幕間 そこにいる。


  暗い昏い底にいる。


 気付けば、私はここに浮かんでいた。


 音も、光も、感覚も無いセカイ。


 それでも感情だけはあった。


 いつからここにいるんだろう?


 時間も分からない。


 ここにいたらいつか全てから忘れ去られてしまいそうな、そんな静寂だけが私を包み込んでいた。


 私はそこにいる。


 これは、どういう事なんだろう?


 体はどこへいってしまったのだろう?


 意識だけが果てしない暗闇の中に浮いていて、感覚は無いのに見ている物だけは確かだ。


 上を見上げる私の視界に光は映らない。


 きっと光すら届かない底なんだ。


 どんな闇よりも深い。


 ここには何も無く、あるのは私だけ。


 何が、どうして、こんな事に?


 どんな声も掻き消えて、まるで私を隠そうとしている様にも思える。


 記憶は曖昧で今の私には剥き出しの心しか存在しない。


 寂しい。感じる私の心は確かにここにある。


 怖い。感じてしまう私の心もここにある。


 助けて。願う私の心もそこにあった。


 思い出すのは白い霧ばかり。


 でも何故だろう。


 それがきっと、私を助けてくれると信じる事が出来た。


 こんなのが助けてくれるだなんて、おかしな話しだと思う。


 それでも私の心は白い霧を思うだけで、無限の時間も、暗闇も、恐怖も忘れられた。


 祈ろう。


 私もここで待っている。


 だから見つけて。


 祈ろう。


 そこから私を救い出してくれる事を。


 私は底にいる。だから、きっと──


 


 

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