六百九十七話 前を向けている者と……
「上級者向けダンジョンの攻略か……俺たちにとっては、夢だな」
「夢、ですか」
「あぁ、夢だな。そりゃこれでもCランクだから上級者向けダンジョンを探索することはあるさ。でも、完全に攻略ってなるとな……」
「簡単に言っちまえば、俺たちの実力じゃまだまだ足りねぇんだよ」
ラップの言葉をジャンが代弁した。
烈火の刃のメンバーたちが弱い訳ではない。
まだ全体的に年齢は若く、まだまだこれからと言ってもおかしくはない。
だが……それでも上級者向けダンジョンの下層に挑もうとするのは、さすがに無謀と言える。
中層辺りまでであれば、緊張感を途切れさせなければ誰も死なずに探索することは出来る。
「四十層、五十層もあるダンジョンじゃと、下層は鬼や怪物の住処と言うからのう……ソウスケたちは、三十層以降を探索したのじゃろ」
「はい。今回の盗賊団討伐に参加する前まで、その辺りを探索していました」
「その辺りで、こいつは強いなと感じたモンスターはどんな奴らじゃ」
「そうですね……異様に体が大きいマグマゴーレム。おそらく、ランクBぐらいの攻撃力を持ってました。後……ヒートミノタウロスや、ファイヤドレイクとかは強いと感じましたね」
ファイヤドレイクと実際に戦ったのはザハークだが、それでも戦いを観ていた限り、相手が空を自由自在に飛べるという点も含め、それなりの強さを持っていると感じたのは本心だった。
(ふむふむ。確かに三十層以降で通常のマグマゴーレムよりも大きい個体が出現するという話は偶に耳にする。後のヒートミノタウロスやファイヤドレイクのランクはB。強敵と言っても過言ではないじゃろう……ふふ、こいつらが驚いてしまうのも無理はないわな)
やはり強いというのは解っていても、自分たちでは勝負にすらならない相手と、同世代の者が戦っている。
そんな話をサラッと信じるのは、ジープたちにとって少々難しい。
(ラップたちが全力を出し切ることが出来れば倒せるかもしれんが……誰か一人殺られる可能性の方が高いじゃろう。特にファイヤドレイクなど空を飛ぶ強敵は非常に厄介じゃ。まぁ、ソウスケたちなら余裕……良い刺激を感じられる相手といったところか)
オーザストの考えは的を得ており、Bランクのモンスター……もしくはBランク並みの力を持っているモンスターは、丁度良い実戦相手。
特に命の危機を感じるような相手ではない。
「三十層から四十層の間でも稀にAランクのモンスターが現れるらしいので、油断は出来ませんよ」
「そりゃそうかもしれないが……ザハークなら、嬉々とした目で挑むんじゃないか?」
「ははは、それはそうですね。ザハークは俺より強敵との戦いを楽しんでいますから」
「生粋の戦闘狂って奴か? なぁ、他にはどんな強い奴と戦ってきたんだ?」
圧倒的な実力がありながらも、今まで特に昇格には興味がなかった。
今でも大してランクには興味がない。
そんな少年やその仲間が今までどんな強敵と戦ってきたのか。
同じ冒険者として興味が出ない訳がない。
「そうですね……」
何度かこういった話が話題になったことがあるので、ソウスケは過去の記憶をほじくり返すことはなく、以前口にした同じ強者の名前を伝えていった。
その名前にようやくケツの殻が取れたルーキーのフォルクスたちだけではなく、ラップたちも圧倒され……改めて上には上がいるのだと思い知らされる。
しかしラップたちはそういった存在がいるのを知っている為、どうやって倒したのか等を聞き、自分の力に出来ないかと前を向いている。
オーザストもラップたちほど前を向いてはいないが、ソウスケから聞ける体験談が後輩たちを守る手段に繋がるかもしれないと思い、話を聞いていて飽きることはない。
だが…………Cランクの者たちの様に、ソウスケたちの話を聞いて全員が前を向けている訳ではなかった。
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