ディーノ達の休日 −3−
初夏を迎える陽気を浴びて活気付くのは、白き王都の街並み。
「さぁみんな集まったね! ロムリアットの至宝を食しにいざ行かん!」
たくさんの人々の往来の中、授業のない日曜日に一人先導する形で五人の学生達が羽を伸ばしていた。
威勢のいい声を張り上げているのは、栗色の髪をポニーテールにまとめた空色の瞳が印象に残る小柄な少女が残りの四人に楽しげに話しながら後ろ向きで歩いている。
「今日のはすっごい一押しだからアウローラも楽しみにしててよね♪」
「シエルさん、あんまりはしゃぎすぎると……『あいたぁっ!』」
一番近くを歩いていた腰まで届く金髪が目立つ少女、アウローラが注意しようとした矢先に、シエルが案の定通行人にぶつかってしまっていた。
「ご、ごめんなさいーっ」
幸いぶつかった相手は、そこまでは怒っていなかったようで、気をつけなさいと注意されるだけで済んだ。
「少しは周り見ろよ」
気だるげな感想を送ったのは、五人の中では異彩を放つ黒い髪の少年。
他の四人が思い思いの明るめな色合いの私服に身を包んでいるのに対して、服までも黒い旅装束、獲物を射殺す獣のように鋭い紫の目と左頬の切り傷が目立つ眉間にシワの寄った面構えは、仮にシエルのぶつかった相手がゴロツキであったとしても裸足で逃げ出してしまいそうに思えるだろう。
「本日もディーノは安定っと、おっ! あの噴水の前に座ってる子可愛い!」
「あんたもね、バカルロ!!」
ディーノを茶化しつつ、往来から離れた広場でだれかを待っているであろう女性に声をかけようと意気揚々にスキップしだしたオレンジの髪の少年に向かって、シエルの飛び蹴りが入った。
「懲りないね、カルロ君は」
眼鏡をかけた大人しめな雰囲気の少年が、蹴り飛ばされたカルロを気遣いつつも、半分は呆れたような声で助け起こした。
「あまり真面目に付き合わなくていいぞ、フリオ」
カルロとシエルがいつもこんな調子だということがわかっているディーノが、フリオに助言しつつ先を急ぐ。
五人が着いたのは、ロムリアットの中でも特に大きなカフェテリアだった。
店の外にオープンスペースが設けられ、丸いテーブルが並び、日曜という稼ぎ時も相待って盛況のようだ。
「えーと……まだある!!」
『期間限定スペシャルフルーツパフェ、残り五つ』
行列に待たされることおよそ三十分、五人は外の席に案内されてテーブルを囲っていた。
シエルはメニューを頼んでからも、そわそわと楽しげに目当ての品がやってくるのを心待ちにしているようだった。
「で、なんでわざわざ呼びつけた?」
ディーノは仏頂面を崩さずにシエルへと問い質す。
「もちろんこのカフェに一押しがあるから、みんなで食べようと思って」
「それだけか?」
「それだけだよ♪」
なんの迷いもないシエルの返答にガクッと肩を落としながらもやがて、五つのパフェがテーブルに運ばれてきた。
レモンやオレンジ、マンゴーといった柑橘系のフルーツがふんだんに盛り込まれた色とりどりのそれは、これから到来する夏の明るさを表したかのような派手さを感じさせる代物だったが……。
「アウローラ、食えそうかこれ?」
ディーノは別の意味で気がかりなことが出てきていた。
彼女は以前、甘いものは苦手だと言っていた。
量はさほどではないものの、なかなかにボリュームのあるこのパフェを完食できるのか。
「大丈夫ですよ。あくまで控えているだけで食べられないわけじゃないです。それとも、心配してくれたんですか?」
アウローラはいたずらっぽくディーノに微笑みかけ、照れ臭くなったのかディーノは即座に目線を外す。
「残ったら食材が勿体ねぇだろ……」
だが、隣にいたカルロがその反応に対して、顔をにやけさせている。
「ふーん、つまり残ったら食べる気でいたってことか……間接キス狙ってた?」
「……ッ!!」
この一言には流石に動揺したのか、ディーノの鉄面皮が崩れてカルロの顔面に左拳のストレートが直撃していた。
カルロが起き上がるよりも早く、ディーノは自分の前にあるパフェをかっ込むように早く口へと運び始める。
フルーツやクリームの味などさっぱりわからないまま、カフェでの一時は過ぎ去っていった。
「まったく、バカルロは調子乗りすぎ」
右の頬がリンゴのように膨らんだカルロの襟首をひっぱりながら、五人はカフェテリアを後にして、学園への帰路についていた。
「でも、ディーノさんが一緒にきてくれたのは意外でした。『術の一つでも練習した方がマシだ』ってなりそうだと思ったのに」
アウローラが眉間にシワを寄せながら、ディーノの言動を真似ると、シエルもカルロも、フリオまでもがありそうだと納得して笑っていた。
「ただの気まぐれだ。大した意味はねぇよ」
(ディーくんだったら、もっと人当たり良く返せるんだろうな)
無難に返すディーノだったが、心中では別の考えがよぎる。
学園に来て早四ヶ月、そもそも師匠や家族以外の人間とまともに会話をした記憶がほとんどなく、比較的慣れてきた相手でも、つつがなく対応するのは難しいものだ。
「……ん?」
そんなことを考えていると、ディーノは往来の向こうに見覚えのある人影が目に入った。
「おい、あそこにいるのってクラスのやつじゃねーか?」
ディーノは目立たない程度に指をさして、アウローラたちに疑問を振る。
「あ、ほんとだ。あれイザベラちゃんだね」
紙袋の中に、缶詰を大量に入れて自分たちと同じように学園へと戻る途中なのだろうか?
「買い食いって感じでもないよね。なんであんなに買い込んでるんだろ?」
シエルの疑問はもっともだった。
特に食料に困るような自体でもないはずだというのに、やけに周囲を警戒した様子が見える。
「気にしても仕方ねぇだろ」
特別親しい間柄でもない彼女に対して、ディーノはこの時まだ気にも留めてはいなかった。
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