夜明けの晩に

「夜見君も大体、分かってると思うけど、『夜明けの晩』というのは昔の十二支を使った時刻によれば、丑の刻の午前二時から寅の刻の午前四時ぐらいまでの間になるわ。時間帯としては午前一時から五時になる。幽霊の出るいわゆる『丑三つ時』は丑の刻である午前一時から三時を四つに分けて、三十分刻みで考えると、午前二時から二時半になるわ」


 カオルはそう説明しながら地面に円を描き、二十四時間を二時間ごとに十二の干支で区分して、木の枝で指し示した。

 わかりやすい。


「『夜明けの晩』が特定の時刻を表すと考えると混乱するけど、晩から夜明けという時間帯を表すと解釈すれば、全く矛盾はなくなる」


 僕は自分の考えをカオルにぶつけてみた。


「正解。『籠の中の鳥』は『六芒星の中の鳥居』と解釈というか、そのままだったけど、その時間帯にその鳥居をくくれば、異界への門が開かれる」


 カオルが今までの出来事を整理する。


「じゃ、陰陽石の意味は?」


 そこはちょっと分からなかった。

 陰陽五行に通じる道術士のカオルならではの解釈があるはずだ。


「陰陽石の図案は白黒の勾玉が陰陽を表していて『陰陽太極図いんようたいきょくず』と呼ばれているわ。太極拳のマークとかね。中国ではこれを魚の形に見立てて『陰陽魚』ともいう。白い勾玉の中に黒い点あり、黒い勾玉の中に白い点があるけど、これは陰の中の陽、陽の中の陰を表していて、陰が極まれば陽になり、陽が極まれば陰になると言われているわ。太陽や月が満ちては欠ける季節の移り変わりを、そういう風に表現したんでしょうね」


「だから?」


 ピンとこない。


「分からないの?」


「分からない」


「答えを言ってるのに」


「え?」


「『鶴と亀がべった』と解釈すると、鶴は空を飛ぶから『天』の象徴、亀は海を泳ぐから『地』の象徴になるよね?」


「そうか! 陰陽五行説では『天』が陽で『地』は陰になるから、陰陽石か!」


 流石の勘の鈍い僕でもようやく気づいた。


「……なんだけど、かごめ歌の後半部分の『鶴と亀がべった 後ろの正面だあれ?』は江戸時代中期までは『つるつるつっぺぇつた。なべのなべのそこぬけ。

そこぬいてーたーァもれ』だったのよね」


「どういうこと?」


 まさかのどんでん返しかい。

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