
「あの話?」
「なんだ、まだ聞いてないのか?」
神田が周囲をキョロキョロと見渡し、ヒソヒソと小声で話し始める。
「毛利先生がヤクザの組を従えているって噂だよ」
「……は?」
初耳だ。そんなことがあり得そうな顔だが、本当にあるとは思わなかった。
「お前、信じてねぇな」
「信じられるか」
「卓球部の奴らが見たらしい。どう見てもヤクザっていう見た目の男が六人くらい、歩く毛利先生に道を譲って一斉に頭を下げて挨拶していたって」
ヤクザみたいな人だとは思っていたが、実際にヤクザと深い繋がりがあるとは思っていない。しかしそういう噂が流れていると聞いて、容易に想像できてしまい、想像して納得してしまう。
「その後は一緒に居酒屋に入ったらしい」
ヤクザに挨拶されるまでは想像できるし、事実だとしても納得できそうな気がする。以前ヤクザの組を一つ潰したという噂も耳にくらいだ。しかし居酒屋まで行くと聞いたらどうも嘘っぽく感じる。
「だからお前も気をつけろよ」
「何にだよ」
神田が真面目な顔で肩をポンポンと叩く。
「すぐそこが海だからな、沈められるなよ」
さすがに教師をやっている人間が生徒にそんなことはしないだろう。そう、教師だからしないはずだ。おそらく、きっと、しないはずだ
「おーい、席に着け」
担任の浜辺先生が教室にやってくる。生徒が急いで席に着き、ホームルームが始まった。
「もうすぐ文化祭だ。それが終わったら体育の授業が切り替わる」
海港中学は行事や期間や時節などの節目で体育の授業を切り替えて行く。今は柔道の授業だが次はいったい何になるのか。聞いた話では毎年、年末頃の男子はサッカーの授業を行っているらしい。
「それで、だ。毎年男子はサッカーで女子はバレーボールだったな。年明けは男子がバレーボールで女子がサッカー。それを入れ替えることになった」
クラス全体がざわざわと騒がしくなる。
「文化祭終了後、男子がバレーボールで女子がサッカーだ。年明けに男子がサッカーで女子がバレーボールになるからな」
急な変更だな、と思ったが前後を入れ替えるくらいなら大した問題ではない。クラスのざわつきも、前後が入れ替わるだけなら問題ないとすぐさま静まっていく。
「そういうことだから、みんな間違えるなよ」
浜中先生はその後いくつかの連絡事項を伝えると、早々とホームルームが終わった。
しかし急な連絡事項だ。何故サッカーとバレーボールの授業が入れ替わったのか。もしかして男子バレー部を作ると言ったことと関係があるのだろうか。
男子バレーボール部を作るとは言ったものの、実際に帰宅部に声をかけてみてもみんなやる気は無かった。数合わせにも乗り気ではない。他の運動部の面々にはなかなか声をかけづらいこともあって、部員集めははっきり言ってまだ全く進んでいない。
毛利先生の何かしらの動きなのかどうかはわからないが、様々な噂があるあの先生ならこれくらいのことは簡単にやってのけそうだ。この授業の変更がバレー部のメンバー集めに役立ってくれることを願った。
文化祭が終わって最初の体育の授業。事前に授業内容変更の知らせを聞いていたため、男子は体育館へ行き女子はグラウンドへ出た。
体育の授業がいざ始まり、ボールを使う前のウォーミングアップをしている時だった。聞き慣れた音が体育館に響く。教官室の外の鉄扉が勢いよく閉まる音。そして体育館と教官室を区切る木扉が開く音。その音の大きさも長さもタイミングも、全て聞き慣れた毛利先生の動きにぴったり当てはまった。
「おう、やっとるな」
突如体育館に現れた毛利先生。そのまままるでいつも通りバレー部の練習を監督するかのように、鬼の玉座と呼ばれる革張りの肘掛け付きソファーに腰を下ろした。
「何してんねん。ボーッとしとらんとさっさとやらんか」
毛利先生を見てウォーミングアップが止まってしまっていた生徒達。言われて慌てて身体を動かすが動きがぎこちない。担任であり体育教師でもある浜中先生の存在感が急激に薄くなった気がした。
授業が始まっても毛利先生は座ったままで特に何かを言うことは無い。ただただ淡々とバレーボールの授業を見ているだけだった。それだけでプレッシャーを感じているのか、普段口数が多いクラスメイトは黙り、動きが軽快なクラスメイトは動きが固い。
「うぉ、伊野部。ボールがまっすぐ飛ばねぇぞ」
「アンダーハンドパスの受ける場所が悪い。手首の骨のところじゃなくてもう少し上、肘寄りのここで受けるんだ」
「ここで受けると痛いんだよ。お前は痛くないのか?」
「一週間くらいで慣れるよ」
体育教師よりもバレー部ということで各方面から引っ張りだこだった。こんなに忙しい体育の授業は初めてだった。
