後ろの正面だあれ?

 カオルが陰陽石を回した途端、僕の身体からだは六芒星魔法陣の南西へと滑るように引っ張られた。

 そこには光り輝く紅い鳥居があって、僕はとっさに鳥居の柱につかまった。

 鳥居の先には漆黒の空間が広がっていて、恐怖のあまり僕は叫んだ。


「カオル、助けてくれ!」


 風守カオルは漆黒の直刀を右手に携えて僕に近づいてくる。

 彼女は大地にしっかり足をつけていて、僕のように全く引っ張られてはいなかった。

  

「夜見君、残念ながらそれはできないわ」


 カオルは冷酷に言い放った。


「どうして?」


 僕は薄々気づきながらも訳を訊いた。


「かごめ歌の歌詞はある道術士が残した<封印呪法>の術式だったのよ。たぶん、明治時代に生きていた私の先祖か先輩か。そして、その術式は『丑年の丑寅の時刻に六芒星の中の鳥居をくぐって、六芒星魔法陣の丑寅、鬼門の東北の方向にある陰陽石を回せば、冥界の門を開いて成仏できない魂を封印できるものなの」


「―――そうか。僕はもう死んでたのか」


 ようやく分かった。


「そう。夜見君は小学生の修学旅行の時、バスの事故で亡くなってるのよ」


「君が供養してたのは僕だったのか」


「そうよ」


「後ろの正面は僕だったのか。笑っちゃうな」


「気にすることはないわ。自分が死んだことに気づかない霊はたくさんいるわ。気づいて、納得さえすれば成仏できるし、天界に昇ることもできるわ。それに、このが導いてくれるわ」 


 カオルは肩に乗ってる霊鳥の天ちゃんが飛んできて、僕の肩に乗り移った。


「ありがとう。じゃ、さよならだね」


「そうね、じゃ、あっちでも元気でね」


 カオルは左手でバイバイをした。

 僕は鳥居の柱から手を放して、闇の中に身を躍らせた。

 最後の瞬間、カオルの顔に涙が一筋光って見えた。

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