千五十二話 早過ぎではあるが
「ふんっ!! やっ!!! せやッ!!!」
ソウスケがヌレールアの指導を始めてから、十日が過ぎた。
(うんうん、まだ一流とは言えないんだろうけど、確実に扱い慣れてきてるな)
ヌレールアが振るう大剣の軌道、大剣の重さに振り回されない筋肉。
それら全ての成長を感じていた。
「っと。今のは上手いですね」
「あ、あっさり躱しながら、言われても!!」
成長具合に感心して油断している隙に、ヌレールアは大剣に纏っていた魔力の形を変化し、あと一歩のところまで迫った。
「俺もそれなりに、多くの戦いを越えてきたので」
油断もあった。
隙を突かれたのは間違いなかったが、それでも見て反応出来る。
改めて自分を指導してくれている人物の凄さを体感しながらも……ヌレールアは諦めず大剣を振るい、振るい、振るい続ける。
「では、そろそろいきますよ」
わざわざそう告げる必要はないが、ソウスケはわざとこれから攻撃を行うと告げた。
「っ! くっ、い゛!?」
「防ぎ方は良いですね。ですが、攻撃を防いでばかりでは、戦いに勝てませんよ」
「うっ!! ぐっ、っ、ハッ!!!」
「そうです。どんな攻撃にも、タイミングがあります」
ソウスケはギリギリ……の速さではなく、ある程度ヌレールアが反応出来る速さでロングソードを振るう。
勿論、斬撃の威力はそこまで甘くない。
受け方を間違えればロングソードの斬撃が大剣のガードを押すという、不思議な光景になってしまうが、防御の仕方も大事だと……特にミレアナから強く教えられた。
ヌレールアが憧れたのはソウスケの豪快な倒し方だが、彼は盲信者ではなく、素直に受けという一見地味な訓練にも精を出していた。
「では、今日はこれまでにしましょう」
「あ、ありがとう、ございました」
時間は五時を過ぎており、そろそろ夕食の時間。
ソウスケたちが今日はどんな夕食を食べようとかと考えていると、汗まみれのヌレールアが直ぐに屋敷に戻らず声を掛ける。
「あの、ソウスケ先生。少し、お時間良いですか」
「模擬戦の振り返りですか?」
「い、いえ。そうじゃなくてですね……ソウスケ先生は、これからどう生きていくつもりなんですか」
これからどう生きていくのか。
中々答えるのに時間が掛かりそうな質問に対し、ソウスケは速攻で答えた。
「俺はこれから、この世界を冒険出来るだけ冒険し続けますね」
「な、なるほど……そう、ですよね。ソウスケ先生は冒険者ですもんね」
「えぇ、そうですよ。ヌレールア様……もしかして、今後の自分の人生に……変ってからの人生を悩んでるのですか?」
「っ……はは、ソウスケ先生は凄いですね。隠してたつもりはないんですけど」
決して、ソウスケに実は教育者としての素質があったから見抜けた、という訳ではない。
人に何かを尋ねるという事は、尋ねた内容と同じ事に関して悩んでいるのではないか、という単純な推理である。
「僕には、見返したい奴らが居ます。でも、これから頑張って頑張って……頑張り続けて、その目的を達成した後のイメージが全く湧かないというか」
生徒の悩み事に関して、ソウスケ先生は……口には出さなかった。
しかし、心の中でハッキリと口にしてしまう。
(そ、その考えは……悩むのが早過ぎるのでは?)
後数年は先の話である。
今……まだ見返す為に訓練を始めて十日程しか経っていない。
そんな事を考えてる暇はないですよ、と言いたいところだが、ソウスケは決して鬼教師ではない。
ただ、ザ・ベテラン教師でもないため、適当なそれらしい内容しか答えられない。
「そういった事を考えるのも、人生というものではないでしょうか。ヌレールア様の人生は、ヌレールア様のものです。私がアドバイスすることは出来ますが、ヌレールア様が決断するからこそ、その進む道に意味があります。だから、それに関しては存分に悩んでください。焦って答えを出す必要はありませんので」
「は、はい。分かりました」
何となく……何となくではあるが納得したヌレールア。
その横で、護衛の騎士は何度目になるか分からない、ソウスケの中身はいったい? に関して考え始めた。
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