「オーバーハンドパスは額の上のこの辺りで受けるんだ。その際に両方の親指と人差し指で三角形を作るようにしてボールを包み込んで飛ばすんだ」
「おぉー、なるほど」
基本のパスをある程度練習したら次はサーブ練習。慣れないクラスメイト達はボールを打ってもネットにかかったり壁の方に飛んだり、とにかく狙いもコントロールも全く定まっていなかった。
「サーブを打つときは手のひらのこの辺りでまっすぐ打つと安定しやすい。慣れてくると手首を捻ったり当てる場所を変えたりするんだけど、今はとにかく狙った場所にまっすぐ打てるようにしたほうがいいな」
だいたい体育の授業でバレーボールをするとき、サーブ練習が一番荒れる。前の学校でもそうだったが、適当に力任せで打ったり手を拳にしてボールを飛ばしたりするからだ。しかし毛利先生がいるおかげでみんな比較的真面目に取り組んでくれる。
さらに持田コーチに教わったコーチングも生きた。運動神経のいい奴と悪い奴、球技経験のある奴と無い奴、すぐ感覚を掴む奴となかなか物覚えの悪い奴など、個々人にそれぞれあった教え方ができた。そのおかげかたった一回の授業だというのに、神田のようにスポーツが得意な奴は思いの外習得が早かった。
「スパイクは踏み込むときに飛ぶタイミングに合わせて腕を振って、身体を少しでも高く引っ張り上げるんだ。そうして高い位置からボールを上から下へ叩く。コースを打ち分けるのは後回しにして、とにかくまっすぐ打てるようにしよう」
一年生の新入部員に教えるような感覚でクラスメイト達にバレーボールを教えていた。毛利先生のプレッシャーはあっただろうが、後半はみんなバレーボールを楽しんでくれていたように感じられた。
「よーし、今日の授業はここまでだ。次回は対戦形式で試合をするぞ」
存在感が非常に薄かった浜中先生が授業の終了を告げる。ちょうどチャイムが鳴ってみんなが体育館を出て行く。
毛利先生は授業中最後まで何も言わず見ていただけで、授業が終わるとさっさと教官室へと引っ込んでしまった。バレーボールの授業を受ける生徒達のバレーボールセンスを見ていたのかもしれない。
海港中学に来て最初のバレーボールの授業は、こうして無事に終わった。そして次回以降のバレーボールの授業も全て皆勤賞で、毛利先生は鬼の玉座に座って授業を見ていたのだった。
~毛利喜多郎(海港中学バレーボール部顧問・生徒指導教員)~
十二月。クラブ活動が始まる前に教官室に伊野部を呼び出した。
「おう、伊野部。順調か?」
「いえ、それが……」
伊野部のメンバー集めの報告は、順調どころか一人も集まっていないというものだった。
「そうか、まぁそんなもんやろうな」
伊野部はクラブに所属していない帰宅部に声をかけていた。しかし良い返事は一つももらえていない。運動部に気を遣って帰宅部に声をかけていたようだが、その結果は成果ゼロという厳しい結果に終わった。
ほぼ予想通りの結果だ。
「ほら、これ見ろ」
「あ、はい」
伊野部に一枚の紙を渡した。そこには今までバレーボールの授業を見て、短期間でそれなりに戦力として使えそうなメンバーが並んでいる。その全員が運動部所属だったというのはしかたのないことだろう。
「あの、これは?」
「使えそうな奴らや」
「ですが運動部ですよね?」
「そうや」
「他の部活からスカウトするんですか?」
「それが一番手っ取り早いんや」
クラブ活動にも人気と不人気がある。野球部や陸上部や卓球部などは比較的運動部の中でも人数が集まりやすい。つまり適当に数人引き抜いても、戦力ダウンはあるかもしれないが試合に出場することは可能だ。
人気のクラブから使えそうな人間に片っ端から声をかけ、乗ってくれた奴に来てもらう。すると体力もあるしバレー部の戦力にもなってくれる。元いた部活は戦力ダウンになるかもしれないが、人数に問題が無いなら来て貰いやすい。帰宅部に声をかけ続けるよりも可能性があると予測している。
「元の部活を辞めてまで来てくれますか?」
「さぁな、そんなんわかるわけないやろ」
海港中学全員に声をかけても誰一人集まらない可能性もある。しかし他の運動部に所属しているからといって来てくれないと判断するのは早い。
「まぁ、やれるだけやってみればええやろ」
「……はい」
伊野部はしばらく渡された紙をじっと見ていた。しかし伊野部にやらせるだけでは良い結果が得られるかわからない。ここはバレー部の顧問らしく、行動することにしよう。
~神田啓介(海港中学二年・野球部)~
伊野部に悪いことをしたかもしれない。そういう思いが拭いきれない。
