七百十二話 敵にとってもエグい

「遺跡、とは言っても結構ボロボロだな」


襲い掛かって来るモンスターを丁寧に倒しながら、目的の遺跡に到着。


遺跡といえば遺跡に見えるが、とても立派な遺跡とは言い難い。


「モンスターや冒険者の戦闘の影響でボロボロになった、って訳じゃないんだよな」


「はい、そうです。元々ボロボロで……勿論モンスターと冒険者との戦いでボロボロになりますが、それによる破損は修復されます」


「そっか……まっ、何はともあれ楽しそうな場所であることに変わりはないか」


飄々と雰囲気で仲へと入る三人。


(……建物は新しく……元に戻った? そういった見た目だが、中には匂いがそれなりに多いな)


ザハークはモンスターに共通する独特な匂いを感じ取り、無意識に……小さく口角を上げた。

ただ、二人を驚かすわけにはいかないので、しっかり戦意は抑えている。


「うわぁ……ヤバいな」


罠感知のスキルも優れているソウスケは、直ぐに床に仕掛けられているトラップの存在を見抜く。

そして好奇心に駆られ、いったいどんなトラップがあるのかを視ると、思わず言葉が出てしまうほど厄介な内容が多かった。


(ただの落とし穴じゃなくて、落下するまで重力が圧し掛かる……一番下に落下しても、数分はそれが止まらない……内容知らなかったら、初見じゃ絶対対応できないだろ)


他にも壁から追尾式の毒矢が飛んでくるなど、上層や中層では見られないトラップが盛りだくさん。


勿論、先頭はソウスケなのでその後ろを歩くミレアナやザハークがそれらの罠に引っ掛かることはない。


「どうかしましたか、ソウスケさん」


「いや、罠の内容がちょっとえぐかったから驚いた」


「下層ですからね。当然トラップのレベルも上がるでしょうし……以前みたいな真似はできませんね」


「だな。これはちょっと戦う時も気を付けないとな」


ダンジョンに存在するモンスターにとって、冒険者のそういった事情は関係無い。


自分がトラップに引っ掛かろうが、引っ掛かるまいが関係無しに襲い掛かって来る。

その猛攻で冒険者が追い込まれ、うっかり罠に引っ掛かって死んでしまうことは珍しくない。


だが、戦い方が上手い冒険者であれば、強力なトラップを利用してモンスターを倒すこともできる。


「っと、お客さんだな」


前方から二体のマグマゴーレムが現れた。

二体ともレベルは三十後半。


(……地面が、焼け焦げてないな……いや、今はそこら辺を気にする必要はないか)


グラディウスを抜き、臨戦態勢に入った瞬間……一体のマグマゴーレムが視界から消えた。


「ッ!?」


何か特別なスキルを使って、自分の反応速度を振り切る速さで動いたのか?

そう思って周囲をぐるっと見回したが……消えたマグマゴーレムはいない。


「あの、ソウスケさん。おそらくなのでが、落とし穴系のトラップに落ちたのではないでしょうか」


「えっ……あぁ~~~、うん。そうっぽいな」


気配感知の効果範囲を広げると……そこそこ下の位置でマグマゴーレムの気配を感じ取った。


(俺たちが罠の場所まで追い込まれる訳ではなく、俺たちがモンスターをそこまで誘導する訳でもなく……勝手に落ちる、か……ぶはっはっは!!! コント過ぎるだろ!!)


先程までシリアスな雰囲気……というほど空気は張りつめていなかったが、いつでもモンスターが襲ってきても大丈夫なように身構えていた。


だが……いきなり目が合った敵が落とし穴に落ち、目の前から消えられると……爆笑を堪えるしかなかった。


「はっ……はっ……だ、駄目だ。腹痛い」


「ふっふっふ、同感、だ」


ソウスケとザハークは目の前で起きた光景を理解し、爆笑を堪えるのに必死だった。


そしてミレアナは……目の前で起きた状況に呆れていた。

罠感知などのスキルを持つモンスターは多くないが、それでも目の前で落とし穴のトラップに引っ掛かって消え……上がってこれない。


さすがに失笑するしかなかった。


「……ッ!!!!!」


いきなり相方が消えたもう一体のマグマゴーレムは少しの間オロオロしたが、思考を切り替えて一人でソウスケたちを潰すことにした。

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