学園生活の始まり −3−
一時限目の
どこまで
その時は、こんなものかと思っていた自分を
「ここまでが一学期のおさらいですね。ロンドゴミア帝国の
今行われているのは歴史の授業だ。
「
そして、もう一つの原因が隣に座る金髪の女子。
『わからないことがありましたら、なんでも聞いて下さいね』
一時限目の始まりにそう言われたが、先ほど名前を知ったばかりの相手にあけっぴろげになんでも聞けるかと言われればあまり
「はい! 当時の魔術はまだ技術的に
「その通りです。さすがはアウローラさんですね」
アウローラは
なにげない
優等生だからではなく、本当に学ぶことが好きだからこそできるような回答を発言する彼女は楽しそうだ。
(何が楽しいんだ……)
アウローラとは
生まれてもいないほどの昔に、誰が何をしていようとも、今生きている自分たちに何の関係がある?
結局、王族だの貴族だのが死んだ後まで自分たちの
「歴史はお嫌いですか?」
そんな様子を
「術の一つも練習した方がマシだ」
ディーノには、これが自分を高めることに
ただ
「お前こそ、どうしてそこまで楽しいんだ?」
「わたしたちの住んでいるこの国が、どんなできごとを
ディーノは彼女の言葉に対し、そう思わずにはいられなかった。
「教科書に
教科書をざっと見れば、何ページかに一度は戦争が書かれ、そしていくつもの国家が生まれては
永遠に
「そんな言い方!」
アウローラは思わず声を荒げていた。
教室中の視線が、二人に向いているのに気付いた時はもう遅い。
「す、すみません皆さん!」
クラスメイトたちが、信じられないと言わんばかりの表情を向けられて、アウローラは慌てて立ち上がり、周囲に頭を下げた。
座り直したアウローラが、
次の授業が始まるまで、教室のどよめきがおさまることはなかった。
「二学期では応用に入る前に、一学期のおさらいから始めていきましょう。基本の六つのマナからです」
三限目の授業は《マナ学》という科目で、教師はアンジェラだった。
魔術を扱うためには、この世界に
世界に存在するあらゆる
大きく分けて『地』『水』『火』『風』『光』『闇』の六つで
しかし、中には
そのためにも、マナに対する理解は
歴史と違って、自分自身の
「この世界で、現在までに
考え事をしているのが目に入ったのか、アンジェラは自分を指名してきた。
「……《魔獣》と《幻獣》まではわかる。三つ目が分からない」
ディーノはわかる範囲内の答えを口にする。
「意外ね……。でも、ちょうど良いおさらいになるか」
アンジェラは少し怪訝な顔をしたが、説明を始めた。
「強いマナを持つ魔獣と、その
アンジェラの説明に対して、ディーノは要領を得なかった。
「話の腰を折ってすまないが、質問がある」
「他に何かわからないことがあるのかな? なんでも言ってみて。授業の基本はわからないことをわかるようにすることなんだから」
挙手したディーノに、アンジェラは笑顔で発言を促した。
「アルマってなんだ? 製霊と言うのも初めて聞いた」
『えぇっ!?』
真顔で聞いたディーノに、クラス全員が驚きの声をあげた。
「おいおい、聞いたか今の?」
「見かけによらず
「ヴィオレ先生の弟子が、アルマも製霊も知らない……?」
ある者は笑いながら声をあげ、ある者は
「はいみんな、そこまで。どんなに
アンジェラは、シャツの胸ポケットから一枚のカードを取り出した。
「出でよ、我がアルマ!」
彼女の発声でカードは光を発しながら、一本の杖に変化した。
長さは一メートル前後、銀色の金属で作られた煌びやかなもので、先端には緑色の宝石がはめ込まれている。
「これが私のアルマよ。魔術を使うために必要な道具の一つ。そして、生徒のみんなが使うアルマに用いられている宝石は製霊のものなの。製霊は、魔術士がマナから作り上げた《人工の魔獣》と言ったところだけど、まだ納得いかない?」
「どうして、そんな回りくどい真似をしなきゃならない? 宝石は体に埋め込むんじゃないのか?」
その発言で、今度はクラスメイトたちが一斉に疑問を抱く番だった。
逆にアンジェラは、合点がいったという風だ。
「ヴィオレ先生に教わればそうなるのかもね。けど、誰もがあの人やディーノ君のようになれるわけでもないのよ? その回りくどいマネは、魔術士に危険が及ばないために必要なものだと、これから知ってほしいわ」
終業の鐘が近づいたのを
三時限目が終わってからの休憩時間になると、クラスの面々は一斉に席を立って筆記用具をまとめて教室から次々と出て行った。
隣のアウローラも例外ではない。
「何をしている?」
「次の授業は別の教室で受けるんです。ついてきてください」
先ほどの一件で、自分のことなど見限ってしまうだろうとディーノは思っていたし、どうと言うことはなかった。
しかし、
まして担任であるアンジェラの目が近くにあるかもしれない今、
おそらく、外からの
言われるがまま、彼女について行き、
並べられた机の列は同じだが、その前の空間は教卓の代わりにピアノが鎮座し、黒板には
四時限目の授業は音楽ということだ。
歌や楽器が戦うために役立つと思えないのだから、ディーノは
「このクラスは新しい子が入ったのでしたね。それなら今月の課題は歌にしましょうか」
音楽教師は、ディーノの編入に合わせて
「それじゃあ、五十二ページの『月夜に踊る妖精』あたりがいいかな。二十年くらい前の
クラス全員がページを開いている間に、音楽教師はピアノで
曲調は
夜とあるだけに静けさを思わせる調べから、曲が進んでいくと楽しげにくるくると音が増えていく。
そして、再び静かな曲調に戻るが、明るい音で
「みんなが生まれる前の曲なんだけど、誰か歌えそうな人はいる?」
教師が問いかけると、一人だけ静かに手を挙げる。
「私、やってみたいです。いいですか?」
「さ、さすがは委員長ね……。まぁほどほどに頑張って」
立ち上がるアウローラを見て、心なしか教師の表情は
しかし、
アウローラが、教科書を見ながらリズムを刻み始めると、周りのクラスメイトたちはみんな、何かに
数秒後、ディーノはその意味を知ることになる。
『満月の見下ろす森の中♪ 優しい光に連れられて♪』
音楽室に
教会で流れる
ピアノの
おとぎ話の人魚のように、この歌声は船さえも
船乗りも周りの生き物たちも、
歌が終わるまでの数分間が、ディーノを含むクラスメイトたちにとっては数十分にも数時間にも感じる悪夢であった。
『これはひどい。人魚も顔負けだ』
ディーノの頭の中で、他に聞く者のいない感想が飛び出した。
アウローラの歌声は、ヴォルゴーレをも戦慄させる脅威であったようだ。
「よ、よくできました。では、次の授業から練習を始めていきましょうね……」
耳を
クラスの様子を気にとめる事もなく、アウローラは
ディーノにとって初めての授業は、山あり谷ありで進んでいくのだった。
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