男子のバレーチームを作りたいと帰宅部に声をかけていたのは知っている。そしてメンバーが集まっていないことも知っていた。その上で声をかけられた。帰宅部ではメンバーが集まらないと考えたのだろう。しかしずっと野球をやってきたのだ。チームでも今はレギュラーとして試合に出ている。それもあって断ってしまった。
自分が断っただけならまだ良かったかもしれない。だが聞くところによると他の運動部にも声をかけて、今のところ全滅状態らしい。その結果を聞いたからこそ、せめて自分だけでも伊野部の求めに応じた方がよかったのではないかと、どうしても考えてしまう。
今も教室で伊野部がいろんな運動部の面々に声をかけている。それを見てなんとなく居づらくなって、気が付いたら当てもなく廊下をぶらついていた。一緒に行動する友達もなく一人で、ただ次の授業が始まるまでの時間を潰すためだけに学校内を歩き回っていた。
「おい、神田」
すると、不運なことに鬼に目をつけられてしまった。
「はい」
廊下で出くわした鬼教師に呼び止められれば立ち止まって返事をするしかない。それ以外に選択肢がないのだ。
「お前、授業でバレー上手かったな」
「え? あ、そうですか? ありがとうございます」
いきなり褒められて驚いた。間違いなく何か言われると思っていたからだが、意外にもお褒めの言葉をもらってしまった。
「伊野部が男子バレーのチームを作りたいって言いだしたんやけどな。お前、その気はあるか?」
「え?」
いきなり聞かれて返答に困る。伊野部が男子部員を探しているのは知っているし、そのことが原因で教室に居辛さを感じてしまってここにいる。
あいつがバレーボールという競技が好きなのは知っている。そうでなければ女子に混じって一人でやることはない。そんな奴がメンバーを探しているのだ。できればメンバーが集まって欲しいと思う。しかしだからといって長年続けてきた野球を辞めて、伊野部と一緒にバレーボールをすることはできない。
「まぁ、ワシもあいつのやる気になんとか応えてやりたいんやけどな。人が集まらんことにはどうしようもないんや」
「ですが俺、野球部ですから……」
「まぁそれはしゃーないな」
野球部に所属していて野球部を辞めるという決断に至れない。だから伊野部の力にはなれない。それは毛利先生もよくわかっているようだ。
「ワシはチームを作ると言うより、あいつを公式戦に出してやりたいだけなんやけどな」
「公式戦……」
レギュラーとして試合に出ている身としては、その試合でどれだけ力を発揮できるかが重要だ。しかし伊野部は試合にすら出られない。女子バレー部の雪村にも聞いたことがあるのだが、伊野部はバレー部から見てもかなり上手いらしい。しかしその実力を発揮する場があいつにはない。
「まぁワシはバレー部の顧問でこの学校の教師や。体育館は少々遅くなっても使えんことはない。せやから人数が集まれば練習時間は確保できるんやけどな」
人が集まらないことが一番の問題。チーム競技は人数が揃っていなければ試合に出場することすらできない。人数がいなければ初戦敗退すらできないのだ。
「まぁ、お前じゃなくてもええ。野球部の補欠の奴とか、よかったらでええから声かけたってくれや」
毛利先生は最後にそう言い、体育館の方へ歩き去って行った。この日言われた言葉はしばらく、頭から離れなかった。
十二月中旬。試験期間中はクラブ活動がないため、試験が終われば早々にみんな学校からいなくなる。そんな中、帰り支度をしているクラスメイトに声をかけた。
「なぁ、雪村。ちょっといいか?」
「なに? カンニングには付き合わないから」
「そんなこと頼むか。ちゃんと点は取れるように一夜漬けしてんだよ」
「あぁ、一夜漬けタイプなの」
しばらく試験に関することを話した後、本題を切り出した。
「ちょっと聞きたいんだけどよ」
「なに?」
「バレーの練習着とシューズってどれくらい金がかかるんだ?」
「……は?」
雪村の時が少し止まった。
「ほら、野球ってバッティングの手袋にストッキング、上下のウェアにベルトに帽子って多いだろ? さらにバットとグローブだ。けっこうかかるんだけど、バレーってどれくらいかかるのかと思ったんだ」
野球に比べてバレーボールは身体に装備するアイテムが少ない気がする。しかし一つ一つがものすごく高いこともある。装備数だけで値段を高いか安いかを勝手に決めつけてはいけない。
「野球よりはかからないと思う。だいたい上下とシューズで私は……」
雪村が練習のためのアイテムにどれだけお金を使っているかを聞けた。もちろん全員が全員同じ値段ではないことは十分わかっている。それでも参考にはなる。
「サンキュー。それと、もう一ついいか?」
「いいけど、なに?」
「どうしてバレー始めたんだ? バレーってその後ずっと続けるくらい面白いのか?」
