千六十五話 喧嘩しに来たわけではない

「今回は特に絡まずドラゴニックバレーに向かおうと思ってるけど……なんだ、気になるのか?」


トロールは確かにモンスターの中でも非常に力が優れた個体。


素早さは通常種のオーガに劣るものの、ランクの差もあって大抵のオーガよりも戦闘力が高い。

しかし、シャーマンの上位種となれば……後衛職寄りの身体能力になると考えられる。


「面白そうな個体ではあるからな」


「まぁそれはそうかもしれないけど…………どうしようか」


ソウスケとしては、あまり乗り気にならない。


以前、おそらくドラゴニックバレーから逃げ出したであろうヴェノレイクを巡り、とある比較的若いパーティーと対立することになった。


並みのパーティーが相手であれば、対立したところでという話ではあるのだが、ソウスケはグレンゼブル帝国に対して喧嘩を売りたい訳ではないため……同業者たちとの衝突を減らせるのであれば、それが良いと思っている。


「ソウスケさんは、早くドラゴニックバレーに向かいたいのか?」


「元々それが目的でグレンゼブル帝国に来たからな。個人的にはドラゴニックバレーを目指したいんだが……トロールのシャーマン、か……」


ソウスケは改めてミレアナが拾った内容を思い出す。


(姿が確認されてるって事は、突然変異で人間と関わらず争わず生きよう!! って決意した個体とかではないんだろ? なら、被害が出るのは確実、か。それにシャーマン……シャーマンかぁ…………)


ソウスケの中で、勝手にメイジという上位種に進化した個体よりも、シャーマンという上位種に進化した個体の方が恐ろしいというイメージがあった。


「ソウスケさん、上位種であれば他のトロール……もしくは、似たタイプのモンスターを従える可能性もあります」


「他のトロールを従えてたらそれはなぁ…………でも、ここら辺ってそんなにほいほいBランクモンスターが現れる場所なのか?」


グレンゼブル帝国に入国する前、ソウスケは基本的にドラゴニックバレー周辺の街しか調べていなかった。


その為、現在ほんの数日だけ滞在する街の周辺事情など、全く知らない。


「それは解りませんが、可能性としては否定出来ないかと」


「可能性……それを聞くと、悩ましく思ってしまうな」


一般的に、Bランクモンスターという存在は非常に驚異的な存在。


森の中で永遠に暮らしてくれるのであれまだしも、何を拍子に人里に降りてきて暴れ回るか解らない。

そんなBランクモンスターが他のBランクモンスター、CランクやDランクモンスターを引き連れて暴れ回れば……更に大きな被害が出ることは目に見えている。


(…………とりあえず、訊いてみるか)


ソウスケたちは決して正義のヒーロー、騎士道精神あふれる上位騎士などではない。

ただ、後から大きな被害が出たといった話を聞くと……思うところを感じてしまう。



次の、ソウスケとミレアナはギルドを訪れ、噂のトロールシャーマンについて、ギルドはどう動くつもりなのかと尋ねた。


もしそれなりの数の優秀な冒険者たちが参加し、討伐出来る可能性が高いのであれば、参加しない。


安全に討伐出来るか否か難しいところではあるが、参加する冒険者たちが自分たちに対して不満を抱いているのであれば、参加しない。


そもそも戦力が中々揃っていないのが現状であれば、参加しよう……と、ソウスケは考えていた。


「実は、他の街のある冒険者たちに依頼を出したんですよ」


「へぇ~~~、そうなんですね」


街を拠点にしている冒険者、現在ソウスケたちを除く滞在している冒険者たちだけでは心もとないと感じ、ギルドは他の街にいる腕の立つ冒険者たちに依頼を出していた。


(既に対策は出してたのか。それなら、わざわざ俺たちがどうこうする必要はなさそうだな)


翌日にはその冒険者たちが訪れたと耳にし、完全に自分たちの役目はないと感じた。

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