ここに居るから

樹海が広がる。

ここは、いったいどこだ?

夢の世界でも、ゲームの世界でもない。

この地球上の、どこかにある光景のようだ。

昼間なのに、光は遮られ、薄暗く、寂しい世界だ。

この果てしない世界は、どこまで続いているのだろう。

樹海の入口では、時折、自殺願望を持った人間たちが非業の死を遂げている。

なぜ、人生最後の場所に、ここを選んだのだろうか?

わざわざここまで来なくても、死ぬ場所なんて世の中にあふれているのに……。

樹海の先にはいったい何があるのだろう?

聞いた話では、ここから先、遥か彼方まで樹海が続いているらしい。

その先には、濁った川と毒蛇の生息する山があるらしい

さらに進むと、底の見えない谷と狂った獣たちの世界があるらしい。

さらに進むと、灼熱の大地と極寒のブリザードの世界があるらしい。

さらに進むと、光と音の届かない暗黒の世界があるらしい。

この世の果て……、そんな漆黒の闇の中に、古ぼけた井戸が1つだけあった。

井戸の底は数千メートルも下のようだ。

何だろう?かすかな音が聞こえる。

365日の、あの日の、ある時間の、わずか1秒だけ聞こえる。

真っ暗な井戸の底で……。

究極の孤独に精神を蝕まれたボロボロの人間がいた。

擦れた声で何かを叫んでいるようだ。

私は……。

私は……。

ここに居るから。

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