「質問、二つになってるけど?」
「あー、じゃああと二つ頼む」
「はいはい、それでなんだっけ? どうしてバレーを始めたか、ね」
雪村が何かを思い出そうとするように、少し黙って考え込む。何度か首を捻った後、出てきた答えは非常にシンプルなものだった。
「バレー部が一番に目に留まったから、かな」
「目に留まった?」
「男子だったら野球とかサッカーに目が留まるでしょ?」
「そうか? あー、でもそう言っていた奴もいたな」
人気スポーツともなれば、未経験に人が始める最初の動機にはなるかもしれない。実際に同じ野球部の中に中学校から野球を始めた奴もいた。そいつは「スポーツをやろうと考えていたら、野球が人気だったからとりあえず始めてみた」と言っていたくらいだ。メジャースポーツかマイナースポーツかでも違いが出ているようだ。
「女子だとバレーは上位だからね」
「なるほど、納得」
特に考えずメジャースポーツを選んだ、くらいの感覚だったということか。
「それで、ずっと続けるくらい面白いのか、だっけ?」
「そうそう」
「それだったら、私は面白いから続けているよ」
はっきりと自信を持って、雪村は面白いと言い切った。
「俺がやっても面白いと思うか?」
体育の授業でちょっとやるのは面白い。けれどもそれと実際に試合に向けて長い間続けるのとは違う。
「それは……やってみないとわからないんじゃないかな?」
「やってみないと?」
「うん、私は陸上とか水泳が面白いかって聞かれると面白そうには見えないの。でも陸上部の子は面白いって言うんだよね。私は自己ベスト更新とか、タイムや記録を争い合うっていう競技を面白いと感じないだけで、面白さっていうのはあるみたいなんだよね」
言われて気が付いた。
中学校からなんとなく野球を始めたのも一人や二人ではない。しかし続く奴と続かない奴に別れる。続く奴は野球が面白いとか、みんなとやるのが楽しいとか言っている。続かない奴は野球が面白くないとか、みんなとやっても楽しくないとか言っていた。そいつらは陸上部に入ったり帰宅部になったりしている。
そして自分が何故野球をしているかも思い出した。競技など何でもよかった。ただチームスポーツでみんなと一緒に目標に向かって努力して勝ち進むこと。それが面白いのだと思って野球を始め、実際に面白かったから続けていたのだ。つまりチームスポーツなら何でも面白いと思える可能性が自分にはあることになる。
逆に淡々と個人で行う競技をするのは好きじゃない。体育でも、陸上や水泳は最初こそ新鮮な気持ちで行うが、少し経てばタイムを計っている時や複数人でリレーなどをしている時以外は楽しいと感じない。自己ベスト更新などにこだわれる人間ではないのだ。
「そっか、わかった。ありがとう雪村」
「どういたしまして」
雪村は荷物を片付けて鞄を持った。もう後は帰るだけだが、そこで一度足を止めた。
「ありがとう」
「え?」
いきなり礼を言われた。なぜ雪村が自分にお礼を言うのか。
「伊野部のこと、真剣に考えてあげたんでしょ?」
「……まぁ、俺にできることは何かなって思って、な」
「だからありがとう」
「おいおい、まだやるとは決めてないぞ」
「それでも私が聞いた限り、誰もそこまで真剣に考えてはくれていないみたいだったから」
伊野部の行動はよく耳に入る。野球部の誰に声をかけた、陸上部の誰に声をかけた、剣道部や柔道部や卓球部、それこそ文化系や帰宅部にまで声をかけている。けれどもまだメンバーは一人の集まっていない。
そんな状況を雪村も知っているのだろう。だからこうしてバレー部の人間に接触して話をするという行動が、伊野部に為の行動だと受け取られたようだ。
「……みんな、か」
チームスポーツは一人ではできない。自分が伊野部と一緒に試合に出ると言っても、それでもまだ二人しかいない。バレーボールは最低でも六人いないと試合ができない。つまりやるなら最低あと四人、かき集める必要がある。
「あ、そうだ。雪村、このことは伊野部には内緒な」
「どうして?」
「変に期待させてさ、やっぱり無理って言うのは悪いだろ」
「そう、じゃあ黙っておく」
雪村は教室を出て行く。行き先は体育館とは逆なので帰るのだろう。
「さて、メンバーか」
自分も片付けて帰り支度をしていると、村山が近づいてくる。
「神田。雪村とデートの約束か?」
「そんなわけ……」
「なにっ! 雪村だって?」
否定しようとした。しかしその前に村山の発言を聞かれたのか、違うクラスのはずの陸上部トリオが躊躇うことなく教室に駆け込んできた。
「雪村とデートだと? それは本当か?」
