《第十四章 明日にかけるギャンブラー③》
「では勇者殿、そちらへ」
スペードがポーカーテーブルの向かいの席に座るよう促す。
「ディーラー、カードを」
スペードがディーラーに命じると、カードシューからカードがくるくるとテーブル上を滑りながらふたりの手許に配られる。
♤モンスターポーカー♤
互いに5枚のカードで強さを競うメジャーなゲーム。
通常のポーカーに準ずるが、カードにはモンスターの絵が描かれており、強さが異なる。
カードが配られたプレーヤーは要らないカードを捨て新しいカードと交換し、手札を見て
1回のゲームが終わると捨てられたカードは山に戻される。
なお、ジョーカーはワイルドカード扱いとする。
カードの強さ
デーモン>ドラゴン>
例えばお互いツーペアが出た場合、ひとりがスライムと骸骨兵士のツーペア、片方がデーモンとドラゴンのツーペアの場合、後者の勝ちとなる。
なお、役は以下の順で強い。
ファイブカード 同じカード5枚(最強)
フォーカード 同じカード4枚
フルハウス スリーカードとツーペアのコンビ
スリーカード 同じカードが3枚
ツーペア 同じカードが2組(最弱)
ふたりにカードが5枚配られるとそれぞれ手札を確認する。
勇者の手札は骸骨兵士のワンペアが出来ていた。勇者は3枚捨て、新しいカードを手札に加える。すると、骸骨兵士のスリーカードが出来上がった。
よし!
スペードに悟られないよう幸運を噛みしめる。
「では、コールかフォールドの選択を」とディーラー。
「無論、私はコールだ」と2枚交換したスペードが当然のように言う。
「俺も」
コールと言おうする時、勇者がぴたりと動きを止める。それは魔物や魔王討伐の際に鍛えられた危機感と言うべきものが働いていた。
「……フォールドだ」
「ほぅ……勝負勘がおありのようですね」
スペードが手札をさらす。スリーカードだ。
だが、同じスリーカードでもドラゴンのスリーカードだ。
「危なかっただ……! あのまま勝負に出てたら勇者様負けてただよ!」
残る若者が胸をなで下ろして言う。
「では第2ラウンドと行きましょう!」
スペードがカードを寄こせと催促する。
次に配られた勇者の手札はスライムのツーペアが来た。もちろん残りの3枚を捨て、スリーカードかフルハウスに望みを賭ける。フォーカードは望みが乏しい。
新しいカードを受け取ると、幸運にもデーモンとスライムによるフルハウスだ。
当然勇者はコールをかける。だが、勝負の機微を読むことにも長けているスペードはフォールドをかける。
テーブル上で一進一退の攻防が繰り広げられる。
互いに「フォールド」とゲームが流れ、新しくカードが配られる。
勇者が手札を確認すると、スライムのツーペアが出来ている。
残りの3枚はバラバラだ。どれを捨てるかが悩みどころである。
ちらりとスペードのほうを見ると、心なしか焦っているように見える。それもそのはずだ。なかなか勝負が決まらないのでは誰でもいらつくものだ。
…………よし!
勇者は3枚捨てて新しいカードを受け取る。
勝負に出るならここしかない……!
新しいカードをめくる指に力が入る。まるで欲しいカードを引き寄せんばかりに。
冒険の時も魔王との闘いもそうだった……運命は自ら切り拓くものだ!
カードをめくる。
よし……!
もちろん相手に悟られてはいけない。勇者は努めて冷静に宣言する。
「コールだ」
対するスペードは額に汗がつぅっと流れている。
「……コール」
「ではお二方、ショウダウンを」
ディーラーが手札を見せるように指示する。
「俺のカードは」
勇者が場に手札をさらす。
「スライムのフォーカードだ!」
単体なら弱いが、束になると強さを発揮するスライムの4枚のカードが並ぶ。
勝った……!
勇者も村の若者たちも勝利を確信していた。
「ふ、ふふふ……」スペードが笑う。
「な、なにがおかしい?」
さては負けて気が触れたのか?
スペードが首をゆるゆると振る。
「いや、これは失礼を。私のカードは……」
スペードのカードも場にさらされる。そのカードは……
デーモンのカードが4枚、ジョーカーが1枚。
つまり……
「
禍々しい顔をした4匹のデーモンとジョーカーが勇者を嘲笑うかのように並んでいた。
「なっ……」
4匹のスライムは敢えなくデーモンとジョーカーに喰われた。
「この勝負、私の勝ちですね」
敗北した勇者はそのままテーブルに突っ伏し、拳をわなわなと握りしめる。
「みんな、すまねぇ……」
村の若者たちは顔に絶望を滲ませていた。この先、返済するまで無償で働かされることになるのだろう。
勝った……! あの伝説の勇者に! これでますます私の名に箔がつく……!
スペードが勝利の余韻に浸っている時だ。出入口の扉の奥で騒がしい音がしたのは。
「なんだ!?」
勇者一行もスペードも扉のほうを見る。すると、重厚な扉がみしりと音を立てたかと思うとたちまちめきめきと音を立ててこじ開けられる。
そこから入ってきたのは予想外の人物――勇者の妻、シンシアであった。
妻の意外な出現に勇者は驚きを隠せない。
「な、なんでここに……」
さ
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