猫の灯台

@kikikikiki

第一章 キャットフード

気がついたら居間にいた。

気温が暑く、蝉の声がする。

畳の匂いと風が通る、風通しの良い平屋の家だ。

久しぶりに帰ってきて、しばらく寝てたのかな。


体を起こし、キューと背伸びをした。

「さてと、昼の準備でもするか。」

居間の奥にある台所に向かった。


長く旅行に行っていたせいか家に帰ったら私服のまま寝ていたらしい。

荷物もそのまま置きっぱなしだ。


地方の大学に進学してから2年が経った。

都心の雰囲気は肌に合わないと思いその大学に進学した。

その大学から、かなり離れた田舎に今は根を下ろしている。


元々旅行というか自然が好きなせいで、田舎に家を借りている。

両親からは反対されたが、今の生活はかなり気に入っている。

自然がいっぱいで、空気が良くて、ご近所さんとも仲が良くなり、畑でとれた野菜を分けてくれたりとよくしてもらってる。

こんなことは、都会では味わえない事なのでしみじみとしている。



ピンポーンと呼び鈴が鳴った。

「はーい、」

すぐさま返事をして、火の元を消し玄関に向かった。


ガラガラと戸を開けたら、大学の女子友達 山北やまきた 夏芽なつめ が居た。

「こんにちは、田中君昨日まではありがとね。」

山北とは昨日までは一緒に旅行に行っていた、大学で旅行に行くと言ったら彼女も一緒に付いてきたのだ。


「おう、こっちもありがと、山北のおかげでいいことにも気が付けたし。」

「いい事?」

「あぁ、自然の良いところだよ。」

「そう、役に立ててよかった。」


「それで今日は、何の用で?」

「えっと、これ!」

彼女は手提げ袋をこちらに渡してきた。

「お母さんが田中君にお礼にって、」

「あぁ、ありがとう!」

中には、山北母が作ったと思われる漬物や糠漬けその他色々入っていた。


「あとこれ、」

彼女の手には、山菜の煮付けがあった。

「お昼まだだったらどうぞ、私が作ったんだよ。」

「ありがとう、どう、お昼食べてく?」

「私はもう食べたから大丈夫だよ。」

「そうか。」

「うん、じゃあそろそろ帰るね。」

「じゃあね、また旅行行きたかったら言って来いよ。」

「うん、じゃあね。」


彼女は帰っていった。

俺の左手には惣菜が入った手提げ袋、右手には山北手作りの山菜の煮付け。

足で戸を閉め、台所へ向かった。


惣菜を冷蔵庫に入れ、山北手作りの煮付けをお皿に出した。

鍋には茹でかけのそうめん。

鍋に火をかけそうめんを茹でなおす。


そうめんが茹で上がり、お湯をきって皿に移す。

冷水とめんつゆを混ぜ、居間のテーブルに置く。


座布団に座り、合掌し、

「いただきます。」


まず初めに、そうめんをちゅるんと食べた。

まぁ、普通のそうめんだ。

そして、山菜の煮付け、

うまい、薄めの味付けに山菜の歯ごたえ、醤油の味付けが際立っていて美味しい。


食事を楽しんでいると、縁側の方からにゃーにゃーという鳴き声が聞こえてきた。

「あっしまった、」

縁側の下を覗くと、猫が一匹居た。

この猫は家の庭に住み着いており、成り行きで餌を与えて飼っている。

ちなみに、みこ太という名前だ。


「ごめんよーみこ太、いますぐ水と餌あげるからなー。」

にゃーとみこ太は答えた。

旅行に行く前、大きい鍋2つに水と餌をあげたきりだったので、体調が気になる。


すぐさま水と餌を縁側の下に置いて様子を見た。

元気そうに餌を食べていたので少し安心した。


「さて、自分も食べますか。」

座布団に座りそうめんを掴んだ時、

ニャーニャーと威嚇しているみこ太の鳴き声が聞こえた。


なんだと思い立ち上がり、縁側付近に行ってみると。

「わっ、」

驚いて尻もちをついた。


そこには、キャミソールと短パン姿でキャットフードを食べている小五ぐらいの幼女が居た。

がりがりとキャットフードを食べながらすごい目つきでこちらを見てくる。

幼女をよく見ると、泥だらけ傷だらけであり、ここ等では全く見覚えのない幼女だった。


ひょいっと幼女は立ち上がり、凄い剣幕でこちらを見ている。

ダッ、と彼女は走り始め、そうめんと煮付けを鷲掴みして玄関から家を出ていった。


「え、えぇ」

まだ、戸惑いを隠しきれない事と、物事をなかなか整理できないでしばらくフリーズしていた。


俺は立ち上がり、そうめんと煮付けにラップをして冷蔵庫に入れてから彼女を追いかけた。


何だったんだ今の子、というより、彼女の風貌を見て心配した。

泥だらけの体に、やせ細ったような顔、縁側と畳には土の足跡、ぼさぼさになった髪の毛。

もしかして、すごくお腹空いてるんじゃないかな。それと、親御さんとか心配してるんじゃないかな。とか色々考えながら彼女を探した。


15分ほど探して、やっと見つけた。

幼女は小さな神社の前に立ち尽くしていた。


幼女はじっと祭壇に置いてある、お供え物の野菜を見ている。

その野菜に幼女が手を掛けたその時、


「コラ、何してんだ、」

自分が止めに入った。

「お兄さんには関係ないでしょ!私に関わらないでよ!」

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