陸上部トリオが真剣な顔をして迫ってくる。よそのクラスの教室だからという遠慮は全くない。もっとももうほとんどクラスメイトは残っていないので迷惑にはならない。迷惑にはならないが、少し落ち着いて欲しい。
「デートの話なんかしてねぇよ」
「じゃあ何を話し込んでやがった!」
「おまえらずっと見てたのかよ」
どうやら陸上部トリオは雪村と話しているところを教師の外からずっと見ていたようだが、何を話していたかまでは聞こえなかったらしい。
「……あ、そうだ。みんなこの後時間あるか?」
チームスポーツは一人ではできない。メンバー集めも兼ねて、とりあえず手近なところから話をしてみるのもいいかもしれない。
~伊野部俊(海港中学二年・バレーボール部)~
試験期間が終わってバレーボールの授業も終わってしまった。冬休みを経て年が明けた一月。またいつも通り授業の後にクラブ活動をする生活サイクルに戻る。しかし男子バレー部を作るためのメンバー集めは全く進んでいなかった。
「はぁ……」
体育館の中でも白い息が目立つ季節。特に海に近いため海風が寒く、天候次第では橋の上や海に面している道は凍っていることも珍しくない。
そんな寒さに負けていられないと動いて身体を温め、今日もバレー部のために練習相手を務める。いつも通りのスケジュールでチーム練習を終えて体育館を出る。そのまままっすぐ校門へと進むと、神田がいた。
「よう、伊野部」
「神田か、どうしたんだ?」
「お前に用があってちょっと待ってたんだよ」
「俺に用? だったら体育館に来ればいいだろ?」
「いや、まぁこっちもまだ準備中なんだよ」
「準備?」
「いや、とにかく、だ。次の日曜日は空いてるか?」
いきなりスケジュールを聞かれて戸惑いながらも、頭の中でカレンダーを思い出してスケジュールを確認する。
「……ああ、日曜日は一日空いてる」
「バレー部が一日休みなのか?」
「いや、練習試合に行くんだ」
「ついていかないのか?」
「行き先が女子校なんだよ。それでその日は休みになった」
「あー、女子校か。じゃあしかたないな」
小学生のチームは時々練習で中学校にお邪魔することがある。そして中学生は高校へ、高校生は大学へ、大学生は社会人チームや実業団へ。自分たちよりもレベルが上のところに行って練習をさせてもらうのだ。
そして海港中学もいくつかの高校と繋がりがあってお邪魔させてもらうのだが、女子バレー部しかなかったことで行き先に当然女子校が存在する。男子禁制の女子校にはさすがについていけない。だからといって中学生が一人で体育館を使用するというのは学校的に認められない。体育館も使えないため、何もできないので休みということになる。
「その日、野球部は午前練習だけなんだよ。じゃあ時間早めて昼飯時に待ち合わせな」
「昼飯時か。じゃあ学校に来るよ」
一日休みで今のところ何もする予定がない。それならこちらから学校へ行って合流した方が早い。
「じゃあ日曜日な」
「ああ、わかった」
神田は約束を取り付け終わると「おー、寒い」と言いながら校門を出ていく。神田とは変える方向が校門を出て真逆だ。そのため一緒に帰ると言っても校門を出るまでになる。だから約束を取り付け終わったらさっさと神田は帰っていった。
「……日曜日、か。なんなんだ?」
よくわからないまま、とりあえず脳内カレンダーに日曜日の予定を入れた。
ただ単に野球部が午前練習で昼から休みだから誘われたと言うことかもしれない。それでも野球部とバレー部では休みのタイミングや練習時間などがかみ合うことが少ない。久しぶりに友達と遊ぶことになるようだが、以前遊んだのはいつだったか。そんなことを考えながら、寒さから逃げるように家へと急いだ。
日曜日、朝は少し遅くまで寝た。起きてから時計を見て、時間があまりにも微妙だった。待ち合わせは昼飯時と言っていたが、クラブ活動はだいたい午前練習が終わるのは十二時ちょうど。今から行けば少し早く、だからといって何かをして時間を潰すにはあまりにも時間が少なすぎる。
「ちょっと早いけど行って、野球部の練習でも見てみるか」
普段、野球という言葉はよく耳にしたり目にしたりする。テレビでも新聞でもニュースでも携帯に入る速報でも、野球関連は実に多い。バレーボールとは雲泥の差だ。それほどよく見聞きする野球だが、練習を見たことはあまりない。
ちょっとした興味本位と時間つぶしの意味も込めて、少し早めに家を出ることにした。
歩き慣れた通学路を歩いて通い慣れた校門を抜ける。そこからいつも通り体育館へは行かず、グラウンドの方へと出る。体育の時くらいしかやって来ないグラウンドでは、野球部と陸上部が寒い中練習に打ち込んでいた。
「ん? 伊野部か。お前今日は休みか?」
「はい、今日は休みです」
