七百十九話 それだけで構わない

簡単に纏めると、騎士たちは自分たちが仕える家の次女が病に侵され、それを治すためには溶岩竜の肝が必要。

なので、溶岩竜が現れるという情報がある、学術都市の上級者向けダンジョンに赴き、必死で溶岩竜を探している。


「まだ時間はあるが、悠長なことは言ってられない。少しでも早く持って帰らなければならない」


仮に溶岩竜の肝を手に入れたとしても、屋敷まで持って帰り、錬金術師がその薬を造る時間が必要だ。

それに、万が一急激に病症が悪化してしまう可能性もゼロではない。


だから騎士たちは自分たちが無理をしていると解っていても、無理しなければならない。


「……話は分かりました。そうですね、仮にダンテさん。あなたが俺たち雇うのであれば、溶岩竜の肝以外の素材をくれませんか」


「あぁ、勿論それは構わない」


「そうですか。では、溶岩竜の討伐を手伝いましょう」


「……? 待ってくれ、それだけで良いのか?」


「それだけとは?」


ソウスケ的には、溶岩竜の素材だけ手に入れば良かった。


肝も錬金術の素材としては有能だが、このダンジョンを探索していれば二度、三度遭遇することは不可能ではない。


「いや、君達は冒険者なのだろう。であれば、素材以外の報酬がいると思うのだが」


一団のリーダーであるダンテの考えは間違っていない。

確かに溶岩竜の素材はどれも高価で貴重。


売れば大金が手に入るが、当然それ以外の使い道もある。

という訳で、普通に考えて溶岩竜の素材以外の報酬が必要になるが……ソウスケは本気でそれ以外は必要ないと思ってた。


「ん~~……だったら、ダンテさんが仕える家の当主さんに、俺が困った時に助けるように伝えてもらっても良いですか」


「娘の恩人となる方であれば、勿論了承するだろうが……そ、それで良いのか?」


ダンテが仕える貴族は伯爵家の当主なので、貴族としての地位はそれなりに高い。

それはそれで有難い報酬だが……それでもダンテだけではなく、他の騎士や魔法使いたちもそれで良いのかと思ってしまう。


「それでお願いします。俺たち、別にお金には困ってないんで」


「そうなのか」


人生で一度は言ってみたいセリフである「別に金に困ってない」をリアルで口にする子供を目の前にし、思わずダンテたちはカッコ良いと思ってしまった。


「……すまない、本当に助かる」


「気にしないでください。それじゃ……まず、疲れを癒しましょうか」


彼らに時間がないのは解っている。

しかし、このまま溶岩竜の探索を行ったとしても、限界を越えて確実にぶっ倒れてしまう。


まさかのランナーズハイ状態になるかもしれないが……それはそれで危険な状態。


なので、まずソウスケはダンテたちに栄養満点の料理を用意した。


「どうぞ、食べてください。おかわりあるんで遠慮しないでくださいね」


数十分後、ダンテたちの目の前には大量の料理が並んでいた。

思わずよだれが垂れてしまいそうになる肉料理だけではなく、温かいスープに瑞々しい野菜もある。


騎士たちは思う存分料理に食いつき、中には涙を流しながら料理を食べる者もいた。


病に侵される次女の為、攻略度が高いダンジョンで目的のモンスターを倒して肝を手に入れる。

そんなこと……苦ではないと思っていたが、それでも心のどこかで辛いと思っていた部分はあった。


その思いが溢れ出し、涙が止まらない……ただ、ご飯は食べ続ける。


既にセーフティーポイントには到着しているので、周囲を警戒する必要もない。


「それじゃ、次は風呂ですね」


全員が満腹になるまで料理を食べ、ソウスケとミレアナが作った料理は全てなくなった。


そしてソウスケは頭の上にはてなマークを浮かべるダンテたちに構わず、せっせと除き防止の壁と簡易の風呂を作った。


「一応見張りは俺たちがやっておくんで、安心してください!!」

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