いついつ出やる

 深夜二時ちょっと前に、風守カオルは校門に現れた。

 肩には霊鳥だという「天ちゃん」という文鳥が乗っていた。

 全く逃げる気配はなく、カオルによくなついていた。


「さて、行きますか」


 僕たちは木造の校舎の階段を上がった。

 階段がきしむ音と足音だけが校舎に響いていく。


 二階に着くと左手に折れて、廊下を歩く。

 右手に窓があり、満月の光が斜めに廊下に差し込んでいた。

 左を見ると教室があり、机とイスが整然と並べられている。

 しばらく、同じような風景が続く。

 

 二年五組。

 その部屋を観た僕は唖然とした。

 何故か机とイスはなく、廊下からの月明かりに紅い鳥居が浮かび上がっていた。

 鳥居の周囲の教室の床が黄金色の光を放ち、六芒星が浮かび上がる。

 黄金色の六芒星が魔法陣のように紅い鳥居を取り囲んでいる。


(六芒星の中の鳥居?)


 僕はかごめ歌を思い出していた。

 かごめかごめを籠の目と解釈して、六芒星ではないかという説がある。


「夜見君、行ってみようか」


「そうだな」


 ここはこの怪異に飛び込んでみるしかない。

 何もないかもしれないが。

 

 僕とカオルは教室に入って六芒星の魔法陣の前で躊躇する。

 魔法陣から息が詰まるような圧力が感じられ、自然に身体がすくんだ。

 が、意を決して踏み込む。

 意外にも何も起こらなかった。

 

 ふたりは紅い鳥居に近づいていった。

 鳥居に足をかけた瞬間、重力の感覚が狂った。

 眩暈めまいがして意識が遠のいた。





      †

 

 



 目が覚めたら、周囲は深い森で神社の境内のような場所だった。

 地面に巨大な六芒星の魔法陣が描かれている。

 その中心に僕がいた。

 カオルはすでに目覚めていて、魔法陣の丑寅うしとらの方角、つまり北東の方向で何かを探していた。


「夜見君、あったわ」

 

 カオルがしゃがみこんで石のような物を撫でている。


「何が?」


「陰陽石よ。これで夜明けの晩と鶴と亀の謎が解けたわ。私の推理は今の所、当ってるわ」


「どういうこと?」


「これを見てみて」


 僕はカオルが撫でている陰陽石なるものを見た。

 それは陰陽五行でよく見る紋様のひとつで、勾玉のような形の白と黒の図形が円の中で向き合ったものだった。


「これは『陰陽太極図』というやつだよね?」


「そう」


「カオルの推理ではこれは何になるの?」


「まずは夜明けの晩の解釈から説明するわ」


 それについては何となく予想はついているが、おとなしくカオルの話を聞くことにした。


 

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