グラウンドで野球部の練習を見ていると、野球部顧問の山辺先生に見つかった。
「でも毛利先生は今日練習試合って言ってたぞ?」
「行き先が女子校なんです。それで俺は行けないので休みになりました」
「おぉ、そうか。それで休みか」
女子校に行くことが出来ないから休み。それを聞いた山辺先生は何度か頷いた。
「バレー部にいてもバレー部と一緒に行動できない、不自由な話だな」
「そうですね。でもしかたないです」
女子の中にいる一人の男子だから、女子と全く同じ行動ができない。それはどうしてもしかたのないことなのだ。
「そんなことでバレー部として団結して試合に挑めるのか?」
「挑めているとは思います」
「でもバレー部は今、お前がこうしている間も汗水流して練習しているわけだ」
「そう、ですね……」
全く同じ条件にいない。だから団結できないというわけではない。しかしそれがほころびになって団結できないということも、十分可能性としてはあり得る。
「バレー部にこだわらなくてもいいと俺は思うけどな」
「え?」
「だってそうだろう? バレー部のある高校に行ってバレー部に入ればまたバレーができるんだ。中学の間は中学の間でしかできないこともある。友達だって卒業したらほとんど会わなくなるんだ。だったら今、長い時間を一緒にやっていける仲間達と頑張るっていうのもいいと俺は思うぞ」
「えっと、それはどういうことですか?」
「どうもこうもない。野球部も陸上部も、他のたくさんの部活も男子が所属している。まだ三年生最後の大会まで時間はあるだろう。新しい世界を見るのも悪くはないぞ」
山辺先生はバレー部以外に所属する事を言っているのかもしれない。
確かに男子バレー部としてチームを作る作業は進んでいない。メンバーも集まっていない中、時間だけがどんどん過ぎていく。三年生最後の大会まで時間が無い。そしてこれからもっと時間が無くなる。時間が無くなれば当然練習時間は取れないし、人が集まったとしてもチームとして機能するかどうかわからない。
そう考えれば他校のチームのユニフォームを着るという選択もよかったかもしれない。あの時は海港中学のユニフォームにこだわったが、上手くいかない現実にあの時の決断を振り返って後悔しそうになる。
「俺はいつでも歓迎するからな」
山辺先生はそう言うと練習する野球部員の方へ歩いて行く。どうやらそろそろ練習は終わりの時間のようだ。少し練習を見ていたが、練習内容はほとんど記憶に残らなかった。頭の中はあの時、あの判断をした瞬間を何十回と振り返っていた。
野球部の練習が終わって神田と合流した。一度神田の家に野球部の荷物を置きに帰り、その後、ファーストフード店でハンバーガーを注文して席に座る。
「それで、今日はいったいどうしたんだ?」
注文したハンバーガーを待ちながら、強行して誘われた理由を神田に問いただす。
「まぁ、それはもうちょっと待ってくれ」
携帯で時間を確認していると注文したハンバーガーができて、二人で食べていた。会話は今日誘ったこととは関係の無いことばかりを話していた。
「おー、いたいた。神田、来たぞ」
ハンバーガーを食べているとそこに野球部の村山がやってきた。その後に続くように中野、柴田、椎名、時任。みんなクラスは違うが野球部の面々だ。
「野球部メンバー?」
総勢七人になって一気に大所帯となった。しかし集まったのはこれだけではなかった。
「神田、来たぞ」
陸上部トリオの芹沢、五間、日暮。その後ろに陸上部の清水と近藤が続く。
「おー、来てくれて助かる。これで全員か?」
どうやら神田が呼んだメンバーらしい。
「田中、水戸、新垣辺りにも声をかけたんだけどな。野球に専念したいって」
「そっか」
「藤沢、吉田、木村、他にも声をかけたけど陸上のスポーツ推薦を狙っているからって断られたよ」
「それはしかたないな」
集まったのは自分も含めて総勢十二人。ファーストフード店の一角を完全に占拠してしまっている。
「よーし、じゃあ乾杯といこうぜ」
「おう、俺はオレンジジュースな」
「俺コーラ」
「俺はマンゴーで行く」
「マンゴーかよ。女子か、お前は」
みんながわいわいと飲み物を決めていく。すでに注文を終えている身だが、なんとなく流れ出もう一度注文することになった。
全員に飲み物と食べ物が行き渡ったところで、神田がすっと立ち上がる。
「伊野部、俺達やるよ」
「……やる? 何を?」
集まった面々は野球部六人と陸上部五人。わけがわからず神田の次の言葉を待つ。
「俺ら、バレーボールやるから」
「……え?」
神田が何を言っているのか、よくわからなかった。野球部と陸上部が集まってバレーボールをやる。いったいどういうことなのか。
「伊野部はキャプテンだからな。頼りにしてるぜ」
「それって、バレー部ってことか?」
ようやく神田の言っていることが少しずつ飲み込めた。神田はこのメンバーでバレー部を結成しようとしてここに集めた。
「もちろん。ただ、みんなさすがに今やっているクラブを辞めてバレー部になるっていうのはさすがに踏ん切りがつかなくてな。しばらくは野球部兼バレー部、陸上部兼バレー部って形になるけどいいか?」
今までやっていたクラブをきっぱり辞めてバレー部に移る。それはみんなさすがに難しい決断になる。バレー部を作る、バレーをするとなると、どうしても今やっている部活を辞めるという選択肢が出てくる。そこを兼任するという妥協案を考え、飲んでくれたメンバーということになる。
「いいも何も……」
言葉がなかった。何も思い浮かばないし、何も出てこない。いろんな人に声をかけてずっとダメだった。でも全くの無駄だったというわけではなかった。少なくともバレー部については考えてくれていたのだ。
それを今、知った。そして知った瞬間、感謝の気持ちで一杯になってしまい、言葉が全く出てこなかった。
「……ありがとう、みんな」
集まってくれたみんなになんとかお礼だけは言えた。
「よーし、じゃあ決起集会だ。ドリンク持て」
十二人、ファーストフードて注文したドリンクを持って掲げる。
「よっしゃ! じゃあ一緒に試合して勝とうぜ!」
『おーっ!』
全員でドリンクを一気飲みする勢いで飲む。
部を掛け持ちするという形ではあるが、メンバーが集まった。その嬉しさからまだ感情が安定していない。
「よし、じゃあ食い終わったら買物行くぞ」
「買物?」
「当たり前だろ。俺達全員屋外競技だぞ。練習着も靴も何も無いんだからな」
強行して集まったのはただ決起集会をするだけではない。全員揃ってバレー部用の練習着やシューズを買いに行くのだ。
「アドバイス頼むぞ、伊野部」
「わかった、何でも聞いてくれ」
そしてその買物にバレー部の自分が駆り出される。自分以外の買物に付き合うのだが、これほど人の買物に付き合うことが嬉しいと思ったことはなかった。
~毛利喜多郎(海港中学バレーボール部顧問・生徒指導教員)~
普段通りの練習が終わり、体育館内の片付けも終えて解散。後はいつも通り体育館と教官室の扉を施錠して、そのガキを職員室に返して帰るだけだ。
「毛利先生、少しいいですか?」
雑談をしながら帰っていく女子部員達。いつもはその集団の流れと一緒に帰っていく唯一の男子部員が残っていた。
「伊野部、どないしたんや?」
体育館を施錠して教官室も施錠されているかどうかを確認して、バレー部の顧問としての仕事は職員室に鍵を返しに行くだけとなった。
「前に言っていた男子でチームを作る話なんですけど……」
「おぉ、進展あったか?」
体育館から職員室へ。移動しながら伊野部の話を聞く。
「はい」
迷うことのない伊野部の返答に少々驚いた。年末、そして年始からの練習。先週の通常授業中のクラブ活動。その全てでいい表情が見られなかった。しかし、今の伊野部の表情は明るい。
よくよく思い返してみれば、今日の練習中の伊野部は士気が高かった。だが試合前などはそういう伊野部を見ることもあったからあまり気にはならなかった。だがこの返答一つでその意味を理解した。
「試合に出られるだけの人数は集まったんか?」
「はい」
最低六人。伊野部を除いて五人、新たに人員が必要となる。それが集まったと、自身を持っての返答だ。
「それで、誰や?」
階段を上がって職員室のある二階へ。伊野部の話を聞きながら職員室の前にたどり着くと、そこには十名ほど生徒が待っていた。
「このメンバーで、男子バレー部として試合に出させてください」
おそらく練習が終わった後、施錠した鍵を職員室に返しに来ることを見越してここで待っていたのだろう。
「ほぉ……なかなか、おもろいメンバーやな」
集まったメンバーの顔を一人一人見ていく。野球部から神田、村山、中野、柴田、椎名、時任。陸上部から近藤、清水、芹沢、五間、日暮。授業で見つけたバレーのセンスがあって上手いメンバーばかりだった。
「お前ら、野球部や陸上部は辞めるんか?」
「いや、辞めずにバレーもやります」
「辞めずに、か」
予想はしていた。野球部や陸上部である程度の地位を築いている生徒達が、活躍できるかどうかわからないバレー部へ完全に移籍してくれるとは考えにくい。だからこそ掛け持ちの助っ人という形で、なんとか試合に出られる人数を集める。それができれば上出来という考えだった。それが目的でわざわざリストに載せたメンバーの中でも、上位に位置する数名へ吹き込んだのだ。
上手くいくかどうかはわからなかったが、少なくとも生徒達は自らの考えと決断でバレー部に力を貸してくれることになったのだ。
「そうか、それやったら練習は女子の全体練習が終わった後になるな」
野球部は野球の練習が終わった後に、陸上部は陸上部の練習が終わった後に、体育館に集合して時間の許す限りバレーの練習をする。そういう形を取らざるを得ないのはいたしかたない。
「先に言うとくけど、お前ら相当しんどいぞ」
今まで通りのクラブ活動をしながら、バレー部の活動を上乗せするのだ。しかもバレーに慣れていない素人の面々だ。心身共に負担は相当重い。
「それでもやります」
神田が言い切った。集まった他のメンバーも力強く頷く。
「そうか、わかった」
そこまでやる気があるのであれば、もう止める理由はない。集まったメンバーはみんな伊野部のためを思って集まったのだから、その意志を最大限サポートしてやるのがバレー部顧問としての役割だ。
「それやったらまずは練習着とシューズやな」
「それならもうあります」
「はぁ?」
助っ人メンバーが鞄から真新しい靴と練習着を取り出す。まだ値札が外れていないものや袋に入ったままの物を出す者もいた。
「昨日休みだったので、みんなで買いに行きました」
口々に「誕生日のお祝いを前借りしちまったよ」や「小遣い何ヶ月分前借りしたかな」などを笑いながら話している。
「わかった。じゃあ明日から練習や。自分らのクラブが終わったら体育館に来い」
助っ人十一名が揃って「はいっ!」と返事をした。気持ちのこもった良い返事だ。素人集団ではあるが運動能力は高いメンバーが揃っている。士気の高さも相まって、先が楽しみなチームだ。
「伊野部、こいつらの心意気、無駄にせんようにお前が一番頑張らなあかんぞ。ええか?」
「はい」
「なら、続きは明日や。今日は帰って休んで明日に備えろ」
まるでバレー部が結成されてずいぶん経っているかのように、全員が揃って返事をして頭を下げた。
先が楽しみなメンバーが揃った。それは非常に喜ばしい。しかし掛け持ちで助っ人であるという重荷に今は気付かなくても、いずれその壁にぶつかることになるだろう。必ずしも子供の意志と大人の事情の利害が一致するとは限らないのだから。だがその時にはできるだけのことはしてやるつもりだ。それがこうなる可能性をわかった上で動いた大人としての責任だから。
~雪村聡美(海港中学二年・バレーボール部キャプテン)~
練習の最後はいつもサーブ練習をする。そのサーブ練習を終えてボールを集め、クールダウンを始めようかという頃だった。五人ほど、男子生徒が体育館に入ってきた。同級生の陸上部の面々だ。
それからしばらくしてクールダウンが終わった頃、次は男子生徒が六人。今度は同級生の野球部の面々だ。
「ネットはそのままでええからな」
普段は練習が終わったらネットは片付けるか、ネットを緩めておいておくかのどちらかだ。しかし今日は何故かネットは張ったままでいいと言われた。間違いなく集まったあの十一人の男子生徒が理由だろう。
「練習相手や手伝いはいらないんですか?」
神田が以前色々と質問をしてきたことを思いだし、集まった面々が伊野部と一緒に試合に出るメンバーだということはすぐにわかった。だからこそ男子の練習に人手は必要かどうかを聞いた。鬼の玉座に腰掛けたまま、毛利先生は首を横に振った。
「いらん。まだ手助けがいる段階やないからな」
言われてみればそうだ。集まった面々のバレーボール歴は体育の授業程度。チーム練習や団体練習の前に、個人の基本的な技術を身につけなくてはならない。
「相手が必要になったら頼むかもわからんな」
「わかりました」
相手が必要になる時とは、サーブレシーブやパスなど、バレーボールを行うのに必要最低限のスキルが身についた後のことだ。おそらく今日練習をしてもリフティングやパスなどのボールの扱いとサーブ練習くらいだろう。
毛利先生に一礼し。そして女子のメンバー全員に片付けはしなくていいから着替えるように指示を出した。質問してくる部員には男子バレー部の練習があるから、とだけ簡単に伝えておいた。
女子が着替えに入る頃には、男子の面々の鞄は体育館の隅っこに並べて置かれていた。もう着替えが済んでいたのだ。真新しい練習着とシューズが初々しく、それでいてバレー部らしからぬウォーミングアップが少し笑えた。
野球部と陸上部がウォーミングアップのやり方から何故か話し合いを始め、それを伊野部が間に入って取り持っている。おかしな構図だが、全員が楽しそうな顔をしているので気にすることなく帰り支度を始めることにした。
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